このところ、米国の経済指標が発表されるたびに予想を下回る数字が出て、景気の減速を連想させる結果となっている。にもかかわらず、株価は上昇し、ドルも買われて通常とは反対の動きがマーケットで見られる。そんな状況でもドル円は大きな動きを見せていないが、果たして9月に開催されるFOMC(米連邦公開市場委員会)で金利の引上げはあるのか……。1ドル=145円前後の円安圏にとどまるドル円相場だが、政府による為替介入はあるのか……。外為オンライン・シニアアナリストの佐藤正和さんに9月の為替相場の見通しを伺った。

――9月の米国金利の引上げはあるのでしょうか?

ジャクソンホール」でのパウエルFRB(米連邦制度理事会)議長のややタカ派寄りな発言内容から、9月の利上げがあるのではないか、という観測が拡大しました。しかし、その後発表された米国の「ADP雇用者数」では17万7000人増と予想を下回る民間雇用者数となり、さらに4-6月期の「GDP改定値」でも2.1%へと下振れし、景気失速が垣間見える数字が発表されました。

 こうした指数を見て、「悪いニュースは(金利引上げの可能性が後退する)良いニュース」と捉えたマーケットが、株式市場を大きく上昇させ、為替市場も1ドル=145円~147円の小さなレンジを動いています。

 9月19日-20日にかけて行われるFOMCでは、金利の引上げがあるかどうかに注目が集まっていましたが、こうした状況から金利引上げの観測は大きく後退。今後の雇用統計消費者物価指数CPI)次第ですが、現状では金利引上げの可能性は低くなっていると言っていいでしょう。

――特に注目したい景気指標とは何でしょうか?

 とりあえず、9月1日夜(日本時間)に発表される8月の米雇用統計が大きなポイントになると思います。今のところ、非農業部門雇用者数は予想では「17万人増」(7月は18万7000人増)、失業率は「3.5%」(7月も3.5%)となっています。

 この予想に大きなサプライズがなければ、9月の金利引き上げの可能性はさらに低くなると思います。9月13日に発表されるCPIの結果も重要で、この2つの統計が両方とも下振れるようだと、単に9月の政策金利の据え置きだけではなく、11月、12月のFOMCでも金利が据え置かれる可能性が浮上してくると思われます。

 ちなみに、7月のCPIは年率換算で「3.2%」でしたが、2%台に落ち着いてくるのか、それとも逆に上昇するのか。この結果も、大きなポイントになります。8月末に発表された7月の「PCE総合価格指数」は市場予想と同じ前年比「3.3%」。FRBがインフレ指標として注目している燃料や食品を除いた「コアPCE価格指数」は前年比「4.2%」で、こちらも市場予想と同じでした。

――日銀に動きはあるのでしょうか?

 日銀の植田総裁は、ジャクソンホールでの会見でも年末に向かってインフレ率が低下するという考えを示し、現行の緩和政策を維持することを明確に述べました。ただ、その認識にも不透明感はあります。日銀審議委員の1人は、「賃金や物価動向を謙虚に見つめていくべき局面にある」と述べるなど、先行きに対して懸念を示しています。

 インフレ研究では、日本で第一人者と言われる渡辺努東大大学院教授は、9月28日ブルームバーグのインタビューで、「日銀の物価見通しは金融政策の正常化への思惑を招かないように実態よりも低く抑えられている」と指摘するなど、日銀の見通しに対して厳しい意見を述べています。

 日銀は、直近で消費者物価指数の見通しを、2023年度=2.5%上昇、24年度=1.9%上昇、25年度=1.6%上昇と見ていますが、これに対して渡辺氏は23年度が2.7-2.9%、24、25年度=2.1-2.2%を超える水準になる、と予想しています。YCC(イールドカーブコントロール)についても、「今となっては邪魔者以外の何物でもない」と述べるなど、明快で辛辣な見方をしています。日銀も、年末にかけて、厳しい状況に追い込まれるかもしれません。

――9月の予想レンジを教えてください。

 このところユーロはドルに対して強くなっていますが、ジャクソンホールでのラガルドECB(欧州中央銀行)総裁は今後の利上げに対して曖昧な言及にとどめました。ただ、今後も利上げの可能性が高く、日銀との差がはっきりしてくる可能性があります。そうなれば、円はドルに対してだけでなく、ユーロに対しても安くなっていくことが予想されます。

 9月は特に大きなイベントはありませんが、ドル円相場で注意したいのはやはり政府による「為替介入」です。介入の条件ともいえる「急激な値動き」になっていないために、そのタイミングが難しくなっていますが、それでも政府は効果的な介入を狙っていると思われます。9月の予想レンジは次の通りです。

●ドル円……1ドル=142円-147
●ユーロ円……1ユーロ=155円-161円
●ユーロドル……1ユーロ=1.07ドル-1.11ドル 
●英国ポンド円……1ポンド=180円-188円 
●豪ドル円……1豪ドル=92円-96円

――9月相場では、どんな点に注意すべきでしょうか?

 現在の懸念材料のひとつとして、中国の不動産バブル崩壊のニュースは忘れてはなりません。福島の水処理の問題も絡めて、中国に関するニュースは注意深く見ておく必要があるでしょう。内容次第では、世界経済全体に影響を及ぼす可能性もあります。

 そして、雇用統計CPI、景況感指数といった代表的な景気指標について、発表前後に相場が大きく動く可能性が高く、注意深く統計の数字をチェックしておきましょう。ドル円相場自体は、狭いレンジの中で動く神経質な動きになっていますが、政府による為替介入の可能性を配慮しつつ、小まめな利益確定を心がけましょう(文責:ウエルスアドバイザー編集部)。

9月米利上げはあるのか?米経済指標に揺れるドル円相場?外為オンライン・佐藤正和氏