世界の航空業界が人手不足に喘ぐなか、航空便の遅延や欠航に見舞われるリスクが高まっている
世界の航空業界が人手不足に喘ぐなか、航空便の遅延や欠航に見舞われるリスクが高まっている

世界的パンデミックが本格的に収束して初めてのお盆休みを迎えた今夏。久しぶりに海外に出かけた人も多いはずだ。

【写真】飛行機の欠航に困る搭乗者たち

JTBが「7月15日8月31日に一泊以上の旅行に出かける人」の動向を見通した「夏休み旅行動向推計数値」によると、今年は120万人が海外旅行へ出かけている。コロナ前の2019年の同期比では4割程度にとどまっているが、前年同期比では2倍を超える水準にまで旧回復している。

一方で、SNSなどで報告されているのは、航空便のスケジュールの乱れによる各地での足止めだ。X(旧ツイッター)で、「帰国便 遅延」などと検索すると、今夏、各地で登場予定日の遅延や欠航に巻き込まれた日本人旅行者の嘆きが多数ヒットする。

■難局にある世界の航空業界

これは、彼らの運が悪かっただけではなさそうだ。航空データ分析大手のOAG.comがまとめた調査結果によると、世界の主要航空会社20社の2022年の定時運行率(定刻から15分を過ぎることなく離発着したフライトの割合)は平均で73.36%となっており、2019年の77.85%から4.4ポイント下落している。

さらに、世界の主要20空港の定時運行率の平均も、77.35%から73.71%に下落しているのだ。エリア別ではロンドンヒースロー空港(13.7ポイント悪化)や、パリのシャルル・ド・ゴール空港(10.14ポイント悪化)など、ヨーロッパでの悪化が目立っている。

ちなみに同調査結果によれば、定時運行率の航空会社別ランキングでは全日空日本航空がツートップで、空港別では羽田空港が首位となっている。そのため、日本人には実感する機会が少ないが、今、世界の空は混乱しているのだ。

最も大きな原因として指摘されているのは、パンデミックの終息により旅行需要が急回復する一方で、空港職員や保安検査員をはじめとする航空業界の人員不足が続いていることだ。

そんな情勢下で欧州を旅行した人、または旅行予定の人には、ぜひ知っておいていただきたい情報がある。欧州路線の航空チケットを購入したのちに、遅延に巻き込まれた場合、航空会社から補償金を受け取ることができるのだ。

■昨年末に筆者が見舞われた連続欠航

実際に筆者も、欧州行きの搭乗予定便とその振替便が連続して欠航となり、結果として15万円を受け取ることができた。以下にその体験をお伝えする。

2022年12月、出張先のニューヨークで仕事納めとなった筆者は、帰国の前に友人が住むパリに寄り道して2泊ほどする計画を立てた。予約したのはニューアーク空港発のリスボン経由のTAPポルトガル航空の便だ。

エアリンガス航空の突然の欠航に戸惑う搭乗者たち
エアリンガス航空の突然の欠航に戸惑う搭乗者たち

ところがこの便の欠航が出発前日に決まり、パリ到着が2時間以上遅くなる、ダブリン経由のエアリンガス航空の便へと振り替えられた。この便については搭乗まではできたのだが、乗客が全員揃っても一向に出発せず、機内で3時間以上を過ごしたのちにやはり欠航となった。結局、パリへは3度目の振替となるユナイテッドの直行便で、当初の予定より20時間以上も遅れて到着したのだが、パリ滞在時間は半減してしまった。

ちなみに、TAPポルトガル航空もエアリンガスも、欠航の理由については「技術的問題」「現在調査中」と繰り返すばかりで、はっきりとした遅延の理由は今に至るまで明らかにされていない。

■EU法が定めた補償金制度

ただ、足止めによって24時間を過ごすこととなった空港で、同様の憂き目にあったアイルランド人からこんな情報を得ていた。

「欠航した航空会社に補償を請求すれば600ユーロの支払いを受けることができる」

その後、筆者は有り余る時間でネット検索したところ、その補償金制度は、航空便利用者の権利を保護する欧州連合法「EU261」で定められており、遅延や欠航、オーバーブッキングによる搭乗拒否があった場合、飛行距離や搭乗者が損失する時間の長さによって250~600ユーロの補償が受けられることが分かった。

対象となるのは、「EU域内を出発するすべてのフライト」、「EU域内に到着する、EU域内に本社を置く航空会社が運行するフライト」の利用者だ。搭乗予定便が2度の欠航に巻き込まれた筆者の場合、600ユーロの補償金が得られる可能性がありそうだった。

幸いにも、その後はパリからの帰国便も含め、大きなトラブルに見舞われることはなかった。帰国した筆者はさっそくTAPポルトガルとエアリンガスに、補償金の請求を開始した。

エアリンガス航空の公式サイトには、EU261補償金の請求窓口ページが設置されており、こちらの名前や搭乗予定だった便名を入力すると、「あなたには当社から600ユーロの補償を受け取る権利があることを確認しました」とメールで返事が来た。これに、国内銀行の口座を振込先として指定して返信すると、返信1ヶ月後には600ユーロ分の日本円が振り込まれていた。

■対応の悪い航空会社への最後の手段

一方で、一筋縄では行かなかったのがTAPポルトガル航空だ。エアリンガス航空のような補償金請求のページはなく、公開されているメールアドレスに何度メールを送っても返事が来ない。SNSにも筆者同様、「補償金請求で同社に無視されている」という報告が、世界各国から上がっていた。

筆者も利用した補償金申請代行業者。30%の手数料は安くはないが、5ヶ月にわたって梨のつぶてだった航空会社もほぼ1日で支払いに応じた
筆者も利用した補償金申請代行業者。30%の手数料は安くはないが、5ヶ月にわたって梨のつぶてだった航空会社もほぼ1日で支払いに応じた

そんな書き込みのなかに、「補償金請求代行業者を利用したらすぐに振り込まれた」という情報があった。調べてみると、EU261補償金の請求をEUの弁護士が代理でやってくれるというサービスがいくつもあることがわかった。手数料はどこも30%前後であった。

TAPポルトガルに無視されること約5ヶ月。痺れを切らした筆者は、そうした業者のひとつを利用してみた。

名前や搭乗予定だった便などの情報を業者のサイトのフォームに入力して送信すると、なんと翌日には「おめでとうございます。600ユーロの補償金が認められました」という返信が業者から届いた。まさに鶴の一声というやつだ。

業者からはペイパル経由で補償金が振り込まれたが、そこでも受け取り手数料が課せられた
業者からはペイパル経由で補償金が振り込まれたが、そこでも受け取り手数料が課せられた

その後、さらに振り込み手数料なども引かれ、この業者から実際に振り込まれた400ユーロ程度だったが、折からの円安もあり、2社分を合わせると筆者が受け取った補償金は15万円に達した。

パリ滞在が大幅に短縮されたことは残念だったが、補償金のおかげで「また改めて旅行しよう」という気になれたのも事実だ。欧州旅行で搭乗便のスケジュール変更に見舞われたことがある諸氏は、EU261の適用対象かどうか、確認してみてはどうか。

●奥窪優木 
フリーライター。1980年愛媛県生まれ。上智大学経済学部卒。ニューヨーク市立大学中退。著書に『ルポ 新型コロナ詐欺 ~経済対策200兆円に巣食う正体』(扶桑社刊)など

文/奥窪優木 写真/奥窪優木 flightright.com photo-ac.com

世界の航空業界が人手不足に喘ぐなか、航空便の遅延や欠航に見舞われるリスクが高まっている