物珍しさから、海外を訪れる韓国人観光客の間で人気だった北朝鮮レストラン、通称北レス。中国でも人気を呼び、一時は全土で100店舗を越え、北朝鮮と鴨緑江を挟んで向かい合う遼寧省の丹東には、「北レスの隣の隣が北レス」というほどの商業集積まで現れていた。

ところが、国連安全保障理事会の対北朝鮮制裁決議案で多くが廃業に追い込まれ、コロナ禍でほぼ息の根を止められた。生き残った店は、過激なサービスでなんとか生き残ろうした。

コロナが収まり、ようやく息を吹き返したものの、物価上昇や中国の景気減退などで、どこも青息吐息であることには変わらない。米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が、その現状を伝えている。

丹東にある北朝鮮レストラン「松濤園」。鴨緑江のほとりに面した一等地で営業を続けてきたが、制裁の影響で廃業を余儀なくされ、店名を変えた上で営業を再開した。働いているのは8人。うち3人がサービングを行っている。

現地情報筋によると、このレストランの主な顧客層は中国人観光客や北朝鮮の駐在員だ。何度か足を運んだことがあるという情報筋は、チェンバングクス(大皿に盛られた汁なしの冷麺)が30元(約600円)で、コロナ前と値段は変わっていないという。また、一般的に北朝鮮レストランの料理の価格は、中国の物価レベルでは若干高かったが、今ではそうでもない。

松濤園以外にも、玉流食堂など丹東市内の北朝鮮レストランのうち、何店舗かはコロナ禍を生き延び、営業を続けている。

しかし、別の情報筋は北レスの厳しい内情について語っている。

「料理も従業員の歌や踊りもマンネリ化する一方なのに、価格は上がり、中国現地の客にも背を向けられてしまった。ちなみに中国でビールは1本3元(約60円)から5元(約100円)が相場だが、北朝鮮レストランは、丹東で生産されている鴨緑江ビール1本で25元(約500円)も取り、客は腰を抜かす」

また、頼みの綱だった中国人観光客や韓国人観光客もすっかり訪れなくなってしまった。中国人にとって丹東観光の目玉のひとつが、パスポートなしで行ける北朝鮮日帰りツアーだったが、北朝鮮は今のところ、外国人観光客受け入れを再開していない。そのせいで丹東に来ても、鴨緑江の遊覧船から北朝鮮を眺め、北朝鮮レストランに足を運ぶくらいしかやることがない。

韓国人のみならず、中国を訪れる外国人観光客の来店もコロナ前から伸び悩んでおり、コロナ禍を経て大幅に減ったままだ。

ロシア北朝鮮レストランも不況に喘いでいる。

沿海州のウラジオストクを訪れた韓国・東亜大学の姜東完(カン・ドンワン)教授は、RFAの取材に、かつてロシア国内には4店舗の北朝鮮レストランがあったが、現在は2店舗だけが以前どおり営業しており、沿海州の北朝鮮レストランはほぼ廃業状態だと述べた。

地域で唯一営業を続けているのは、日本や韓国のガイドブックでも紹介されているほど有名な「平壌館」だが、「金剛山」と「高麗館」は最近店じまいし、テナントには北朝鮮とは全く関係のないレストランが入っているとのことだ。

コロナ前には、ツアーオペレーターが契約を結び、韓国人の団体客を送り込んでいたが、コロナ禍で海外旅行ができなくなり売上が激減したことが廃業の原因だと、姜教授は述べた。

韓国観光公社の統計では、2019年6月の1カ月間、仁川国際空港発ウラジオストク行きの航空便は391便に達した。2019年1年間の利用客数は62万人を超えて、前年比で25%増加した。ところが、コロナ禍とウクライナ侵攻の影響で、今年9月現在、韓国からウラジオストクに向かう航空便はゼロとなっている。

2016年4月に集団脱北し、同月7日に韓国入りした北朝鮮レストランの従業員たち(韓国統一相提供)