都会でのサラリーマン生活に疲れ、地方に移住して自然に囲まれながらのんびりと農業をやりたい……そんな思いで一念発起し脱サラ、地方へ移住して農家になる人が近年増えています。しかし、地方で実際に暮らし、農業を始めてみると、理想と現実とのギャップに苦しむ人も少なくはないと、地方移住や2拠点・多拠点生活に関する情報発信メディアを運営する合同会社Stone intechの中嶋遼太代表はいいます。そこで本記事では、そんな失敗に陥らないために、あらかじめ知っておくべき田舎暮らしの実情を解説します。

地方移住して農業を始める…情報収集編

筆者が漠然と「地方に移住して農業を始めたいな」と思って最初にしたことは情報収集です。とはいえ、どのようにして情報を収集するのがいいのか迷う人も多いようです。そこで、筆者が実際に実行して役立ったことに絞って解説します。

まずは農業系情報サイトに登録する

まずは、なにはともあれ、農業系情報サイトに登録をしてください。農業系の情報サイトは、いろいろありますが、特に役立ったのが「マイナビ農業」、「農業をはじめる.JP」この2つに関しては、全国の新規就農希望者に相談会や体験会などのほか、実際に脱サラして農業を始めた人のコラム記事などを提供してくれます。

筆者は実際、この2つの情報源を使って最終的に現在の研修先に繋がることができました。ほかにも「アグリジャーナル」、「アグリナビ」、「全国農業新聞」のほか、農林水産省のホームページなども役立ちました。

移住したい地域を調べる

農業を始めると言っても人によって、始めるためのスタート地点が異なります。移住したい地域が頭にある方は、まずは、その地域の情報を調べるところから始めるのがいいでしょう。

主に「移住したい地域で作られている農産物はなにか?」、「自治体のサポート体制」や「移住して農業を始める人の人数や実績」などを中心に調べてみましょう。ネットでもある程度、情報が調べられますので、後ほど解説する相談会や体験イベントに参加する前の事前知識にもなります。

事前にある程度の情報を仕入れておき、疑問に思った部分を質問する形でイベントなどに参加すると、そのイベントが、より有意義なものとなるはずです。

作りたい作物を考える

人によっては作りたい作物から就農を考える人もいるでしょう。選ぶ農産物によっては移住する地域が自然と決まってきます。たとえば、りんごであれば青森県岩手県、そして長野県柑橘類だと比較的温暖な地域など、作りたい作物によって栽培できる地域が限られてくるからです。

どうしても作りたい作物がある場合は、その作物の生産が盛んな地域を調べてみるのがいいでしょう。移住したい地域が漠然としている方には、作物から入っていくと決めやすくなるかもしれませんね。

地方移住して農業を始める…体験編

さて、ある程度ネットなどで情報を収集したら、次は実際に体を動かして体験していくステージに移ることをおすすめします。具体的には以下の3つをやってみてください。

1.農業系相談会に参加する

2.体験イベントで現地に足を運ぶ

3.農業を体験する

ひとつひとつ解説します。

1.農業系相談会に参加する

まず1番はじめにやるべきことは、就農相談会などの農業系の相談会に参加すること。これらの相談会については、上記で紹介した「マイナビ農業」、「農業をはじめる.JP」などで不定期に案内がされています。

複数の地域が合同で開催するものや、個別の自治体で相談者を募集しているものなどさまざまです。イベントは都市圏の会場や自治体の役所で実施されることが多いです。最近はコロナウイルスの影響で、オンラインで相談会をしているところもあります。

2.体験イベントで現地に足を運ぶ

相談会に出たら、次は気になった自治体の体験イベントなどに行きましょう。「実際に現地に行く」これがなによりも大事です。聞くと見るとでは「全然印象が違った」なんてことはザラです。また自治体の人と話すことでサポート体制の手厚さ、地元農家と話すことで農業の実態なども肌で感じることができます。

筆者は就農場所を決めるまでに、20ヵ所近くの自治体を訪問させていただきました。また、多くの地域に行くことで、それぞれの場所に対する自分のなかでのモノサシができ上がっていきます。なるべく多くの体験イベントに足を運ぶことをおすすめします。なかには1泊2日で行われる楽しいイベントを実施してくれる自治体もありますよ!

3.農業を体験する

相談会や体験イベントへの参加と並行して進めて欲しいのが、農業体験です。もしあなたがすでに本気で農業を始めるつもりであれば、週末だけでもいいので農家でお手伝いをさせてもらいましょう。しかも長期間。

筆者はネット検索で当時住んでいた付近の農家さんを調べて、受け入れてもらえないか片っ端から電話をして、現在の師匠と出会いました。まだ、ちょっと躊躇する気持ちがあるのなら、まずは市民農園を借りる、もしくは家庭菜園からでもはじめてみてください。特に実際の農家さんのもと、農作業のリアルに触れておくことは、絶対にした方がいいです。

「体力的に本当にやっていけるのか」、「農作業を楽しく感じられるか」などは、1日手伝ったくらいでは本当のところは絶対にわかりません。また、ちょっとイヤらしい言い方ですが、将来就農するときの面談などで「実際に農作業を長期間やっていた」という経験は必ず活かされます。もちろん就農後は、その経験が活きることは言うまでもありません。

地方移住して農業を始める…準備編

さて、ひととおり情報を収集して、農業体験などもして、「次はどうするかな?」とお考えでしょうか? それとも、そこに行きつく前に、以下の問題にぶつかっていますでしょうか? 

・家族があまり気が進まないようだ

・お金の不安がある

・移住してからの生活が不安

わかります。筆者も同じ経験をしました。そこで、筆者の実際の経験を踏まえ、どのように乗り越えたかを解説します。もちろん、みんな環境は違いますが、なにかしらの参考になれば幸いです。

家族の協力を得るには?

筆者の場合、まずは「サラリーマンを辞めて農業をやりたいと思っている」ということを妻にストレートに伝えました。そして同時に「2~3年後を目標としていろいろ準備をする」ことも伝えました。妻は驚いていましたが、2~3年後ということで、差し迫ったことではないと心にある程度余裕が持てたようです。また、その2~3年と設定することで、その間に農業に対する「本気の姿勢」を家族に見せることができます。当然、2~3年の間、農業に対する思いを家族に見せ続ける必要があります。

筆者は平日サラリーマンをやりながら週末は、師匠のもと、農業修行を2年半継続しました。現実に対する「逃げ」ではないか自分に確認する意味でも、この2年半は意味のあるものでした。筆者は2年半、ずっと週末に農業の手伝いを継続したこと、その間、情熱も冷めなかったことなどから、「来年いまの仕事を辞めて農業を本当に始めようと思う」と言ったところ、すぐにOKがでました。特に説得はしていません。妻はずっと筆者の様子を見ていたのです。

お金の問題を解決する…①出費を抑える

コスト家族の協力と比べれば、お金の問題はたいしたことはありません。人それぞれ収入が違いますので一概には言えませんが、共通してできることを以下に解説します。既に節約していると思っている人も、家計の見直しをしましょう。特に固定費の見直しは、精神的な苦痛も一切ないので、すぐにでもやってください。具体的には以下の費用は必ずチェックしましょう。

<チェック項目>

スマホ

ネット

ガス

電気

保険

家賃

特にスマホと保険に関しては強力です。大手キャリアを使っているなら即格安SIMに変更しましょう。それだけで月々5,000円、年間6万円の節約が最初の変更手続きのみで可能です。家族も入れると2倍、3倍になります。保険料も無駄な保険がないか、見直してください。収入保険、医療保険に関しては無駄な保険に加入している可能性がありますので、必ず見直しましょう。家賃に関してはハードルが高い人も多いと思いますので、最後に検討する程度で問題ないと思います。

固定費の見直しは、一旦見直すとその後が楽で、また精神的にケチケチせずに済むという大きなメリットがあるので、すぐに実行してください。

お金の問題を解決する…②副業で稼ぐ力をつける

出費を抑えることができたら、次は可能な限り「稼ぐ力」をつけましょう。いわゆる副業です。筆者がおすすめするのは、家でできる副業。たとえば以下のような副業は家でできます。

・Webライター

プログラマー

動画編集

・SNS運用

・サイトデザイン

・せどり

なぜ家でできる副業をおすすめするのか? それは移住後しても、続けることができるから。たとえば、普通のアルバイトだと移住後に探さなくてはいけません。そしてなによりも体力的に非常にキツイからです。農業は特に慣れないうちは、本当に体にかかる負担が大きいです。1日の農作業を終えてから、あるいは休みの日にアルバイトをするのはおすすめしません。

上記であげた副業であれば、「移住してもできる」、「体力的にきつくない」という2点を満たします。もちろん、簡単ではありませんが、しっかりと1年も続ければある程度の収益を得ることは可能です。実際、筆者はWebライターとして1年で収益10万円を稼げるようになりました。

移住後に農業での収入が安定しないあいだは、副業で稼げることがどれほど心強いか想像してみてください。お金の不安が減ると本当に移住に対するハードルは下がります。ぜひ挑戦することをおすすめします。

地方移住して農業に失敗する理由

残念ながら、めでたく地方に移住して農業をはじめたけど、失敗をして農業をやめてしまう人、移住生活に耐えられず田舎を去ってしまう人がいます。移住して農業に失敗するには、いくつかの理由があります。

理想と違ってツライ…

「田舎に移住してのんびりとした生活を想像していたけど違った」、「思ってた以上に忙しい」、「景色がいいと思ったけどすぐに飽きた」。こんな話はよく聞く話です。「隣の芝生は青い」とよく言いますが、都会に住んでいると田舎暮らしに大きな期待をしてしまうものです。

もちろん、田舎は時間がのんびり流れているし、自然は綺麗で癒されます。しかし、農業をやろうとすると繁忙期は本当に忙しいです。栽培する作物によって違いますが、忙しい時期なんかは景色を見ている暇なんてありません。のんびりなんて、ほど遠い期間は思った以上に多いものです。

ただし、上記でおすすめしたようにすでに農業をある程度の期間体験していれば、ギャップをあまり感じずにいることができるでしょう。

お金が尽きた…

農業は技術と営業力がないと稼ぐのは本当に大変です。特に有機栽培などをやろうとするとその難しさは1段も2段もアップします。多くの人が有機栽培に憧れて始めるのですが、栽培技術のない状態で有機栽培をやるのは非常にハードルが高いです。そして稼げずに泣く泣く農業から離れて行くのです。

また、農業技術をある程度、習得するまでは農薬などを使う慣行農業をおすすめします。有機農業はスキルがアップしてから取り組めばよいでしょう。

自分はよくても家族が耐えられなくなった…

家族との話し合いは事前にしっかりとしておきましょう。本人は覚悟を決めて、強い思いを持って移住、そして農業をやろうという鉄の意志があったとしても、当たり前ですが家族がそうとは限りません。むしろ、そうではないことのほうが自然です。

そのためには、移住後、いろいろと忙しいとは思いますが、家族の心のケアにも、よく注意してください。一緒にいる時間は多くの場合、増えますので、よくコミュニケーションをとり、大変ですが休みの日は家族サービスをするなど心がけましょう。

田舎暮らしの濃い人間関係になじめない…

田舎と都会では人間関係の濃さが違います。行政のサービスが行き届かない田舎では、どうしても近所付き合いが大事になります。ゴミの当番、草刈、地域のイベントなどなど、都会ではなかったさまざまな活動があります。これらの活動を積極的に楽しむ姿勢がないと、なかなか地域に馴染むのが難しいでしょう。

特に最初は面倒でも「見られている」ということを意識して、明るく自ら地域の人とコミュニケーションを取るようにするのがおすすめです。農業をやる場合は、地域の方々の協力なくしてできませんので、特に注意してください。

移住計画を立てる際の注意点

ここからは、移住で失敗しないための注意点を解説します。事前に移住前に考えておくことで、それぞれの注意ポイントをクリアして移住を進めて下さい。

家族にきちんと相談し勝手に決めない

家族によく相談せずに移住という重要な決定をしてしまうと、移住後にお互い不満がたまってしまいます。きちんと、お互いに理解と納得をしたうえで、移住を決めましょう。パートナーも、ご自身で決めた実感があれば不便や不満なことがあっても乗り切れるでしょう。

仕事を先に見つけてから移住する

移住にお金の問題はつきもの。移住前に、仕事を見つけておくと大変安心して移住を決断できます。理想は、リモートで業務ができる職種や会社の雇用が決まること。安定した給与や保障などもあるので、リスクを最小限に抑えることができます。

地方には都会と比べて企業も少ないので、求人もぐっと少なくなります。その場合は、起業やご自身で生計を立てる手段を考えなければならず、その土地の暮らしを楽しむことができないかも……。しかし、田舎には田舎特有の、1次産業(農業・林業・漁業)などで働く選択肢があります。人手が足りていない田舎では、歓迎されるとともに、経験としては面白いかもしれません。

光熱費が地方によっては倍以上になることも

特に、ガス代が地方によっては大きな差があります。理由は、インフラ面で都市ガスが普及しておらずプロパンガスを利用するケースが多い地域があるから。また、雪国で都市ガスが普及していない場合は、倍以上の費用がガス代だけでかかってくることもあります。地域選び・物件選びの際は特に注意が必要です。

お試し暮らし体験をしておく

そのまちで暮らすことを決めるうえで、お試しで移住体験をしておくことをおすすめします。その街のイメージや理想、世に出ている情報だけではなくて、自分の足で確かめて感じたことがすべてです。できれば、1ヵ月滞在すること、そして、夏と冬と2つの季節を体験しておくと失敗が少ないです。

たとえば、夏は海沿いで趣味ややりたいことができるけど、冬は寒すぎて風も強いし、車もサビるし洗濯物も潮風で干せない、冬は暇……といったことや、想像以上に雪が降って、寒すぎで暖房も全然効かない、雪かきしなければ車でどこにもいけない……みたいなことが起こる確率をぐっと減らせますよ。

合同会社Stone intech

中嶋遼太

(※画像はイメージです/PIXTA)