米国人が一人でも拉致されると米国はすかさず対抗措置を取り、相手を外交交渉に誘い出して被害者を取り戻す。

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 民間団体の調査によると800人近くが拉致されている可能性のある日本ではわずかに5人しか取り戻していない。

 無辜の国民が国家主権を侵害されて連れ去られたのを取り返せない不甲斐なさ、外務省と同省を統括する外相(さらには首相)は、当初の問題処理を誤ったのではないかと詰問したい。

 ここでは拉致問題は扱わないが、いまだに解決しないことから得られた教訓だけは生かさなければ、誤りを繰り返し国益を毀損し続けるだけである。

拉致問題で得られた教訓は何か?

 それは遺憾の意を示すことや飴玉を与えながらの交渉では、国民の意向を考慮する必要がない全体主義の国に対しては問題解決にはつながり難いということだ。

 政治問題や経済問題で理不尽かつ不利益をもたらす言動を相手が行なっても、日本(政府)は馬鹿の一つ覚えのように「遺憾である」と繰り返すだけなので、「遺憾砲」と揶揄さえされている。

 米国や英国などG7に属する国は言うまでもなく、日本よりもはるかに小さな国力しかないとされる国でも、中国が理不尽な、あるいは国益に反すると見られる制裁などを行った時には、非難の声明を出すとともに同等か同等プラスαくらいの対抗措置をとって対処することがしばしばである。

 例えばある人物がスパイとして拘束された時には、まず非難するが、前後して類似した業務に従事する人物を拘束する。

 相手が何かを理由に総領事館を閉鎖したときは、こちらも相手により打撃を与える総領事館を閉鎖するなどする。

 数百万人しかいない国でも中国漁船に拿捕された人物や船を取り返すために、中国の他の船を撃沈さえする。

 国家とは領土、国民、主権(の擁護者)とされ、国の大小とは関係ない。どのような国も国益や主権の侵害に対しては必死で最大限の努力をしている。

憲法の呪縛

 日本はG7の一員でもあり、人口は米国に次いで大きい。

 しかし、日本には国益や主権の観念がないのではないかと思われる行動をとることが多い。

 国際社会は日本の憲法が前提するような正義を重んずる善人の集まりばかりではない。

 むしろ、性悪説を前提にした方が大部の場合は問題の解決に結びつくのではないだろうか。

 極端な話であるが、日米は同盟関係にある。しかし、どこまでも米国は自国の国益増進を目的にしており、交渉においては少しでも自国に有利になるように日本に要求してくる。

 日本も主権国として国益の視点から主張すべきであるが、「米国が日本を守ってくれている」という恩義の感情や、「相手の国を慮る」という日本的習性から、必ずしも主張しないことが多いと仄聞した。

 日米安保条約下の地位協定においても日本は米国の他の同盟国よりも主権をかなり譲歩している。言うなれば国家の体をなしていない「半」国家か擬似国家の為体(ていたらく)である。

 特に中国はことあるごとに日本製品の輸入禁止や制限、不買運動、あるいは理由もなく日本人を拘束するなどしてきた。

 しかし、日本はほとんどの場合、しかるべき対処行動はとらずに抗議するだけであった。

「日本」の代表という立場を忘れて、「自分がいい子」になりたがっている一面があるのかもしれない。

 しかしそれ以上に憲法の前文を信じ(込まされ)、諸外国は「正義の国」だから「善意」を持つ「平和愛好国」で、交渉ごとで過大な要求などしているはずがないと思い込んでいるのかもしれない。

 実態は全く異なり、国益丸出しで取れるものは何でも取ってやれ、その成果が自分の地位向上にも役立つとしか思っていない者ばかりである。

 日本では相手に楯突いた人は「喧嘩好き」として嫌われ、譲歩した人は「心が広い」として歓迎される風潮がある。

 日本の伝統が根っこにあることは言うまでもないが、憲法がさらに思考の幅を狭めている。

 しかし、国際社会は凸型思考(口論し合う)が一般的で、凹型思考(譲り合い)は日本国内でしか通用しないことを知る必要がある。

 国際社会に日本型思考で対処していたのでは国益を減ずる結果をもたらす危険性が大きい。

日本の対処は生ぬるい

 処理水の海中放出はIAEA(国際原子力機関)による調査で安全基準をクリアしており、国際社会の多くの国は問題視していない。

 そうした中で中国のみが輸入禁止の措置をした。

 しかし、日本は対抗措置をとっていない。政府が例によって「遺憾」であると抗議しただけである。

 しかし、中国共産党の意図を受けたとみられる偽メールが無関係のところにも来襲し、また在中国の日本人学校や多くの日本関係施設が嫌がらせを受けるなどし始めた段階で、政府(外務省)は駐日中国大使を外務省に招致して「極めて遺憾」と抗議した。

 抗議のレベルを上げたが依然として「口先だけ」の抗議に変わりはない。

 こうした日本の外交上、あるいは貿易上の不手際が日本の選択肢を狭めてきたのではないだろうか。

 自衛隊海上保安庁巡視船の行動が厳しく制限されているために、尖閣諸島の領海に我が物顔で侵入を繰り返すと同様に、口頭だけの「遺憾砲」も空砲でしかないことを相手はとっくに見透かしてきたわけである。

 中国(共産党指導部や政府)は自国の主張が合理的でないことを100%知った上で反対している。

 国内経済の悪化で不満が蓄積しつつあるとされ、日本への団体旅行を許可したのはガス抜きの一環ともされる。

 今回の「核汚染水」の捏造も国民の関心を逸らすことであり、もう一つは日本の国際的な評価を落とすことであると見られている。

 中国が利益圏と見ていたアフリカで日本は国家の信頼性を引っ提げて食い込みを図ろうとしている。

 そうした日本の信頼性に疑問を抱かせることは紛れもなく中国の国益につながる。

 日本の処理水は国際基準の安全性をクリアしていることを承知の上で、中国は反日行動をそそのかしている。

 そうしたなかで日本が馬鹿の一つ覚えで「処理水は安全」「国際基準をクリアしている」などと主張してデータを公表し、また大臣が周辺で水揚げされたばかりの魚の刺身を試食したところで、効き目が限定されていることは言うまでもない。

ウイグル綿などの輸入制限を仄めかせ

 処理水の海上排出については、核の国際機関であるIAEAが日本以外の数カ国の専門家で検査し、安全であることを保証した。

 それがIAEAの安全宣言という形で国際社会に発信されており、決して日本が独自に秘密裏で行った宣言などではない。

 処理水の安全レベルは国際的な安全基準をも大きく上回ってさえいる。

 IAEAの宣言は控えめすぎるとさえ思うくらいであるが、日本政府はあえてそのことを強調したりしないで「安全基準をクリア」していると控えめな表現で訴えている。

 このように周到に日本が対応し、理論的、科学的に安全性が確認されているにもかかわらず、中国は「核汚染水」と国際社会に喧伝してやまない。

 まさしく政治的な反日キャンペーンでしかないことが分かる。

 中国は自国の原発周辺から「汚染水」を垂れ流している。日本の処理水どころの話ではない、まさしく「核汚染水」である。

 中国は日本の処理水が国際基準をクリアしていることを知っている。言うまでもなく、中国の汚染水よりもはるかに安全であることも知っている。

 そうした中国に日本(政府)がいくら「科学的に安全性が確認されている」「国際基準をクリアしている」と外交ルートで依頼しても聞く耳を持たないのは当然である。

 にもかかわらず、「遺憾」「極めて遺憾」と繰り返したところで変わらないであろう。相手は民主主義国家ではなく人民の意見などに耳を傾ける国ではないのだ。

 風評被害を補償するのは当然としても、それ以前に風評被害を抑えることに尽すべきであり、それは対中圧力である。

 かねて中国はウイグル人の人権を抑圧していると国際社会で批判されている。ウイグル綿の生産はそうした人権無視で行われているとも言われてきた。

 しかし、日本の某企業は確たる証拠がないとして活用し続けている。

 ともあれ疑惑が持たれている綿の輸入制限、或いは禁止するなどの対抗措置がこの際は有効ではないだろうか。国際社会の共感も得やすい。

おわりに

 今後、安全保障上で大きな問題となってくるのが、外国人、中でも中国人や中国資本による日本の土地買い占めである。

 土地の買い占め自衛隊施設の近傍、港湾を見渡せる地域、無人島、あるいは天皇が行幸された記念碑を包含するなど、決して個人的な趣味でなく国家意思の介在が読み取れる。

 中国の国家意思が明確に見えるのは、大使館や総領事館などの外交施設が所在する土地の保有である。

 外交では相互主義が基本である。米国の大使館も総領事館も日本からの借地に存在し、借地料が払われている。

 日本の在米大使館や総領事館も米国の土地を借用して建てており、借地料を支払っている。

 英国もフランスドイツも、いや中国を除くすべての国の大公使館や総領事館等の外交施設は日本の借地や借家に存在している。

 そればかりではない。米英仏などの国に所在する中国の大使館や総領事館もすべて当該国からの借用地に存在する。

 中国では土地を買うこと(すなわち所有)ができないことに基づく相互主義である。

 日本においてだけ、しかも中国だけが東京にある大使館や大阪などにある総領事館の用地を買い上げて「所有」している。

 異常な話はさらに続く。

 中国大使館用地は同盟関係にある在日米国大使館用地よりも広い。驚くことはさらにある。

 総領事館はビザの発給くらいが主な仕事で1部屋や2部屋くらいで十分と言われるが、中国の総領事館の多くは大使館よりも広い土地を所有していることが分かっている。

 土地問題は従来はさほど問題視されなかったが、中国が国防動員法などを制定し、習近平主席が台湾奪回のために「戦争準備」を指令して以降、中国やその影響下にある中国系資本による土地の買い占めが安全保障の観点から注目され、危険視されるようになってきた。

 処理水を「核汚染水」と呼び国際社会に喧伝することは、日本をその問題に集中させ、その間にさらに土地を買い占める、あるいは、日本に譲歩する取引材料にするためなどいろいろ考えられる。

 政府が遺憾砲の発射と漁業への補償で乗り切ろうとしている裏で、中国はもっと大きな網を張り巡らせていることを忘れてはならない。

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