「あなたの年収、いくらですか」――。全会社員の平均年収が約500万円の日本で、ずば抜けて稼ぐ人の給料事情を尋ねる本連載。今回は30代半ばにして年収3,000万円超と、平均的な開業医よりも稼ぐ眼科医・Y氏に、給料の推移や収入の内訳、稼いだお金の使い方について話を聞いた。

医師1年目の年収は450万円→5年目で2,000万円を突破

厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』によると、会社員(男女計、学歴計、産業計)の平均給与は月31万1,800円(所定内給与額)、賞与も含めた年収は496万6,000円。同じ統計で「男性医師」をみてみると、平均月給は102万8,500円、賞与や諸手当を加えた年収は1,515万8,180円と、医師は平均的な会社員の3倍以上の給与を得ていることがわかる。

同じく厚生労働省の「第23回医療経済実態調査の報告」で勤務医と開業医(院長)の平均年収をみてみると、勤務医は約1,467万円で、開業医は約2,690万円。

開業医の場合、クリニック設立のための借入金の返済やクリニックの老朽化に備えた積立金など、勤務医なら考える必要のないコストを負担することになるため、表面的な年収のみを比べて「開業医の方が儲かる」と言い切ることはできないが、開業医の年収は、平均的な勤務医より1,000万円以上高い水準である。

ただ、勤務医ながら、開業医をしのぐ収入を得ている人もいる。今回話を聞いた、香川県の眼科医・Y氏である。

「昨年度の給与所得は3,000万円ほどですね。研修医から6年間勤めていた大阪の総合病院では9:00~21:00で勤務しながらアルバイトをしていたので、休日は年間でも数えるほどしかありませんでした。2年前、もう少し“ゆるい”暮らしがしたくなっていまのクリニックに転職し、現在は月曜から金曜の9:00~18:00で勤務しつつ、休日にバイトをする、という生活を送っています」

医学部を卒業し、初期研修医となったのは24歳。医師1年目のY氏の年収は450万円だった。その後、年収は2年目に650万円、3年目には1年目の2倍にあたる900万円になった。4年目以降も順調に増え続け、5年目には2,000万円の大台を突破したという。

「一昨年、6年間勤めた総合病院から5人規模のクリニックに転職しましたが、昨年は本業の年収が2,500万円程度、そのほかアルバイトやライター・講演、アフィリエイトなどの副収入が合わせて500万円ほどでした」

半数以上の医師がアルバイトを行っている

Y氏だけではなく、勤務医の中には本業の勤務時間の合間に「アルバイト」に勤しむ人が多い。

独立行政法人 労働政策研究・研究機構『勤務医の就労実態と意識に関する調査』(2012年)によると、「1ヵ所」のみで勤務医している医師は47.9%に留まっている一方、「2ヵ所」が20.9%、「3ヵ所」が14.4%、「4ヵ所」が7.6%、「5ヵ所以上」が9.2%と、過半数が複数の勤務先で働いていることがわかる。

経済的に困っているとは考えづらい医師が、余暇時間をアルバイトに費やすのはなぜだろうか。

Y氏の場合、「医療現場は常に人手不足ですから、そこに患者さんがいて、僕のスキルが役に立つのであれば、というのがアルバイトを行う理由です。医師は“週休2日”という概念を持っている人は少ないように感じますね」と話す。

もちろん、副収入を目的にアルバイトに勤しむ医師も多いという。

「大学病院などは給料水準がうんと低いですから、とくに家庭を持っている医師などは、非常勤医師としてアルバイトを行う人も多いですね。時給は若手なら8,000円~、中堅医師なら1万~1万5,000円程度というところでしょうか。アルバイトで日給10万円稼ぐような医師もいますよ」

Y氏のアルバイトは、眼科クリニックでの勤務が中心。その他、スポットのアルバイトもいくつか行っているが、なかには「合間に読書ができるくらい余裕がある」ものも。時給は1万~1万2,000円で、アルバイトだけで年間300万円程度の収入を得ているという。

Y氏はクリニックでのアルバイト以外にも、ライター業や講演業、自ら運営するブログにおけるアフィリエイトも行っており、そうした副収入は少なくとも月5万円、多い月は30万円に上ることもあるという。

最近の高額な買い物は「15万円のPC」

30代半ばにして、3,000万円超の年収を得ているY氏。相当派手な生活を送っていてもおかしくはなさそうだが、実際は「質素」そのものである。

そもそも家賃相場の低い香川県に暮らしている上、勤務先のクリニックからは家賃補助が出ており、自身で負担する住居費はわずか3万円。クリニックへの通勤に使う車は中古で購入したトヨタの『AQUA』で、服は『ユニクロ』。食事はほとんどを「ふるさと納税」の返礼品で賄っているというから、とにかくお金がかからない。

最近の高額な買い物について聞くと、「15万円くらいでPCを買いました」とのこと。

医学部時代の同期や総合病院時代の同僚の中には、高級な外車や腕時計を好み、Y氏と同等の収入を得ながらもカツカツな生活を送る、金遣いの荒い人も少なくないという。

「僕にとって車は『僕を目的地まで運んでくれる箱』に過ぎませんから、普通に走って曲がって止まればOKなのです」

このように語るY氏。車の購入にあたってはインターネットでの調査やディーラーの説明によって燃費や価格、走行性能等を比較し、総合点がもっとも高かった『AQUA』に決めた。最近の高額な買い物であるPCについても、徹底した調査により価格とスペックのバランスを総合的に比較して、購入する機種を決めたという。

「見栄を張るための消費はまったくありません。私は“スペック厨”であり、ネットで徹底的に調査した上で、購入の判断を下します。ブランドに左右されることはなく、納得いかないものには1円も使いませんが、反対に、本当に必要だと判断したものは、金額がいくら高くても迷わず購入します」

「節約ストレス」を感じることなく、月100万円の投信純増

住まいや自動車、その他の嗜好品に対する「無駄遣い」をまったくしないY氏。

資産形成の鉄則といわれることもある「先取り貯蓄」はまったく行っていない。普通に生活して残ったお金で投資信託を買い増しているだけで、したがって、「節約」に伴うストレスを感じることなく、毎月100万円近いペースで資産が増えていくという。

「かつてはマーケット分析もしながら、セクターETFや高配当銘柄への投資もしていましたが、現在の資産は、ほぼ100%『eMaxis slim全世界株式(オール・カントリー)』です。僕は時間単価の高い人間だと思いますので、銘柄の調査に充てる時間は無駄だと判断しました。一生懸命調べて利回り6~7%という商品よりも、利回りは3%くらいでも、完全ほったらかしにしておける商品を選びますね」

投資へのこだわりについては一言、タイムパフォーマンスだという。また、高所得者・富裕層であれば税金対策などの目的で多くの人が取り組んでいる不動産投資もまったく行っていないという。

「僕はお人好しで『No』といえないタイプなので、営業さんに押されたら変なモノを買わされてしまう気がするんです(笑)。不動産は投資信託に比べて流動性が低く、手間も時間もかかりそうなので、興味がないですね」

そんなY氏が、ふるさと納税以外で行っている唯一の税金対策が「小規模企業共済制度」。その名の通り、小規模企業の退職金制度である同制度には、月1,000~70,000円の掛け金を全額所得控除できるというメリットがある。

Y氏は法人を設立してこの制度を利用しているが、その節税効果は微々たるもの。実際、前年の年収が約3,000万円だったY氏の手取り収入は1,600万円ほどであり、「ほとんど税金で持っていかれてしまうので」という理由で、今後も額面年収を増やすことにはほぼ関心がないという。

サラリーマン家庭の出身で、超庶民的な金銭感覚を持つ眼科医・Y氏。「学生時代に一度だけ貯金が尽きかけたことがあります」と振り返るが、医師になってからお金のピンチは一度もなく、それどころか、平均的な開業医を大きく上回る水準の給与を得て、30歳代中盤にして総資産額は1億円を突破している。

今後も医師としての収入が継続することを考えるともはや“勝ち組”と呼べる領域に入っているようにみえるが、貯めたお金を使って、なにをしようとしているのか。

「なにか目的があって貯めているというよりは、使わなかった分が積み重なっているだけです。僕は手術が好きで、患者さんに感謝されることが嬉しいので、開業してバリバリ稼ごうとは考えておらず、今後もイチ勤務医として、臨床に集中するつもりです」

給与を増やす方法は、地に足をつけて愚直に仕事に励む以外にはないのかもしれない。