アスタミューゼ株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 永井歩)は、地震、火災、風水害などの災害に対してデジタル技術を活用して防災・減災を図る「防災DX」に関する技術領域において、弊社の所有するイノベーションデータベース(論文・特許・スタートアップ・グラントなどのイノベーション・研究開発情報)を網羅的に分析し、動向をレポートとしてまとめました。

はじめに

地震や台風などの被害を軽減するために、さまざまな技術が開発されてきました。最近でも、ハワイのマウイ島やギリシヤなどで大規模な山火事が発生するなど、災害が増加しています。

注目されるのが「防災デジタルトランスフォーメーション(DX)」というデジタル技術を活用した災害対策の方法です。これから防災技術はどのように変化していくのか。また、災害の多い日本はどのような状況なのか。

防災DXに関連する技術データから、地震対策やスマート防災技術に関する現状と今後の展望について説明します。

防災技術のDXとは

2023年8月には、日本では台風7号が本州に上陸し、ハワイ・マウイ島では大規模な山火事(注1)が発生しました。

注1:https://governor.hawaii.gov/wp-content/uploads/2023/08/2308060_Sixth-Proclamation-Relating-to-Wildfires-signed.pdf

これらのような大規模な災害には、事前の予測や防災、災害後の復旧作業は欠かせません。避難のためには、通信技術とカメラやセンサなどのデバイスを活用した災害予測と警報の伝達が重要です。また、被害を軽減するための技術として、建築物の耐震性や免震技術なども考えられます。

さらにリアルタイムで被害状況を監視することも、防災と早期復旧の観点から大切です。これらの技術は、地球規模でみられる気象災害に対してもますます需要が高まっています。

デジタル技術を活用して防災・減災を推進する「防災DX」(注2)が注目されており、自治体や機関がこの取り組みを進めています。

注2:https://www.kentem.jp/blog/20230804/

例えば、東京都はGPSやドローンなどを活用した防災システムを積極的に導入しています(注3)。

注3:https://www.bousai.metro.tokyo.lg.jp/taisaku/torikumi/1000061/1013021.html

他にも、デジタル庁は「平時」「切迫時」「応急対応」「復旧・復興」という4つの段階に対応する有用な防災システムやアプリを紹介する「防災DXサービスマップ」(注4)を提供しています。

注4:https://bosai-dx.jp/

防災DXの動向分析

アスタミューゼは、世界中の研究開発予算(グラント)、特許、論文、スタートアップなど、イノベーションに関わる膨大なデータベースを保有しています。ここでは、防災DXに関連する技術の特許データを用いて、現状と今後の展望について説明します。

図1では、国別の年ごとの出願数の推移を示しています。中国の出願数がもっとも多く、アメリカ、日本、韓国が続いています。とくに中国の出願件数は急激に増加しており、2020年では2012年の7倍に達しており、2位の米国とは大きな差があります。日本は自然災害が多い国ですが、防災DXに関する特許出願数はアメリカや韓国とほぼ同等です。

図1:防災DX関連特許の国別出願数の年次推移(2011~2021)

次に、地震、火災、風水害などの主な災害を分類し、その対策に関する特許出願の推移を図2で示しています。2018年から2020年までのあいだ、火災に関連した特許出願がもっとも多なっており、その後は地震、風水害の順となっています。

図2:防災DX関連特許の災害別出願数の年次推移(2011~2021)

2011年を1として他の年度の出願数と比較した図3からは、地震関連の特許出願は伸びがあまり高くない一方で、火災と風水害に関連する特許出願は、2015年以降急激に増加し、2020年にはそれぞれ約7倍と約6.5倍にのぼっていることがわかります。

図3:2011年の出願件数を1とした時の防災DX関連特許の災害別出願数の年次推移(2011~2021)

これらのことから、今後は風水害関連の防災DX技術特許も成長する見込みがあり、注目すべき領域と考えられます。ただし、特許データは出願から公開までに18か月以上かかるため、実際の出願数がデータベースに反映されるまでに時間がかかることに留意が必要です。

火災に関連する防災DX技術の特許スコアリング

アスタミューゼでは、独自のアルゴリズムを用いて特許の評価を行っています。各特許には、特許競争力を示す「パテントインパクトスコア」が付与され、それを基に出願人ごとに「トータルパテントアセット(TPA総合特許力)」が算出されています。ここでは、先ほどの解析で特に出願件数が急増した火災と風水害について、詳細な解析を行います。

火災関連の防災DXに関する出願人の帰属国別トータルパテントアセット(TPA)上位5カ国を図4に示します。国ごとのランキングを見ると、中国が出願数およびTPAの両面で最も高く、次に韓国とアメリカが続いています。特に、中国は韓国の2倍以上のTPAを持っており、火災関連の防災DX分野では中国が優位であると言えます。

図4:火災に関連する防災DXのTPAランキング上位帰属国5件

企業別のTPA上位5社の結果が図5です。企業別ランキングを見ると、電力会社や防災設備メーカーが上位にランクインしています。日本とアメリカの企業も各2社がランク入りしています。また、各企業のスコアを個別に評価すると、気象データや衛星データを活用して送電線由来の山火事リスクを予測するモデルや、無線技術を通じて携帯機器を通して多くの人に火災情報を迅速に伝える技術などが高いスコアを獲得していることがわかります。

図5:火災に関連する防災DXのTPAランキング上位企業5件

風水害に関連する防災DX技術の特許スコアリング

風水害関連の防災DXに関する出願人の帰属国別トータルパテントアセット(TPA)上位5カ国を図6に示します。国ごとのランキングを見ると、中国が出願数およびTPAの両面で最も高く、次に韓国と日本が続いています。特に、中国は韓国の10倍以上のTPAを保有しており、関連の防災DX分野でも中国が大きな優位性を有していると言えます。

図6:風水害に関連する防災DXのTPAランキング上位帰属国5件

企業別のTPA上位5社の結果を図7に示します。企業別のランキングでは、中国の電力会社や大学・研究機関が上位5社を占めています。個々の出願特許のスコアを見ると、電力網に対する水害や台風などのシミュレーションに関する技術や、洪水の予測やシミュレーションを活用した洪水対策技術、地滑り土石流の予測技術などが高く評価されていることがわかります。

図7:風水害に関連する防災DXのTPAランキング上位企業5件

火災とおよび風水害に関連する防災DX技術について、2021年から過去5年以内の注目事例を紹介します。

火災に関連する防災DX技術

  • タイトル:Method of protecting life, property, homes and businesses from wild fire by proactively applying environmentally-clean anti-fire (AF) chemical liquid spray in advance of wild fire arrival and managed using a wireless network with GPS-tracking

    • 出願人:Mighty Fire Breaker LLC

    • 公開番号:US11400324B2

    • 出願年:2020

    • 特許概要:GPSによる山火事の監視、およびGPSを用いた遠隔制御による防火液の散布による山火事の到達を防止するシステム

  • タイトル:Video field fire smoke real-time detection method based on convolutional neural network

風水害に関連する防災DX技術

  • タイトル: Flood monitoring and management system

    • 出願人:One Concern Inc.

    • 公開番号:US11519146B2

    • 出願年:2018年

    • 特許概要:気象データを活用した洪水予測や浸水緩和計画用のシミューレーションシステムに関する技術

  • タイトル:RTK high-precision differential positioning deformation monitoring system and method

    • 出願人:桂林電子科技大学

    • 公開番号: CN108317949B

    • 出願年:2018年

    • 特許概要:GPS情報を活用したリアルタイムキネマティックにより地滑りの動的な変形を監視するシステムに関する技術

まとめ

災害の分野別に見ると、地震、火災、風水害の3つの分野における防災DXの特許出願数は全て増加していますが、増加率を比較すると、地震の分野は伸びが緩やかであるのに対し、火災と風水害の分野では2011年から2020年にかけて6倍以上の増加がみられます。特に火災分野の防災DXは、その出願件数も考慮すると、今後更なる成長が期待される注目すべき領域と言えるでしょう。

さらに、防災DX全体の出願件数および火災、風水害の分野におけるスコアリング結果を見ると、中国が1位となっており、日本は大きく遅れている現状が浮き彫りになります。日本は地理的な特性や気象条件から災害が多発しやすい環境にあります。そのため、防災DX技術の開発が急務であると言えるでしょう。

著者:アスタミューゼ 田澤俊介 博士(工学)、源泰拓 博士(理学)

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それらを用いて、事業会社や投資家、公共機関等に対して、データ提供およびデータを活用したコンサルティング、技術調査・分析等のサービス提供を行っています。

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