防衛省が発表した令和6年度の概算要求で、ついに新艦種「イージス・システム搭載艦」の概要が明記されました。2024年から建造を開始しますが、史上最高額の自衛艦となりそうです。いったいどんな艦なのでしょうか。

従来のイージス艦とは似て非なるもの

防衛省は、2023年8月31日に公表した「令和6(2024)年度概算要求」で、イージス・システム搭載艦2隻の取得経費として3797億円を計上しました。資料によると1万トン越えの大型艦となりそうです。

そもそもイージス・システム搭載艦とは、高度化する弾道ミサイルなどの脅威から日本を防護することを主眼に置く艦艇として計画されました。早期就役を目標にしているため、2024年度から建造に着手する模様で、2027年度に1番艦が、2028年度に2番艦が就役する予定です。

では、このイージス・システム搭載艦と従来のイージス艦は何が違うのでしょうか。

防衛省によると、こんごう型やあたご型といった従来のミサイル護衛艦イージス艦)は、「艦隊防空、平素の警戒監視、海上交通の安全確保、BMD弾道ミサイル防衛)などのさまざまな任務を担う」艦艇と位置付けています。そのため日本のミサイル防衛能力の強化を図るために整備し、基本的には洋上で長期にわたってBMD任務に就くことになる「イージス・システム搭載艦」は、従来のイージス艦とは異なる役割を持つ艦艇となるそうです。

イージス・システム搭載艦の3Dイメージを見ると、後述する「SPY-7」レーダーが艦橋の上部に置かれており、スペインアルバロ・デ・バサン級フリゲートオーストラリアのホバート級駆逐艦のような外観になっています。

巡航ミサイル「トマホーク」も搭載予定

2024年度概算要求では、2隻分の建造費用とFMS(対外有償軍事援助)技術支援、搭載装備などを合わせた取得経費3797億円に加えて、各種試験準備やテストサイトなどの運用支援設備、システム技術教育などの関連経費として約1100億円も計上されており、イージス・システム搭載艦の経費は合計で約4900億円となっています。

すでに今年(2023年)4月には、船体、動力、武器などの艤装設計に関する設計基礎資料の作成と、1番艦の詳細設計を17億500万円で三菱重工と契約済みとのこと。なお、ジャパンマリンユナイテッド(JMU)とも船体の残存性能の評価に関する設計基礎資料の作成や、1番艦の詳細設計について6億8200万円で契約しています。

キモとなるのは、ロッキード・マーチンが開発した「SPY-7」レーダーです。これは陸上で運用することを前提に購入を決めたものですが、ロッキード・マーチンは洋上に転用しても問題なくシステムが作動するとしており、これを船体に搭載する予定です。

同艦では「SPY-7」とイージス・コンバット・システム(ACS)を統合したシステムを構築し、日米が共同で開発した弾道ミサイル対処の弾道弾迎撃ミサイル「SM-3ブロックIIA」を装備してBMD任務に当たります。

なお、既存のイージス艦である、まや型護衛艦と同様に他艦艇が追尾した対空目標をリモートで射撃・誘導が可能となる共同交戦能力(CEC)も備えるそうです。

さらに島嶼防衛で地上部隊への対処に使用する巡航ミサイルトマホーク」、航空機や巡航ミサイルだけでなく極超音速滑空兵器(HGV)も迎撃可能な対空ミサイル「SM-6」、脅威圏外から相手艦艇へ攻撃できる「12式地対艦誘導弾(SSM)能力向上型」、ドローンによる飽和攻撃に対処する高出力レーザーなども装備できるようにしたとか。

また、中国・ロシアの極超音速滑空兵器(HGV)に滑空段階で対処するため、新たに日米で共同開発するイージス艦発射型の迎撃ミサイルGPI(滑空段階迎撃用誘導弾)を搭載することも想定されています。

乗員室は「個室化」 神設備も

イージス・システム搭載艦の船体規模について詳細は明らかになっていないものの、防衛省の資料によれば、アメリカ海軍が整備中のアーレイバーク級駆逐艦(フライトIII)の1.7倍とされていることから、単純計算で基準排水量は1万1900トン程度となります。この数値を鑑みると、既存のイージス艦である、まや型護衛艦(基準排水量8200トン)より大きくなることは間違いないでしょう。このため搭載するVLS(垂直発射システム)の数は128セルと、まや型護衛艦の96セルに比べて増えています。

防衛省は船体が大型化した背景として、「多様なミサイルの脅威に対し常時持続的に対応するため、稼働率の向上をはじめ、荒天時の気象・海象でも影響を受けにくい耐洋性、艦艇乗組員の居住環境などの改善、将来装備品を搭載できる拡張性などの要素を総合的に考慮した結果」と説明しています。

実際、艦艇乗組員が長期間、洋上勤務になること想定し、居住性を向上させるため個室化を図っていく方針で、各部屋にはWi-Fiが設置される予定だとか。一方で、乗員数は省人化に対応できる設備を整えることで、既存のイージス艦の300人から240人まで減らす予定です。

船体には電磁パルス攻撃(HEMP)に対する電磁シールド設計を取り入れるとともに、ハイブリッド推進を採用し良好な燃費性能を発揮するとしています。

なお「トマホーク」「12式SSM能力向上型」「高出力レーザー」に関しては2032年以降に搭載するとのこと。これに限らず船体を大型化したメリットを生かし、将来の拡張性を保持することで、新たな装備品が登場しても追加で搭載できるようにします。

ちなみに防衛省によれば、すでに計上された分を含めて機械的に積算すれば、取得経費は1隻当たり約3950億円だそう。当初の陸上配備型イージス・システムイージス・アショア)計画とその中止から、さまざまな曲折を経てイージス・システム搭載艦の建造がいよいよ動き出します。

防衛省が公開したイージス・システム搭載艦のイメージCG(画像:防衛省)。