<発表のポイント>
◆3D計測用ボディスーツZOZOSUIT(R)と、検証用に開発した専用のスマートフォン用アプリを用いて、主に若年の方の中等症以上の脊柱側弯症を検知することに成功しました。
◆脊柱変形に由来する体表の変形を検知するこれまでにない画期的な方法です。
◆本成果により、脊柱側弯症を自宅でセルフスクリーニングする新たなツールの実用化への貢献が期待されます。

ZOZOSUIT(R)と検証用に開発した専用のスマートフォン用アプリを用いた側弯症検知のイメージ

ZOZOSUITは株式会社ZOZOの登録商標です。

<発表概要>

東京大学(所在地:東京都文京区 総長:藤井 輝夫)大学院医学系研究科 整形外科学の伊藤悠祐(医学博士課程)、田中栄教授、大島寧准教授、次世代運動器イメージング学講座の土肥透特任准教授[研究当時]、大友望特任助教[研究当時]、東京大学医学部附属病院 手術部の谷口優樹講師のグループ(以下、研究チーム)と株式会社ZOZO(本社:千葉県千葉市 代表取締役社長兼CEO:澤田 宏太郎)は、共同研究により、同社が開発した3D計測用ボディスーツZOZOSUIT(R)と検証用に開発した専用のスマートフォンアプリを用いて(図1)、主に若年世代の治療を要する可能性のある中等症以上の脊柱側弯症(注1)を検知することに成功しました。

思春期に多く発症する特発性側弯症は自覚症状に乏しく、なかなか気づきにくいことから学校検診にも組み込まれていますが、既存の検査法には、感度の問題や適切な時期に検知できない、などの様々な問題が指摘されてきました。今回の新たな方法では、コブ角(注2)25°以上の中等症以上の側弯症を感度95.3%で検知できることが明らかになりました。本方法を応用することで将来的には、検査者なしに非侵襲的に自宅で繰り返し行うことができるセルフスクリーニングツールの開発につながることが期待されます。本研究結果は米国の学術誌『Spine』(現地時間9月15日付)の本掲載に先立ち、2023年8月26日にオンライン版に公開されました。

図1:ZOZOSUIT(R)と検証用に開発した専用のスマートフォン用アプリを用いた側弯症検知のイメージ

<発表内容>

(1) 研究の背景:

脊椎の正面や背後から見た際の左右へのゆがみや曲がりを脊柱側弯症(注1)といい、特に思春期に発症する原因不明のものを思春期特発性側弯症とよびます(図2)。自覚症状に乏しいことから自分自身や家族の方が気づかないことも多いため、学校検診にも組み込まれていますが、既存の方法(視診やモアレ法が有名です)では感度の問題や、検査に必ず検査者を必要とすることから頻回の検査が困難であり、適切な時期に検知できない、などの問題点が指摘されていました。一方で特発性側弯症は成長期に急速に悪化することが知られており、進行すると手術が必要になることもあるため、コブ角が25°程度を超えた時点で成長段階によっては、進行を防ぐために装具治療に代表される保存療法を開始する必要があります。こうした背景から特に治療を要するような脊柱側弯症を再現性よく、適切なタイミングで検知できるような新たなスクリーニング方法の開発が必要とされていました。

(2) 研究の内容:

今回、研究チームは株式会社ZOZOとの共同研究により同社が開発した3D計測用ボディスーツZOZOSUIT(R)と検証用に開発した専用のスマートフォンアプリを用いて(図1)、主に若年世代の治療を必要とする可能性のある中等症(コブ角25°以上)以上の脊柱側弯症を検知できるか検討を行いました。被験者はZOZOSUIT(R)を装着した状態で1.5m離した位置に設置したスマートフォンのアプリの指示に従い、30°ずつ向きを変えていき、12枚の写真を撮影します。撮像した12枚の写真からアプリ内で自動的に体表の3Dモデルが生成されます。今回の研究ではこの3Dモデルから取得・再構成した各レベルの横断像(図3)から体幹のゆがみを示すZ値という固有値を定義し、検討を行いました。側弯症症例54例と非側弯症47例で検討を行ったところ、中等症(コブ角25°以上)以上の側弯症症例では非側弯症群やコブ角25°未満の軽症群と比較して、有意にZ値が高値であることが判明しました。(非側弯症群(コブ角≤9°):平均Z値=20.7mm、軽症群(10°≤コブ角≤24°):平均Z値=21.4mm、中等症群(25°≤コブ角≤44°):平均Z値=32.3mm、重症群(コブ角≥45°):平均Z値=35.2mm)またROC解析(注3)を行ったところ、最適なカットオフ値(注4)としてZ値=19.9mmと算出され、このカットオフ値に設定すると中等症以上の側弯症を感度95.3%、特異度58.6%で検出できることが確認されました。スクリーニング検査としては妥当な感度と考えられ、本技術が脊柱側弯症検知のスクリーニングツールの基礎技術として有用である可能性が示唆されました。

(3) 今後の展望:

研究の結果から、本技術を応用することで、将来的には検査者なしに非侵襲的に自宅で繰り返し脊柱側弯症のセルフスクリーニングを行うことができる新規診断ツールの開発につながることが期待されます。実用化にむけてはまだ課題も多いですが、本技術を応用した新規の脊柱側弯症のスクリーニングツールの開発が可能となれば、重症化されるまで見逃されていた脊柱側弯症の症例を適切なタイミングで検知・医療機関に誘導できるようになるなど、患者さんへの恩恵が期待されます。また手術治療を回避することができる症例が増えることは患者さんへのメリットのみならず、医療経済的な観点からも大きなメリットと考えられます。

図2:思春期特発性側弯症の症例の背部から撮像したレントゲン(10歳台 女性 コブ角35°の中等症)
図3:アプリ内で生成した3Dモデルから抽出した横断像

<発表者>

東京大学

 大学院医学系研究科

  外科学専攻 感覚・運動機能医学講座 整形外科学

   伊藤 悠祐(医学博士課程)

   大島 寧 (准教授)〈東京大学医学部附属病院 整形外科・脊椎外科〉

   田中 栄 (教授)〈東京大学医学部附属病院 整形外科・脊椎外科〉

  次世代運動器イメージング学講座

   土肥 透 (特任准教授[研究当時])

   大友 望 (特任助教[研究当時])

 医学部

   谷口 優樹(講師)〈東京大学医学部附属病院 手術部〉

<論文情報>

〈雑誌〉Spine

〈題名〉A novel screening method for scoliosis using a bodysuit and 3-dimensional imaging

〈著者〉Yusuke Ito, Toru Doi, Nozomu Ohtomo, Yuki Fujii, Kengo Ono, Eri Kojima,Takayasu Yamada, Huy Hoang Tran, Francois Goffinet, Yui Endo, So Kato,Yoshitaka Matsubayashi, Sakae Tanaka, Yasushi Oshima, Yuki Taniguchi*

*責任著者

〈DOI〉10.1097/BRS.0000000000004658

〈URL〉https://journals.lww.com/spinejournal/fulltext/2023/09150/a_novel_screening_method_for_scoliosis_using_a.5.aspx

<研究助成>

本研究は、株式会社ZOZOとの共同研究費により実施されました。

<用語解説>

(注1)脊柱側弯症:脊柱を正面や背部からみたときに左右への曲がり・ゆがみを呈しているものを脊柱側弯症といいます。特に思春期に多く発症する原因不明のものを思春期特発性側弯症といいます(図2)。思春期特発性側弯症では成長期に進行することが知られており、一度進行したカーブを手術以外の方法で改善させることは難しいため、適切な時期に発見して、装具療法などの必要な治療を開始する必要があります。カーブが進行すると手術治療が必要になる場合もあります。

(注2)コブ角:側弯症の程度を表す角度の指標で立位や座位のレントゲンで最も傾いている椎体(脊椎骨)同士のなす角で計測します(図2)。

(注3)ROC解析:Receiver Operating Characteristic解析の略で、受信者動作特性解析ともいいます。主に診断用テストやスクリーニングテストの精度の評価に用いられる解析で、ある検査の感度と特異度の関係を示すグラフが得られます。またその検査における最も妥当なカットオフ値を算出することができます。感度とは病気の人を正しく検出する能力、特異度とは病気でない人を正しく検出する能力を示していて、数値が高いほど優れた検査方法といえます。側弯症のスクリーニング検査のような見逃しが望ましくない検査では感度が高い検査方法が望ましいといえます。

(注4)カットオフ値:ある検査の陽性、陰性を分ける値のことで、病態識別値とも呼ばれます。

配信元企業:株式会社ZOZO

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