海上自衛隊横須賀基地に、フリゲート艦「オタワ」をはじめ3隻のカナダ海軍の軍艦が入港しました。9月1日まで停泊した後、3隻は別々の活動に従事しますが、特に「オタワ」が台湾海峡を通航するとして注目されています。

3隻同時入港はレア

2023年8月28日(月)、神奈川県にある海上自衛隊横須賀基地に、3隻のカナダ海軍艦艇が入港しました。その内訳は、ハリファックス級フリゲートの「オタワ」と「バンクーバー」、そして補給艦「アストリクス」です。

カナダ海軍は2018年以降毎年、インド太平洋地域に軍艦を長期間展開させており、日本にもその都度艦艇が寄港しています。しかし、補給艦を含む3隻の艦艇が同時に海上自衛隊の基地に入港したことはこれまでなく、その意味で非常にレアな光景といえるでしょう。

カナダ海軍艦艇が接岸すると、基地内では横須賀地方総監部管理部長の塚越康記1等海佐による歓迎式典が執り行われ、記念品が贈呈されました。3隻は、9月1日まで横須賀基地に停泊するとのことです。

出港後は別々の活動を実施

これら3隻の艦艇は、横須賀を出港するとそれぞれが別の活動に従事することになります。在日カナダ大使館の駐在武官であるロバート・ワット海軍大佐は次のように説明します。

まず「バンクーバー」は東シナ海方面に移動し、そこで北朝鮮船籍の船に対する違法な「瀬取り」を監視するための活動である「オペレーションネオン(NEON)」を実施。これは、国連安全保障理事会の決議に基づく北朝鮮への経済制裁に関する実効性を高めるべく、北朝鮮船籍の船に物資を積み込む、あるいは逆に物資を受けとる瀬取り行為を監視するためのものです。カナダはもちろん、日本やアメリカ、イギリスドイツなど複数の国から要員が派遣されている「執行調整所(ECC)」の下で実施されます。

一方、「オタワ」は東南アジア方面に移動し、そこで各国との共同訓練や親善訪問を行うとのことですが、その過程で台湾海峡を通過することも明らかにされました。これまでも、カナダ海軍の艦艇は何度も台湾海峡を通過してきており、最近では2023年6月にアメリカ海軍駆逐艦チャンフーン」と共に、ハリファックス級フリゲートの「モントリオール」が通航しています。また、「オタワ」は南シナ海での活動も予定されており、国際法で定められている「航行の自由」に基づき活動するとのことです。

台湾海峡を通過する真意は

ちなみに今回の展開は、現在のところカナダのプレゼンス(存在感)を示すためのグローバルな活動である「オペレーションプロジェクション(PROJECTION)」に基づいて実施されていますが、5か月間に及ぶこの展開期間中に、これが「オペレーションホライズン(HORIZON)」に置き換えられることになります。

これは、インド太平洋地域での活動により特化した作戦活動で、各国との共同訓練や親善訪問などを通じて、インド太平洋地域におけるカナダのプレゼンスを高め、協力関係を強化することを目的としています。

今回の展開に関して、メディアによる報道で注目されたのは「カナダ海軍の艦艇が台湾海峡を通過する」という点です。そして、なぜこれが注目されたのかといえば、台湾をめぐって各国との緊張関係が高まっている昨今、中国の言動に対抗するものとして報道各社が解釈したからだと、筆者(稲葉義泰:軍事ライター)は考えます。しかし、これについては少々整理が必要です。

というのも、筆者が2019年に沖縄県のホワイトビーチへ寄港したカナダ海軍のフリゲート「レジャイナ」を取材した際、その直前に台湾海峡を通過したとのことで、これは中国への対抗を意図したものかという質問が取材陣から出ました。その際、「レジャイナ」の艦長は「特定の国を対象とするものではなく、南シナ海から東シナ海に向かうためには台湾海峡が便利であるため、国際法で認められた航行の自由に基づき通過した」という趣旨の説明を行ったのです。

アメリカとは違うカナダの活動

さらに、前述した在日カナダ大使館の駐在武官であるワット海軍大佐は、カナダ海軍の活動は「航行の自由を行使するものであるが、『航行の自由作戦』ではない」と明言しています。

航行の自由作戦とは、領海や排他的経済水域(EEZ)などにおいて、国際法上認められないような過度な主張を行う国に対して、それを認めないという意思を示すために軍艦などを航行させるというもの。アメリカ軍の作戦行動の一種でもあります。

それを踏まえて考えると、カナダ海軍の艦艇はたしかに航行の自由作戦に基づきアメリカ海軍の艦艇が活動する海域と同じ場所を航行するとしても、それはあくまで国際法における航行の自由が認められている海域を粛々と航行しているだけ、ということになります。つまり、特定の国の主張に真っ向から対抗するのではなく、間接的にそうした主張を認めていないことを示すことを狙っていると考えられます。

こうした「やんわり」とした活動は、日本とも相通じるものがあると筆者は考えます。たとえば海上自衛隊は近年、南シナ海での活動を強化していますが、アメリカが主導する航行の自由作戦には一度も参加したことがなく、また日本政府の立場では、現在のところ参加する予定もないといいます。しかし、他方で南シナ海における中国の主張を認めているわけでもありません。今後、こうした柔軟な姿勢を共有する日本とカナダは、安全保障面でより一層協力関係を構築していくことが見込まれます。

海上自衛隊横須賀基地に入港するハリファックス級フリゲートの「バンクーバー」。手前の艦首は「オタワ」(2023年8月28日、稲葉義泰撮影)。