日米両政府が新型の迎撃ミサイル「GPI」の共同開発で合意しました。GPIは極超音速滑空兵器の迎撃用となりますが、すでに日本は「PAC-3」や「SM-3」などを保有しています。これらでは迎撃できないのでしょうか。

令和6年度概算要求にも関連予算を計上

防衛省は2023年8月19日、日米両政府が新型の迎撃ミサイル「グライドフェーズインターセプター(GPI)」を共同開発することで合意したことを発表しました。このGPI、迎撃対象とするのは「極超音速滑空兵器」というミサイルの一種です。

これは地上の発射装置から打ち上げられると、ある高度でミサイル先端の弾頭が分離し、高度を上下させながらグライダーのように滑空して目標まで飛翔するというものです。GPIは、名前に「グライドフェーズ(滑空段階)」とあるように、これを滑空途中で迎撃することを目指しています。

しかし、現状でも日本とアメリカは弾道ミサイル防衛(BMD)能力を有するイージス艦や、各種迎撃システムを配備しています。ここにきて、なぜ新型のミサイルを共同開発する必要があるのでしょうか。

弾道ミサイルとの違いが大問題

弾道ミサイルの場合、一度発射されてミサイルから弾頭が分離されると、弾頭は目標に向かって単純な楕円軌道を描いて飛翔していきます。つまり、一度弾頭が切り離されると、しっかりとレーダーなどで追尾さえできていれば、それ以降は「いつどこを通るか」という弾道の予測ができるわけです。従って、迎撃ミサイルをその地点へ誘導すれば、見事命中するということになります。

ところが極超音速滑空兵器は、先述したように滑空しながら目標へと飛翔していくのですが、この時上下だけではなく左右にも弾頭を機動させることができます。大きくカーブを描いて飛んでいくこともでき、弾道ミサイルと比べて軌道が計算し難くなるのです。さらに弾道ミサイルと比べると、極超音速滑空兵器は大気圏内の低い高度を飛翔します。すると、地上配備型の早期警戒レーダーでは、飛翔中の弾頭が地平線の下に隠れてしまい、相当近づくまでこれを探知できないのです。

SM-3があるけど… GPIの意義とは

さらに、現在BMD任務に就いているイージス艦には迎撃ミサイルとして「SM-3」が搭載されていますが、このSM-3には最低射高、つまりそれ以上低い高度を飛んでいる目標は迎撃できないラインが、約70kmとされています。一方、極超音速兵器はこれより低いか、少なくとも相当ギリギリの高度を飛翔するため、SM-3では対応が困難。そこで新たな対抗策としてGPIの開発が始まったというわけです。

ただし現在、極超音速滑空兵器への対抗策として検討されているのはGPIだけではありません。たとえば、アメリカ海軍では既存の艦対空ミサイルである「SM-6」を使い、GPIを終末段階(目標に向かって落下してくる直前の段階)で迎撃しようと試みています。また、航空自衛隊にも配備されている地対空ミサイルシステム「PAC-3」でも、同じく終末段階において迎撃できる可能性はあるでしょう。しかし、それでもGPIの意義が揺らぐわけではありません。

GPIは、こうした終末段階での迎撃システムよりも前方での対応を任務としています。そのため、これを組み合わせることにより、多層的な防衛網を構築することができます。もし、終末段階の迎撃システムのみに頼る場合、それが迎撃に失敗するとあとにはもう策がない、という事態に陥ってしまいます。つまり、GPIが加わることにより、より広い範囲を、より確実に防護できるようになるわけです。

もともと、GPIはアメリカでその開発が決定されたもので、現在は企業間の競合が行われています。当初は、レイセオン、ノースロップグラマンロッキーマーチンが名乗りを上げていましたが、現在ではロッキーマーチンが脱落し、残る2社が契約獲得を競い合っている状況です。日本でも、2023年8月31日に公表された防衛省令和6年度概算要求において、共同開発に際して日本側が担当するパートに関する調査などのため、750億円の予算が盛り込まれました。

もともと、日本とアメリカでは先述したSM-3の最新バージョンである「SM-3ブロックIIA」を共同開発したという実績があります。今回のGPI共同開発では、その際の経験や教訓などが生きることになるでしょう。

イージス艦から発射される艦対空ミサイル「SM-6」(画像:レイセオン)。