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“聞く力”がアピールポイントだったはずの岸田首相(写真:時事通信

「一般家庭の電気料金を対象とした国からの補助が、10月請求分(9月使用分)から半減する予定です」(全国紙記者)

燃料価格の変動に応じて電気料金は決まる仕組みだが、世界的な原油高と急激な円安の影響を受けて2021年の中ごろから電気料金が高騰。東京電力では、モデル世帯の電気代が昨年の夏に9000円の大台を突破している。

「家計負担の増大を受けて、今年2月請求分(1月使用分)から政府は『激変緩和措置』として電力会社に補助を行い、電気料金の抑制をしてきました。しかし、これはあくまで時限措置。予定どおり10月に補助が半減された場合、モデル世帯の料金は、東京電力では9月分と比べ777円上がって7573円、関西電力では910円上がって6146円になる見込みです」(同前・全国紙記者)

さらに11月請求分(10月使用分)から補助そのものが撤廃される予定だ。関東学院大学経済学部教授の島澤諭さんはこう警告する。

「家計調査、資源価格、GDPの推移をもとに計算すると、年末にかけて、前年同月に比べて1割ほど電気料金は上がると見込んでいます。補助がなくなると、家計に大きな痛手でしょう」

補助がない状態で、昨年末から電気料金が1割上がるとしたら、東京電力のモデル世帯の料金は約1万円になる。現在の料金からおよそ3000円もの高騰だ。ただし、ガソリン代と同じように、補助が延長される可能性も残っているという。

「9月終了の予定だったガソリン代の補助は価格高騰を受け、10月以降も延長される見込みです。背景には30%を割り込みそうな岸田政権の支持率低下もあるでしょう。同様に、11月に予定されている電気料金の補助撤廃も延期される可能性がありますが、補助金はあくまで補助金。いずれは打ち切られてしまうものです」(島澤さん)

アベノミクスの後遺症がやってきた

なぜ、これほどまで電気料金が上がったのだろうか。その原因は、原油価格の上昇とともに、円安の影響が大きいという。円安の主要因は、アベノミクスによる「異次元の金融緩和」だ。

「市場に流れる金を増やすため、日本銀行は超低金利政策をとってきました。低金利になれば、企業が銀行などから融資を受けやすくなるので、経済が活性化するとみられていたのです」(島澤さん)

しかし、景気は思ったようによくならず、異次元の金融緩和は10年近く続いた。

「その結果、低金利を前提とした企業経営が常態化されてしまった。そのため、ひとたび金利が上がると、銀行への利息の支払いに行き詰まる企業がたくさん出てきます。また、1千兆円ある国の借金(国債)も同じで、金利が1%上がれば0.7兆円、翌年には2兆円、翌々年には3.6兆円と借金が増えてしまうのです」(島澤さん)

こうした理由もあって、コロナ後の物価高を抑制するため各国が金利の引き上げに走るなかでも、日本は低金利を維持してきた。その結果、金利が高い米国ドルなどが買われ、円が売られることで、円安となっている。経済紙の記者はこう指摘する。

岸田首相は就任直後から、アベノミクスを見直す機会はありました。しかし、安倍晋三元首相の後押しで総理になった岸田首相は、安倍氏の手前、方針転換をすることができなかった。安倍氏の没後も金融政策を変えられないのは、党内の最大派閥である安倍派などへの配慮もあったのでしょう」

円安や物価高は一向に是正されず、それに伴う電気料金やガソリン料金の高騰には国庫からの補助で対応している。もちろん、その原資はわれわれの税金だ。

■かたくなに減税は拒否する岸田首相

島澤さんは、補助のあり方に疑問を呈す。

「補助金は直接国民に渡すのではなく、企業に渡っています。本当に、無駄なく使われているのか、検証が必要でしょう」

今年4~6月期の決算で、東京電力1362億円と大幅な黒字を出した。このことに、違和感を覚えた人は多いはずだ。政治ジャーナリストの角谷浩一さんはこう指摘する。

「ガソリン代については、レギュラー1リットルあたりの価格が160円を3カ月連続で超えると、25・1円の課税を停止する『トリガー条項』が存在します。こうした減税をすればいいのに、トリガー条項を凍結してまで減税を避け、税金を投入して企業に補助金を出すという対策を取っているのです」

こうした補助金には効果に疑問符つくものが多い。

「たとえば森まさこ議員が会長を務める自民党少子化対策議連の提案によって誕生した企業への『ブライダル補助金』は、少子化対策に効果的と思えません。しかも、森議員の政党支部がブライダル大手から献金を受けていた。これは国民のことを考えた政策なのでしょうか」(角谷さん)

昨年度の国の税収は、一般会計で71兆1374億円となり、3年連続で過去最高を更新した。一方、国民は光熱費や食費などあらゆるものの価格上昇に苦しんでいる。岸田首相大企業自民党内ばかり向き、国民を無視し続ける限り、この窮状はまだまだ続きそうだ。