●いま話題のジブリ映画君たちはどう生きるか』に出てくるアオサギは食べると美味しいのか? 珍食材や昆虫食に精通するライター・ムシモアゼルギリコが実食! ※注意:この記事には、生き物の解体写真が登場します。狩猟や鳥獣被害に理解のある方のみご覧ください

 アオサギを、この夏はじめて食べました。いま話題の映画『君たちはどう生きるか』(監督・宮崎駿)で主人公を異界へと誘うあの鳥です。アオサギは都会でも水辺で比較的よく見かけられるようですが、狩猟の対象として認められている「狩猟鳥獣」ではないので、食材として出回ることはほぼありません。

 なのにそれを口にすることになったのは、まったくの嬉しい偶然でした。提供してくれたのは、友人家族らと泊まった東日本の某避暑地にある宿。きっかけは、酒のつまみにと持参した、タケオオツクツク(竹藪に発生する、外来種のセミ)のオイル漬け。

 迷惑にならぬようひっそり食べようと思っていたら、宿のご主人がそれを面白がってくれ、セミ食は初体験だと言うにも関わらずまったく躊躇せずヒョイパク。そこから宴が盛り上がり「うちの冷凍庫には今アオサギが」なる、シュールな在庫情報が流れ出したのです。

 えええええ。アオサギ!? いま旬の! 駿の!(※旬と言っても食べごろという意味ではありません)。アオサギって美味しいの? そもそも捕っていいの? いつどこで捕れるんだ?

 矢次早に質問を飛ばしながら「食べたい食べたい絶対食べたい。でもそんな貴重なものを食べさせてとは言いにくい……」という心の声が全身からダダ漏れになっていたのでしょう。サラッと「明日の夜、出しましょか?」とご主人が申し出てくださったのです。なんという、ラッキー珍味。セミでアオサギが釣れてしまった。

カチコチのアオサギとご対面。いざ実食へ

突如お披露目される在庫のアオサギ。冷凍庫からやってきたのでカチコチだ
突如お披露目される在庫のアオサギ。冷凍庫からやってきたのでカチコチだ

 アオサギのエサは、カエルザリガニ、虫、魚など水辺の生き物です。すると捕食時に、田植え後の苗を踏み荒らして被害が生じることがあります。そこで 自治体より有害鳥獣とみなされた場合、捕獲・駆除の対象となるのです。このアオサギも、そのひとつ。ハンターでもある宿のご主人が自治体からの要請で駆除に協力し、手に入れたものとのこと。

 宿のご主人は「駆除にかり出されるのは6月。この時期のアオサギは、エサをたっぷり食べているからか味がいい」と話します。ところが一般的には「魚食の鳥は美味しくない」が、定説でもあります。ちなみに狩猟とジビエの販売を生業にしている友人H曰く「最悪なのはウ(鵜)。魚を捌いた後の排水口のような……とにかく臭い」と。しかし宿のご主人曰く、魚も食べているであろうアオサギは「めちゃうま」。さて、どうなるのか。

解体は翌日夕方から。解凍され、ちょっと生々しくなったアオサギ
解体は翌日夕方から。解凍され、ちょっと生々しくなったアオサギ

 アオサギは他の鳥と同様に当然皮も食べられるものの、羽を丁寧に抜く作業というのはなかなかに大変です(これは私も何度か経験があるのでとてもよくわかる)。そこで今回は、宿のご主人いわく「猟師がよくやる方法」として、獣のように毛を皮ごと剥き、肉を取り出す手法で処理されることに。

切り落とされた翼を広げてみる。重要な部位として映画で描かれていた「風切りの7番」はどれだろう
切り落とされた翼を広げてみる。重要な部位として映画で描かれていた「風切りの7番」はどれだろう

 アオサギの解体を見学していると、まず「肉が少ない」ということがわかります。全長約90cm、翼を広げると約160cm以上。日本最大のサギと言われるあの大きな体で空高く飛ぶには、翼の素晴らしい構造をもってしてもなお、身軽である必要があるのでしょう。アオサギが、一般に食べられていない理由のひとつでもありそうです。見て触って重さを確認して、鳥の仕組みをしみじみと実感。そして首と翼を落とされ丸裸になったアオサギは、宿のキッチンへと下げられていきました。

チキンを見慣れていると、もも肉のスリムさに驚く。飛ぶ鳥は、軽量化のため胸筋以外がコンパクト
チキンを見慣れていると、もも肉のスリムさに驚く。飛ぶ鳥は、軽量化のため胸筋以外がコンパクト

 そんな過程を経て、夜。お待ちかねの実食です。大人6人で脚周辺を中心に味見させてもらったので、小皿にひとり2切れずつ。シンプルに塩コショウをふって焼いたアオサギが供されました。

 その貴重な肉を口に入れてじっくり噛みしめると、脂肪が少なく身がしまった赤身肉の力強さはありつつも、硬さはなくしっとりした舌触り。血の臭みというほどの感じではないものの、わずかに鉄っぽい風味もあり、鴨肉に近い味わいでした。

塩コショウをふって、シンプルに焼いたアオサギ。赤身の力強い味わいが、肉の色からも伝わってくる
コショウをふって、シンプルに焼いたアオサギ。赤身の力強い味わいが、肉の色からも伝わってくる

 しかし、この2切れの賞味でアオサギの味を語るのはいささか乱暴でしょう。私が日頃虫を食べていて思うのは、調理はもちろん捕獲した後の保存状態や個体差でも味は大きく変わり、毎年そこそこの量を食べていても「この虫はこういう味」とまでは、なかなか言い切れないこと。

 同じ鳥類で食べたことのある珍しいものでは、カラスとクジャクがありますが、3回食べたカラスはそれぞれ味の印象が全く違い、クジャクは保存状態が悪く臭みが強く、味の印象は「よくわからない」というのが正直なところでした。

 よって「アオサギの味」の良し悪しは不明。でも、この2切れに関しては「間違いなく、美味しい」です。多くの野鳥に通じる力強い味わいでいてクセや臭みはなく、食べやすい肉でした。

『世界大博物図鑑4鳥類』(荒俣宏著/平凡社)によると「中世ヨーロッパでは、サギの肉が賞味され、クジャク料理と同じく長寿の効果があると信じられた」とありました。さらに、サギを対象にした鷹狩りも流行したとのこと。当時の狩猟は貴族の特権でしょうから、味わいや効率は二の次に、ステイタスをアピールするために食べる“高貴な肉”だったかもしれません。そうした時代に思いを馳せればなお一層、幻の味感が高まります。

君たちはなぜアオサギを食べないのか。

食肉視点で鑑賞するとまた味わい深い(食楽web)
食肉視点で鑑賞するとまた味わい深い(食楽web)

 映画のアオサギに話を戻せば、物語の舞台は戦時中。主人公の父が運んできた食料に歓声を上げるお屋敷の使用人たちの様子からも、物資不足である状況がうかがえます。

 あれだけ大きなお屋敷であれば、関係者に猟師もいるのでは。屋敷の周りをうろついている大きな鳥などサクッとおかずにされてしまいそうな気がするのですが……昔から不思議なことが起こるという土地の住人であるアオサギは、どこか不気味で不可侵な存在で食べにくいのか? 単に「食べる習慣がない」というだけなのか? たまたま猟師はいなかったのか? 食べものとして見ていたのは、私だけなのか?

解体中、破棄された翼から羽を頂戴した。光にかざして眺めると、名前の由来とされる青みがかった色合いや、空を飛ぶために空洞になっている骨も確認できる
解体中、破棄された翼から羽を頂戴した。光にかざして眺めると、名前の由来とされる青みがかった色合いや、空を飛ぶために空洞になっている骨も確認できる

 戦時中の生活にまつわる話に触れるといつも「君たちはなぜ虫を食べないのか」と言いたくなりますが(食べていた地域もあります)、今回は映画を観たタイミングで今はかなりの数が駆除されていることを知り「君たちはなぜアオサギを食べないのか」となりました。

 こんなに美味しく食べられるなら、駆除された分はまた、口にできる機会があると嬉しいものです。って、これじゃまるで、レアな肉を扱うジビエ店へのラブレターですね。

●著者プロフィール

ムシモアゼルギリコ
フリーライター。記事の執筆のほか、TV、ラジオ、雑誌、トークライブ等で昆虫食の魅力を広めている。昆虫食だけでなく、一般の食卓では見かけないような食材を追うのが好き。著書に『びっくり! たのしい! おいしい! 昆虫食のせかい むしくいノート』(カンゼン)、『スーパーフード! 昆虫食最強ナビ』 (タツミムック) 。

映画で、異界への案内人として活躍したアオサギ。コウノトリと似ているが、飛ぶときに首がS字になるのが大きな特徴 | 食楽web