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 2023年3月、メスのシャチクジラの赤ちゃんを連れて泳ぐ姿が目撃された。シャチはきちんとクジラの赤ちゃんの面倒を見ていたという。

 人間社会では他人の子供を養子にして、育てることがあるが、実は自然界でも同じように養子縁組が行われることがある。

 それは同種のみならず、異種間でも行われているし、メスのみならずオスもそうだ。

 動物の子育ては自己犠牲を伴うことがある。なぜそうまでして、動物たちは血のつながりもない子供を引き取って、育てようとするのだろう?

 ここでは過去に報告された様々な動物の事例を見ながら、その理由を探っていこう。

【画像】 マウンテンゴリラのオスは母親を失った子を育てる

 ゴリラの世界ではオスも子育てをする。

 『eLife』に掲載された2021年の研究では、母親を失ったマウンテンゴリラ(Gorilla beringei)の子供を調べ、そうした孤児が群れのボスに育てられることを明らかにしている。

 チューリッヒ大学のロビン・モリソン氏は、「若いゴリラは、夜は母親と寝床を共にしますが、母親が死んだり、群れを去ったりすると、力の強いオスと寝床を共にするようになります」と説明する。

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 マウンテンゴリラの群れは、ボスとなるオス1頭と、複数のメスとその子供たちで構成されている。

 ボスゴリラには、血のつながりがあるかどうかにかかわらず、群れの子供をほかのオスに殺されないよう守る責任がある。

 実際にその責任を果たす力があるかどうかは、ボスゴリラ自身の子供を残せるかどうかにも関わってくるのだという。

 なぜなら、メスの前で上手に子供の世話をするオスが一番モテるからだ。

 母親を失った子供の面倒をきちんと見るボスゴリラは、メスたちから信頼されるようになる。すると交尾のチャンスが増え、自分の子供も残しやすくなるのである。

 一方、群れのメスたちにとって、孤児を育てるメリットは必ずしも明確ではないようだ。それでも2歳以上の子供ならば自分でエサを食べられるため、子育ての負担はそれほど大きくはない。

 くわえて、群れのほかの子供たちにとって、遊び相手は社会性を育んでくれるので、悪いことではないのだと、モリソン氏は説明する。

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マウンテンゴリラ photo by iStock

ボノボのメスは別の群れの赤ちゃんを養子に引き取る

 動物たちは、自分の群れではなく、別の群れの子供を引き取ることもある。

 『Scientific Reports』に掲載された2021年の研究では、野生のボノボ(Pan paniscus)が別の群れから子供を養子に迎えるという、知られている限り初めての事例が紹介されている。

 この研究では、メスのボノボ2頭が外部の群れから2頭の幼児を養子に迎えたらしき様子を観察し、そうした行動はメスたちの社会的地位を高める可能性があると推測している。

 なぜそれがメスの社会的地位を高めると考えられるのか?

 その理由の一つは、養子になった子供がいずれ養母の味方になると思われるからだ。ボノボのメスは群れの中で、ときには外部の群れとすら、強い絆を育むことが知られている。

 メスが養子を迎えるもう一つの理由として考えられるのは、人間と同じように、ボノボもまた赤ちゃんが大好きであるというものだ。

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photo by Unsplash

赤ちゃんを誘拐する霊長類のメスも

 「霊長類の中には、赤ちゃんに夢中な大人がいます」とモリソン氏は話す。

 だがそうした好意を微笑ましいとばかりは言っていられない。なぜなら、ときには誘拐してまで赤ちゃんを手に入れようとするメスがいるからだ。

 『Primates』に掲載された2023年の研究では、すでに子供がいるチベットマカク(Macaca thibetana)のメスが、別のメスから生後3週間の赤ちゃんをさらった事例が紹介されている。

 それは誘拐だったかもしれないが、きちんと育てているので、そのメスは将来的に味方を得られる可能性もあるようだ。

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photo by iStock

 だが、誘拐が必ずしもハッピーエンドで終わるわけではない。

 実際、『American Journal of Primatology』で報告されている生後5日目のキイロヒヒ(Papio cynocephalus)の誘拐事件は、悲劇に終わってしまった。メスに誘拐されたその子は、3日間連れ回された後、餓死か脱水症状で死んでしまったのだ。

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シャチのメスがイルカの子を養子に

 それは海の中でも起きている。

 2021年、アイスランドの海では、シャチ(Orcinus orca)がヒレナガゴンドウ(Globicephala)の群れに入って、子供を連れ去っていく姿が史上初めて目撃された。さらに2023年にも、シャチがヒレナガゴントウの子と一緒に泳いでいる姿が報告されている

 これらの事例は大きなミステリーだ。というのも、大人のシャチとヒレナガゴウンドウが仲良く交流している姿など、過去に見られたことがないからだ。

 普段仲がいいわけでもないというのに、なぜシャチはヒレナガゴンドウの子供をさらっていったのだろう?

 そもそも、シャチにとってのメリットが見当たらない。

 シャチは母乳で子供を育てるが、母シャチが母乳を作るには、大きなエネルギーが必要になり大変なことなのだ。子供を育てるには、それを長ければ3年も続けねばならない。

 もしかしたら、子育て経験が少ないシャチが、うっかり母性本能がくすぐられたのかもしれない。

 クジラ研究センターの行動生態学者マイケル・ワイス氏は、メスは子供が好きなものだが、「特にまだ子供を産んだことのないメスは、赤ちゃんに夢中です」と説明する。

 後で食べるためのエサだった可能性もあるが、やはり可愛くてしょうがなかったのかもしれない。

 「可愛い赤ちゃんクジラを見て、『ああ、この子を抱っこしたい』と思っていたとしても、意外ではありません」とワイス氏。

実子のいるハンドウイルカがカズハゴンドウの子を養子に

 だが、もともと実子がいる場合、養子を引き取ったことで悪い結果につながることもある。養子と実子が母親の気を引こうとして競争することがあるのだ。

 『Ethology』に掲載された2019年の研究では、自分の子供(実子)がいるハンドウイルカ(Tursiops truncatus)のメスが、カズハゴンドウ(Peponocephala electra)の子供を養子にした事例が報告されている。

 この養子は、実子を母親の腹の下から何度も押し出した結果、実子は行方不明になってしまったそうだ。

 ならばなぜ母イルカはなぜ養子をとったのか?

 母イルカは、最近出産したばかりで、我が子と同じくらいの子供に乳を与えたいという衝動に駆られたのかもしれない。

 だが、子育て経験の少なさが仇になった可能性もある。

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他の鳥に卵を押し付けられるケース(托卵)

 経験の浅い母親の大失敗は、哺乳類以外でも観察されている。

 カッコウ(Cuculus canorus)は「托卵」という面白い習性がある鳥だ。

 メスは自分の卵をほかの種の鳥の巣に産みつけ、赤の他人に我が子を育っててもらうのだ。そうすることで、子育ての労力を省エネすることができる。

 このようなカッコウたちは、もしかしたら相手の経験不足につけ込んでいるのかもしれない。

 1992年に『Behavioral Ecology』に発表された研究によれば、ニシオオヨシキリ(Acrocephalus arundinaceus)の若いメスは、経験豊富なメスよりもカッコウの卵に騙されやすいのだという。

 つまり、経験不足が災いして、赤の他人の子供の世話をする羽目になっているらしいということなのだ。

なぜ動物たちは養子をとるのか?

 さて、本題にもどろう。なぜ動物は血のつながらない子を養子にするのか?

 養子の子育ては経験の少ないメスにとっていい練習になる。それで将来生まれる子供の生存率が高まる可能性は確かにある。

 だがワイス氏によれば、一つ一つの事例の背後にある理由までは解明できないだろうという。

 というのも、メスたちは経験を積むという目的だけで、養子をとっているわけではないと考えられるからだ。

 それはシャチのような特に賢い動物には当てはまる。彼女たちには人間と同じような大きく複雑な脳があり、本能と衝動もある。

 だから、ときに想像もつかない興味深いことをやってみせるが、それが直ちに生存や繁殖に有利になるわけではないのだそうだ。

References:Why do some animals adopt other animals' young? | Live Science

 
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