ラッパーも抱えるプロe-Sportsチーム・FENNEL(フェンネル)が、またユニークな試みを発表した。都内某所に居を構えるチームのビル1階に、音楽スタジオを設立したのだ。

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ゲーミングスペースのような音楽スタジオ、しかも監修したのがレゲエパンクバンド・SiMのボーカルであるMAHさんというから驚きだ。

これは、プロゲーミングチームが音楽に本気を出す狼煙なのか──今回、そのMAHさんと、FENNELに所属し音楽制作を行うラッパー・OZworldさんの対談が、スペースシャワーTVの番組「FENNEL presents OZworld × MAH」と連動して実現した。

その話題は、ゲームとその魅力・シナジー性だけにはとどまらず、2人が主戦場としている音楽──それも日本のロックとヒップホップの現況と未来にまで及んだ。



取材・文:草野虹 編集:にいみなお 写真:Taka”nekoze photo

OZworldとMAHの邂逅 ゲームと自分との関係は?



MAH こうしてちゃんと話をするのは初めてだよね?

OZworld そうですね。前にお会いしたのは、1月の「FENNEL 2023 NEW YEAR PARTY」(内々の新年会)で「FENNEL CUP」を開いたときでしたよね。東京タワーにある会場で。



MAH ゲームを始めたのはいつ頃だったの?

OZworld 小学1年生くらいですね。母方のオジーとオバー(祖父母)の家で暮らしていて、母がゲームを買ってくれたんです。

母からすれば「わたしはいないけど、これで遊んでてくれ」という気持ちだったと思うんですけど、オバーからするとちょっと嫌だったみたいで、ある時からゲームをめっちゃ隠されるようになって(笑)。途中から、ゲームを探すこと自体がゲームみたいな感じになりましたね。

その後もいろんなゲームをやっていて、高校2年生で『グランド・セフト・オートV』(GTAV)をゲーム配信するようになってたんです。

MCバトル大会の『高校生RAP選手権』に出場した後のことで、出場してたメンバーと一緒に配信して、結構同接も伸びたんです。そこで曲を流したり、フリースタイルしながらゲームしたり……もうコンテンツ化してましたね。



MAH (配信始めるのも)早いんだ、すごいね。

OZworld そこからは『PUBG』『Apex Legends』とかのバトロワ系のゲームにハマったり、そればかりだと続かないタイプなのでサンドボックス系のゲームもプレイし始めて、それに萎えたらまたバトロワ系に戻ったり。ジャンルを行ったり来たりしてます。

MAH 俺も、めっちゃ一緒だわ。今ハマってるのが『プラネット ズー』っていうゲームなんだけど、小石一個にもこだわって「ここに置いたらリアルだな」とかやってるのね。

OZworld めっちゃわかるっす、その楽しみ方(笑)。MAHさんはどんなゲームの出会い方をしたんですか?

MAH 俺は初代『ポケットモンスター 赤・緑』をやってた世代で、そこから。高校からはバンドを始めたんだけど、バンドをめちゃ頑張ってるとゲームをする時間が全然とれないから、寝る時間を削ってゲームしてた



MAH 元々はオンラインでみんなと協力してっていうのはやりたくないタイプで、1人で没入してできるゲームが好きだったんだよね。その時にやってたのが『GTAV』で、オンラインモードはやらずにひたすら1人でやってたな(笑)。

オープンワールド系のゲームも好きで、『The Witcher 3: Wild Hunt』とかは相当やってたね。

そうして密かに業界のゲーム仲間が増えてきたところでたまたま「ゲーム番組をやってみないか?」という話をいただいて、スペースシャワーTVさんでゲーム番組を始めたんだよ。



MAH そこからコロナ禍になって『Apex Legends』と出会って。最初はSiMのマネージャーがハマってて、彼に誘われて教わりつつプレイしたら、もうめちゃくちゃハマった感じだね。

バーチャルだからこそ生まれるイレギュラー

──e-Sportsやゲームは、自分にとってどのような存在ですか?

OZworld ラップバトルからアーティストへと気持ちを持っていこうとしたときに、自分のなかでどうしても「戦う」という部分がなくなったんです。その影響からか、e-Sportsのように白黒がハッキリつく世界が客観的に見られるようになって、面白くなったんです。

人間相手に物理的ではなくデジタルな領域を挟んで戦うというのも楽しいですし、仲間と一緒に目的を達成する感覚も、大人になると味わうことが少ないと思いますしね。自分にとってゲームは、いろんなことを学べる超最強ツールであり、何も考えずに楽しむツールなんです。

MAH 俺は番組でもプライベートでも『Apex Legends』をプレイしてるけど、始める前はマネージャーやバンドメンバーともあんまりしゃべらないような関係になってて、ゲームを一緒にやるようになってからより仲良くなったんだよね。このゲームって人を殺すゲームだけど、仲間で助け合うゲームでもあるじゃない?

コロナ禍で流行ったこともあるけど、人と実際に会えない中でバーチャル世界で一緒にしゃべりながら同じことをする、それこそ異世界にいって楽しめるというのは、ゲームならではの体験だよね。

OZworld スポーツで得られるチームの絆や深まり方がありますよね。

自分の場合、配信してたときに視聴者の子と一緒にゲームしたら、その後毎日一緒にゲームをする友達になったんです。北海道の子だったんですけど、5~6時間くらいかけて俺のライブを観に来てくれたりもしたんです。

バーチャルだからこそこういうイレギュラーが生まれるわけで、アーティストの自分としても当たり前なことじゃなかったりする。

MAH ゲームを良くないと思っている人たちは、いまだに「ゲームは1人でやるもの」だと考えると思うんだよね。でもさ、そんなことないじゃん?

OZworld 確かにそうですね。

MAH 俺の中学生の甥っ子も、友達と通話しながら『スプラトゥーン』をガンガンやってたし、それで良いと思うんだよね。外で遊ぶのも良いけど、ゲームをする友達もいて良い。

OZworld (遊ぶ)領域が変わったって感じですよね。

MAH そうそう! ゲーム専門学校で講師をしている友達からは、引きこもりになって中学時代うまくいかなかった子が、"ゲームだったら"ということで専門学校に通うようになって、親御さんもその変化に喜んでるという話を聞いたんだよ。

プレイしてる俺らでも思いつかないような進化や変化があって、昔のイメージを引きずっている人には是非知ってほしい。



FENNELと音楽 MAH監修の音楽スタジオとは?

MAH めっちゃ驚いたのは、OZくんとFENNELでムービーを出したじゃん? 実際、OZくんはこのe-Sportsチームの中で何をやってるの?

OZworld まず最初にやったのは"FENNELの応援歌"というか、自分のコンプレックスにオーバーカム(打ち勝つ)するための曲をつくったんです。




あとは『Over Zenith Cup』という自分がプロデュースする大会を開いてて、ラッパーやビートメイカー、沖縄出身のプロ野球選手、プロゲーマーやストリーマーと3つのジャンルからチームを組んで大会をやらせてもらいましたね。



OZworld これからもっと色々やろうと思っていますが、ちょっとその……このe-Sportsチーム、おかしくないですか(笑)?

MAH おかしいね、ラッパーが所属するのも音楽スタジオがあるのも、意味がわからない(笑)

OZworld このスタジオだけ見たら、e-Sportsチームだと思わないですよね。こういうぶっとんだチームと巡り合えたのはご縁があるなと思うし、こういうスタジオができたなら音楽でもっとうまく関わっていったり、自分のできることを活かしたりして貢献したいなと思ってます。

──そもそもMAHさんの監修で音楽スタジオを制作することになった経緯は?

MAH プロゲーマーやストリーマーが自分の番組に出演してくれるようになって、FENNELとも仲良くなったんです。

「『Apex』のコーチングしてほしい!」と相談してFENNELから色んな人を紹介してもらったり、仲良くさせてもらっていたら、スタジオをつくるっていう話を聞いたんです。最初は「え? なに言ってるんですか?」って思ったくらい(笑)

FENNELとしては「音楽について何かやってみたいけどやり方がわからない!」という思いがあって、そこで「スタジオを新設するならこういうつくりの方がアーティストさんは使いやすいよ」という感じでアドバイスしていきました。



──スタジオのコンセプトはどう決まったんですか?

MAH FENNELから話をうかがいながら徐々に提案していくなかで、サイバー感があってスタイリッシュな感じに固まっていきました。装飾やライティングに関しても、天井にLEDをビシっと張ってみようとアイデアを出して。

──さながら"ゲーミングスタジオ"みたいな。

MAH ゲーム関係のブースにあるオシャレさを音楽スタジオにも取り入れた方がいいんじゃない? なんて思って。音楽スタジオってどうしてもウッド調なところが多いじゃないですか。だからこそ、こういう暗くてカッコいい感じに仕上げました。

MAH ゆくゆくは色んな人が使ってくれれば良いなと思っているけど、まずは自分たちの知り合いに使ってもらうところから。使っていくことでスタジオの音も育っていくものだしね。それこそOZくんが使っても良いし、俺らが使っても良いしね。

──しかも、隣にはMAHさんのプライベートスタジオがある形ですよね?



MAH そうですね。俺の音楽制作用デスクとゲーム配信ができるデスクがあって、まさに俺のオフィスのようになっていますね。

自分自身が都内にプライベートなスタジオや拠点がほしかったので、FENNELのお話をもらった時に相談したら話が噛み合ったんですよね。



FENNELスタジオの音響面でのこだわり

MAH そんなに広くはないけど音響面でも都内でもかなり高レベルなものになっていて、無駄なものは逆に省いていて使いやすいと思います。

──音響的にこだわった部分はありますか?

MAH SiMと10年以上の付き合いがあるエンジニアさんと一緒にこのスタジオを手伝ったんです。

その方のこだわりも詰まっていて、ギターアンプが壁に埋め込めるようになっていたり、今後はスピーカーを天井につけて「上から音が降ってくる」感じにしていったり。

OZworld 話聞いてても「音が降ってくる? 神の声?」みたいな、正直想像ができてないです(笑)。

MAH なんというか「音に囲まれる」みたいな感じになるかな。



MAH ラッパーのレコーディングって、こういうスタジオを使うことはあるの?

OZworld ラップは、究極自分1人がいれば完結することができるので、宅レコの人もいるし、自宅スタジオをつくってしまう人も多いですね。ある程度のポジションまでいけば、こういったスタジオで収録する方もいます。

日本ヒップホップは、カルチャーとしてここ数年で一気に伸びてきている影響もあって、自分たちだけで完結させたい人が多いのかなと思います。

あと「音がめちゃ良いから良い曲」というだけじゃなく、「(音は)雑なんだけど良い」と許容される部分も文化的にあって。ヒップホップはいろんなスタイルがある音楽だと自分は感じています。

MAH 俺らバンド業界には「レコーディング期間」というものがあるんだよね。1日目はあのパートが録って、2日目はこのパートが録って、ボーカルはここまでに収録してという風に、ちゃんと順々に録っていく。

それ以外の日はほとんどライブか制作をしているわけだけど、俺は「ボーカルをここまでに録る」というのが特に嫌で。その日までに喉をつくっておかないといけない。しかも期間で区切ってもらっているからこそ、どうしても妥協しちゃう部分も出てきてしまう。

FENNELのスタジオやプライベートスタジオも、作業していて「今いけそうだ」と思ったその場で歌を録れるようにしたかったからで。ゲームしながらでも「あの曲のボーカルを録ろう」と思った時に、CDにするレベルでレコーディングできるので、ボーカルのレコーディング期間をとらなくて済むようになったんです。

OZworld 素敵ですね。俺はしっかりと録りたい時と、瞬間のシチュエーションを大事にしたい時があって、ベッドに横たわってマイクを上からぶら下げて「無重力レコーディング」なんて方法も試したこともあります(笑)。



OZworld 自分も時間に制約されることから逃げるためにそういう動きをしたので、制作しやすい環境をつくったり見つけたという意味では一緒なんだなと思います。

MAH 「今日からドラムを録音します!」という日までに終えなければいけなかったけど、レコーディングの順番を気にせず音をバンバン加えることができる。言ってしまえば、制作時間が無限にとれるんですよ。

この変化は大きいことで、そんなスタジオをゲーミングチームがつくってくれたっていうのは、やっぱりすごい話だなと思います。



2人を出会わせたFENNEL──その未来像とは?



MAH OZくんと初めて会った『FENNEL CUP』って2回目のイベントで、すごいメンツが集まってたのに、どこにも配信しなかったじゃない? 「次は配信した方が良いんじゃないですか」ってFENNELのスタッフに話したもん。

OZworld あんな贅沢なメンバーなのにね。

MAH 俺、『FENNEL CUP』の賞品で20万円分のリゾート宿泊券をゲットして、今度それで旅行に行ってくるんだよ。それすらも世間はだれも知らない(笑)。

OZworld ですね(笑)、見せたいですね!

MAH 前回はバンドマンが多かったけど、次はヒップホップシーンからも呼びたいよね。OZくんが進めている大会とは違う形で、うまい具合にやれればいいね。



──FENNELは今後どんなチームになっていくと思いますか?

OZworld 例えば今日の対談も、e-Sportsチームの企画なのに、この場にプロゲーマーもストリーマーもいないというこの絵面。こういうことが起こるのがFENNELというチームなんですよね。

自分たちアーティストというのは、(プロゲーマーから見て)別の生物だと思うんですよ。けど、己と格闘している部分は共通している。僕らがそこから吸収できるアート思考やマインドがあるし、プロゲーマーの皆さんがアーティストから学べるものもあると思う。

逆にこの環境だからこそ、音楽だけでは味わえない会話ができるのもFENNELというチームの良さだと思うので、それをフルに生かしてほしいです。e-Sportsと音楽、お互いがWin-Winな関係をもっと展開できると思ってます。

MAH ゲームに関してはどのチームも突き詰めてやってるけど、遊びの部分も本気でやろうとしていて、そこがブッ飛んでるし、すごいところでもあるよね。アーティストとゲーマーがこのビルの屋上に集まってバーベキューしてるってさ、すごいことだよね。

OZworld すべてこのビルで完結してるという。FENNELにしかできない動きをすでにしているし、むしろ他のチームにもそういう影響を与えていってほしいですよね。

音楽は勝敗の垣根を飛び越えたところにあるので、勝敗のあるゲームという世界で、勝敗のない音楽でも繋がりあえるのは、結構変態的で面白い

MAH このスタジオから曲を出す人が増えてきたら、音楽業界が「FENNELって何?」ってなるかもしれないよね。逆に言えば、プロゲーマーが音楽レーベルに所属することもあるし、音楽会社がプロゲーミングチームをつくるかもしれないし。

OZworld このスタジオが生まれた時点で……

MAH ナシじゃないってことだよね(笑)。

OZworld もしもFENNELのプロゲーマーが自分たちのプロモーションの曲を自分たちで歌うとかあったら、そのプロデュースとかめちゃくちゃしたいですもん。本人の活動からするとオプションかもしれないけど、それによって生まれる自信はハンパないと思うんですよ。

MAH NBAのバスケ選手って、ヒップホップの曲とかリリースするよね。ガス抜きかもしれないけど、遊びを本気でやって、プロである自分たちが手伝えれば良いよね。その時、e-Sportsという枠は超えられたんじゃないかなと思う。

俺もOZくんのようなチームのための曲をつくってみたいし、オフラインイベントで音楽ライブと融合したe-Sportsイベントもしてみたいですね。

『FENNEL CUP』で集まってくるアーティストがライブやったり音楽を制作したりすれば、それだけですごいことになる。

ロックとヒップホップ、融解する未来予想図

──コロナ禍が終息しつつある今、音楽フェスが盛り返し始めています。お客さんの声や反響は、コロナ禍以前/以後で変わっているでしょうか?

MAH 2000年代ロックフェスが徐々にうまれて、コロナ禍に入る2020年まではかなり成熟していたと思うんです。でもコロナ禍でライブに行く人が離れてしまった。今年からまた音楽フェスが復活してきてるけど、それまでのフェスシーンは3年経った今、もうなくなっちゃってるんですね。

──主催として「DEAD POP FESTiVAL」を運営していたり、ご自身がフェスに出演したりする肌感覚として、ですか?

MAH 俺の体感ですけど、今いる半分以上はコロナ禍の間にファンになってくれて、ライブに行き始めた子たち。ロック界隈ではライブ規制も厳しくやっていて、その状態しか知らない子たちが半分くらいいるんです。

だからこそ「モッシュやダイブをやってみたい!」と憧れてライブに参加して、SNSで話題になることもある。

なのでもう一回、コロナ以前の盛り上がりや成熟度まで持っていかないとダメです。ここから数年かけて、お客さんを育てていかないと。




OZworld ヒップホップフラストレーションダイレクトに代弁するカルチャーでもあるから、時には怒られながらもコロナ前の空気感を節々には残してた感じです。

ただ、例えば2022年の『POP YOURS』では観客は声を出してはいけないというルールで、みんな無言に拍手。だから代わりに急きょ「イエーーーイ!」っていう歓声が入ったサンプラーを出演数分前に録って、実際に流したんですよ。そしたらみんな面白がってくれて、次のAwichも、その後の出演者も続いていった。

今からすれば笑い話ですけど、あのムードをどうしたらいいか、出る側はめちゃ真剣でした。

──それぞれジャンルごとの向き合い方を迫られていますね。

MAH たぶん今ロック界隈の人は「ヒップホップってどんなだろう?」って、気になってると思う。ここ数年、ロックはヒップホップに勢いで負けてると思うし、「ヒップホップはすごいけど逆に負けたくないな」というのもあるから、気になって話してみたい人は多いんじゃないかな。

最近だと「FUJI ROCK FESTIVAL」でBAD HOPがバンド編成だったよね。バックについてたのがRIZEあっくん(金子ノブアキ)とかKenKenとかで、俺らからしても「そのバンド編成は見てぇ!」って思えるやつだった。



OZworld ラッパーのバンド編成、今後ゴリゴリに起こりそうですよね。自分はいつも一人でやってるからこそ、バンドがいるライブだと安心感がすごいんですよ。みんなそれぞれの役割をやりながら、自分と同じ方向、同じ目的でショーをしてくれる。その感覚に震えましたね。



MAH それを聞いちゃうと、年がら年中バンドを背負ってるありがたみをもっと感じないいけないな、俺は(笑)。

OZworld ヒップホップのアーティストもキッカケがないだけで、そういうイノベーションは期待しているし、求めてると思います。

──まさにこのスタジオが、そういったキッカケづくりの場所になれば面白いですよね。

OZworld プライド云々は抜きにして、お互いの力を合わせればもっと良いものをつくれると思うから、バンドの方々はバンドの良さをもっとラッパーたちに伝えていってくれたら嬉しいですね。

MAH たぶんその良さを一番わかってもらえるのは、ライブを見てもらうことなんだよね。フェスにラッパーの人たちがもっと呼ばれる状況になって、同じ舞台でロックバンドの演奏を生で見たら「やべぇ」って思ってくれるはず。

俺もこの前、主催してる「DEAD POP FESTiVAL 2023」にCrossfaithを呼んだ時にゲストのRalphを生で見て、「Ralphの声やべぇ!」って俺は思ったし、Ralphも生のバンドを見て「やべぇ!」って思ったはずでさ。そういうのが増えていくと良いな。





MAHが感じるロックの危機感「ヒップホップに負けたくない」

──先ほどMAHさんから「日本のロックは日本のヒップホップに勢いで負けてる」という話がありましたが、どのような部分からそう感じたのでしょうか?

MAH フリースタイルバトルに出ているラッパーを見ていて、めちゃくちゃギラギラしているのを感じるんです。バンドではあそこまでギラついた絵は生みだしづらいし、それだけでも映像コンテンツになってて面白いし価値がありますよね。

ロックバンドが売れるには、良い曲を書いてヒット曲を出すという道しかないヒップホップのように、コンテンツとして売れることはない。そういう部分で、ここ数年で明らかに差が広がったなと感じたんです。

──なるほど。

MAH ロック界隈で出てくる新しい子たちは、良くも悪くも普通で真面目、正統派な子が多いんです。バンドは複数人が集まるから、ヒップホップのように「成り上がろう!」という野心があっても、まず足並みがそろわないこともある。

バンドは変に型にハマっちゃってる子が多いから、もっとそこを飛び出して新しいことをやってくれるバンドが増えてくれば勢いを取り戻すのかなと。

例えば「デカいフェスに出演すること」を目標にしている子が多いんです。それは通過点でしかないのに、「自分たちで何を表現するのか?」みたいな部分をあまり持っていない子が多いんです。逆にそれがある一部のバンドは伸びてる。

ヒップホップには、英語が堪能だったり音楽的にも今までの日本語ラップとは違ったことをやっていたり、新しい才能がバンバン出てきていて、未来が明るく感じるんですよ。

根本的なマインドがヒップホップに負けてるなと思っちゃったりして、危機感はありますね。



OZworld ヒップホップだと「成り上がり」の文脈が前提で、むしろそれがヒップホップだと認識してるのもありますよね。

ヒップホップのそういうカルチャーが今のムーブメントに影響を与えて、だからこそコンテンツが育まれるんだと思います。しかも、そこからラッパー個々のストーリーまで生まれていく。

ただ、ヒップホップでも今後ゴールになりそうなフェスが生まれたら、ロックと同じような価値観をもったラッパーも出てくると思うんです。今だと、「『高校生ラップ選手権』に出るのがゴール」という価値観があるのかもしれないし。

MAH もっと下の世代にとってはね。

OZworld 自分にとっての「高校生ラップ選手権」もあくまで通過点でしたし、「こいつのフロウは面白いな」と強く思わせる負け方で──自分ではよく「一番良い負け方」って言ってます──をしたことで、音楽活動にフォーカスさせることができたんです。

ロックが陥った袋小路 新時代の“スター像”とは

OZworld 自分はロックについてあまり深くまでわかっていないですけど、LEXとかKOHHさんとか、ヒップホップをやってある程度までいった人がロックの歴史に触れると、みんな「ロックだ!」ってなっている印象もあります。

──海外のヒップホップなどで、ポスト・マローンやダベイビーはじめラッパーが「Rockstar」と題したヒット曲を生みだしたり、リリックやライフスタイルとしても言及する向きもあります。

OZworld そうですよね! ロックが持っているソウルに、ヒップホップをやっていると共感する部分が生まれるのかな? と思うんですけど。なんでなんですかね(笑)?




──日本のヒップホップにおけるスター像が今後どう変化していくかは、気になるところです。

MAH たぶん日本のヒップホップシーンにもこれから起こることだと思うんだけど、ロックフェス音楽フェスはすべての都道府県に何個もあって、これからシーンが広がってそういった全国のフェスに出演するようになっていくと、普通のサラリーマンや学生の子たちがライブに来てくれるようになる。

そういう子たちにとっては、俺たちが憧れていたような“ハチャメチャな奴ら”はウケないし、「それってカッコいいんですか?」という感じがある。そうなるとみんな発言には気を使うようになるし、真面目になっていくんです。

OZworld そういうことか……!

MAH 10年くらい前からロックバンドも、いわゆるロックな発言をしなくなっていって、スポーツマンシップがあるバンドが増えて神格化されだした。要するに“絶対に逮捕されない”“絶対に炎上しない”バンドにお客さんがつくようになって、持てはやされるようになった。バンドには真面目な子が増えたという流れにも繋がります。

俺がイメージするロックスターというと“セックス・ドラッグ・ロックンロール”なタイプですけど、今の日本にそういったロックスターは、ハッキリ言っていないと思います、俺を含めて。

ただ、ロックバンドやってるやつがロックスター像に縛られるのもカッコ悪い。だからこそ「俺こそがロックスターだ!」と自信をもって言える生き方をしていけば良い。それを自分のファンにもしっかりと伝えられて、理解させるくらいにまでになれば良いと思う。

OZworld その通りですよね。

MAH T-Pablowが「オレはスーパースターでフッドスターでロックスター」ってラップしているのを観て。俺くらいが知っている知識でも、彼にそれを言われたら「君がそういうんだったらそうだわ」って思っちゃったんだよ(笑)。それくらい、自分の生き方ややっていることで周りの人を納得させることができれば良いなと思います。

OZworld 舐達麻さんは大麻をネタにしたリリックでラップして、最近では地上波番組にまで出てました。「舐達麻がカッコいい!」と子供たちが支持すれば親も止められないですし、そのムーブメントやニーズに合わせてメディアも動いていくことになる。



OZworld ある時代のロックスターやヒップホップスターはそうだったけど、今の時代にはハマらない。時代によってアートのあり方は変わるし、今の時代の制限やマーケットの価値観を受け取った上で、新しいロックスターやヒップホップスターが生まれると思うんですよね。

本当に大衆に認められるロックスターやヒップホップスターというのは、新しい価値観を生み出して「これだ!」と思わせる存在なんだと思います。



スペースシャワーTVで番組を視聴する

(左)OZworld(右)SiM・MAH FENNEL音楽スタジオにて