名古屋土産の定番として親しまれている“ういろう”。米粉や砂糖、でんぷんを主原料としており、もっちりとした食感が特徴的な和菓子だ。しかし、実は“ういろう”を作る菓子店は神奈川県京都府三重県山口県など日本各地に存在している。「じゃあなんで名古屋名物なの?」と驚いた人もきっといることだろう。

【写真】旧国鉄時代の名古屋駅の様子。現在とはまったく雰囲気が違う

そこで、“ういろう”の歴史を紐解くべく、「名古屋ういろの元祖」である「餅文総本店」と、創業から約140年の歴史を持つ「青柳総本家」(ともに愛知県名古屋市)に取材。“ういろう”の発祥はどこなのか、なぜ名古屋名物になったのか、詳しく教えてもらった。

■“ういろう”が日本で初めて作られた場所は?

ういろう”が日本に伝わったのは約600年前。応安年間(1368〜1375年)に、元(現在の中国)の医師・陳延祐(ちん・えんゆう、またの名を宗敬)という人物が、日本に亡命したことがきっかけだ。延祐は、元で「礼部員外郎(れいぶいんがいろう)」という薬の調達をする役職についていたことから、日本では陳外郎(ちん・ういろう)と名乗るようになる。亡命後は博多(現在の福岡県)に住み、咳や痰に効く薬を伝えたそうだ。

1395年、延祐の子である陳外郎大年宗奇(ちんういろう・たいねんそうき)が京都に招かれ、家伝の薬を作り、足利義満に献上。その際、大年宗奇は米粉と黒糖で作った菓子の製法も伝えた。この「ういろう餅」と呼ばれた菓子こそが、“ういろう”の元祖だ。当時、黒糖は貴族の栄養剤として使われており、“ういろう”は薬屋さんだからこそ作れたお菓子だったと言える。また、薬とともに「ういろう餅」を伝えた理由は、「薬の口直しのため」や「使節の接待のため」などと言われている。

このように、“ういろう”が世に知られるきっかけとなった場所は京都だが、日本で初めて作られた場所は定かではない。そのため、発祥の地に関しては諸説あり、大年宗奇が将軍に献上した京都説、延祐が最初に過ごした博多説の2つが有力な説として語られることが多いそうだ。

■“ういろう”はなぜ名古屋名物に?

博多や京都が発祥と言われている“ういろう”だが、現在は名古屋名物としてのイメージが強い。しかし、名古屋に“ういろう”が伝わったのは1650年頃で、「餅文総本店」の初代・餅屋文蔵が明出身の陳元贇(ちん・げんぴん)から、“ういろう”の製法を教わったのが始まりだ(なお餅文総本店では、“ういろう”のことを“ういろ”と呼ぶ)。ではなぜ、“ういろう”は名古屋名物として知られるようになったのだろうか。

きっかけとなったのは、名古屋で“ういろう”を作る和菓子店「青柳総本家」の活躍だ。「青柳総本家」は、1879年に創業し、蒸し羊羹や“ういろう”を製造していた。1931年、「青柳総本家」の3代目・後藤為彦が“ういろう”の販売数を拡大するため、国鉄名古屋駅構内で立ち売りを開始。このときの立ち売りは大盛況だったそうだ。

その後、1964年東海道新幹線が東京〜新大阪間で開通すると、「青柳総本家」のみが“ういろう”の車内販売に乗り出す。これが“ういろう”の名古屋名物化に大きく貢献したという。加えて、1968年には“ういろう”のフィルム密封製法を開発。より日持ちするようになったことで、土産としての需要はさらに増していった。

ういろう”の車内販売はずいぶん前になくなってしまったが、名古屋駅キヨスクなどでは土産にぴったりな“ういろう”が多数販売されている。今も昔も、“ういろう”は名古屋土産の定番として愛され続けているのだ。

■「餅文総本店」と「青柳総本家」の“ういろう”商品

名古屋で初めて“ういろう”を作った「餅文総本店」は、本店のほか名古屋市内に直営店を3店舗構えており、ジェイアール名古屋タカシマヤなどでも商品を購入することができる。

看板商品である「献上ういろ」は、「白」「黒」「抹茶」(1棹 各1080円)、「栗」(1棹 1620円)と全部で4種類の味がある。手頃なハーフサイズもあるので、家族の人数によって大きさを選べる。

土産にぴったりな「ひとくち生ういろ」は、最近では1番人気の商品。「白」「こしあん」「抹茶」「桜」「きなこ」の5種類の味があり、5個入(540円)、10個入(1080円)、バラ売り(直営店限定、1個108円)がある。個包装になっているので、土産として配る際も便利だ。

ういろう”の名古屋名物化のきっかけを作った「青柳総本家」は、大須本店のほか名古屋市内に3店舗、東京都に1店舗の直営店を構える。また、ジェイアール名古屋タカシマヤ、名鉄百貨店 本店などでも商品を購入することができる。

新幹線車内販売された「青柳ういろう」は、現在も同社の看板商品の1つ。定番の味は、「しろ」「くろ」「抹茶」「上がり」「珈琲」「ゆず」「さくら」(1箱2本入 各432円)の7種類。そのほか、「小豆」(1箱2本入 648円)、「栗」(1箱2本入 918円)といった味もある。

「青柳ういろう ひとくち」(5個袋入り 497円)は、「青柳ういろう」の人気の味「しろ」「くろ」「抹茶」「上がり」「さくら」をセットにした人気商品。かわいらしいカエルの絵が描かれたパッケージに入ったものもある。

いまや名古屋土産として多くの人に親しまれている“ういろう”。その背景には、新幹線車内販売という意外なきっかけがあった。名古屋に訪れた際には、昔ながらの味が楽しめる「餅文総本店」の“ういろ”や、新幹線車内販売されていた「青柳総本家」の“ういろう”をぜひ買ってみてはいかがだろうか。

取材・文=溝上夕貴/撮影=古川寛二

※記事内の価格は特に記載がない場合は税込み表示です。商品・サービスによって軽減税率の対象となり、表示価格と異なる場合があります。

新型コロナウイルス感染対策の実施については個人・事業者の判断が基本となります。

現在では、米粉本来の味が楽しめる「しろ」が定番の味だが、初めて“ういろう”が伝わった際は黒糖が使われていたようだ。写真は「餅文総本店」の「献上ういろ」が作られている様子/photo by Kanji Furukawa / (C)KADOKAWA