令和6年度防衛予算の概要で調達が明記された共通戦術装輪車と次期装輪装甲車。両方とも8輪駆動の装輪装甲車で、よく似ているため、区別がつきません。なぜ両方必要なのでしょうか。

新規調達スタートする2種類の装輪装甲車

防衛省が2023年8月31日、「令和6(2024)年度概算要求」を公表しました。そこで新たに取得が明記されていたのが、「共通戦術装輪車」という新型の装輪装甲車です。ただ、陸上自衛隊にはこれとは別に「次期装輪装甲車」という新装備も存在します。なぜ同じタイミングで似たような事業を平行して行っているのか、そして両車はどう違うのでしょうか。

そもそも、同じタイミングになったのは、小松製作所が担当していた96式装輪装甲車の後継である「装輪装甲車(改)」の事業が中止になったことで、次期装輪装甲車の開発に遅れが生じたことが原因です。

一方、防衛省ではこれとは別に、16式機動戦闘車と協同して戦闘することを想定して、16式機動戦闘車の車体をベースにした装輪戦闘車両を、全く新しいコンセプトで開発に着手していました。こうして始まったのが「共通戦術装輪車」です。

つまり、「コンセプトが異なる装甲車が別々の時期に生まれる予定だったものの、紆余曲折あり、たまたま同じタイミングになってしまった」というのが実情のようです。

では、これら2つの装輪装甲車は何が違うのでしょうか。その大きな差は運用構想の違い、つまり、配備される部隊の違いです。

陸上自衛隊は現在、「動的機動防衛力」という、いわば全国即時展開を主眼にした部隊を編成しようと組織改編を進めており、訓練についてもそこに軸足を置いた内容のものを増やしています。そこでメインとなるのが、全国に配置されている「即応機動連隊」と「偵察戦闘大隊」です。

16式機動戦闘車がベースの共通戦術装輪車

即応機動連隊とは、2018(平成30)年から新編が始まった新しい部隊です。これまで他国で言うところの歩兵部隊が主軸であった普通科連隊は、必要に応じて野戦特科(いわゆる砲兵)部隊や戦車部隊などを増強して、「戦闘団」と呼ばれる諸職種協同のコンバットチームを臨時で編成し、任務を完遂しようとしていました。

しかし、このような形だと、普段は別々の部隊であるため、常日頃から連携をとっているわけではありません。しかも複数の部隊から必要な人員・装備を集めるため、戦闘団(チーム)を立ち上げるまでに時間がかかります。

そういったデメリットを解消しようというコンセプトのもと、生まれたのが即応機動連隊です。略して「即機連」などと呼ばれるこの連隊は、指揮下に野戦特科職種の火力支援中隊、高射特科職種の高射小隊などを持っているのが従来の普通科連隊の違いですが、最も注目なのが、連隊内に機甲科職種だけで編成された機動戦闘車隊が設けられている点です。

機動戦闘車隊は16式機動戦闘車を運用していますが、同車はタイヤ駆動の車体に戦車同様の大砲と全周旋回可能な砲塔を備えているのが特徴で、性能的には「装輪戦車」と呼べる装備です。

トラックと同じスピードで全国展開可能ながら、戦車と同じ攻撃力を持つということで、戦車を補完する新戦力として全国の師団・旅団に配備が進められています。

一方、偵察戦闘大隊とは、従来あった偵察隊よりも、偵察能力と戦闘能力を強化した部隊です。こちらも即応機動連隊と同じく16式機動戦闘車を装備しているため、偵察しつつも、何かあれば敵に一撃を加えることができます。さらには、即応機動連隊が展開した後の地域に進出し、防衛上の空白地帯を作らないよう動くことも任務の中に入っています。

これら全国に即時展開できる部隊に必要とされたのが、三菱重工製の共通戦術装輪車です。前述した即応機動連隊や偵察戦闘大隊には現在、96式装輪装甲車が配備されていますが、実質的には共通戦術装輪車96式装輪装甲車の後継となる計画です。

共通戦術装輪車には、30mm機関砲を搭載した歩兵戦闘型、120mm迫撃砲を搭載した機動迫撃砲型、そして偵察能力を与えた偵察戦闘型の3種類が開発されています。

共通戦術装輪車の特徴といえば、これら3つの車種に絞ったことによって、即応機動連隊と偵察戦闘大隊の戦闘力を補完するために必要な要素がコンパクトにまとめられたことであるといえるでしょう。

96式装輪装甲車の後継となるAMV

では、もう一方の次期装輪装甲車は、何の後継なのでしょうか。こちらは一般的な普通科連隊や後方支援連隊などに配備されている96式装輪装甲車を更新する予定です。この次期装輪装甲車にはフィンランドの企業であるパトリア社が製造したAMVが採用されます。

こう見ると、どちらか一系統に統一できないものかと考えるのですが、前述したように、そもそも別事業であったため、統一するのが難しく、結果2種類の新たな装輪装甲車が導入されることになった模様です。

なぜ新型装輪装甲車の選定事業が2つもあったのかというと、そもそも敵の脅威レベルが高い地域へ真っ先に進出する即応機動連隊と偵察戦闘大隊に対して配備されるのが共通戦術装輪車。敵の脅威レベルが低い地域に進出するのが一般的な普通科連隊であり、そこに配備するのが次期装輪装甲車と分けて考えられていたからのようです。

当初は次期装輪装甲車よりも共通戦術装輪車の方が攻撃力や防御力、そして機動力といった総合的な戦闘力が高いと判断されていたのですが、実際には、海外で販売実績があり一定の評価がされているAMVが次期装輪装甲車として選定されました。

実際、防衛省が公開した「令和6年度概算要求」では、共通戦術装輪車の取得理由に関しては「機動戦闘車等と連携し、機動的に侵攻部隊対処を行うため」としている一方、次期装輪装甲車AMV)については、「現有の96式装輪装甲車の後継として」と、はっきり明記されていました。

似ているようで、別々の枠組みで調達される共通戦術装輪車と次期装輪装甲車AMV)。ちなみに、当初は輸入することになるであろうフィンランド製のAMVも、ゆくゆくは国内メーカーによるライセンス生産が行われると考えられます。

いずれにせよ、我が国の陸上戦闘における主要な装備品であることから、隊員が使いやすく、かつ合理的な評価が下され、国民の生命と財産を守るために明確な目的をもって必要数が取得されることを願っています。

防衛省/陸上自衛隊が開発中の共通戦術装輪車の偵察戦闘型(武若雅哉撮影)。