航空自衛隊F-35B戦闘機の最初の配備先が、九州の新田原基地になりそうです。なぜ新田原なのかを考えると、選ばれるべくして選ばれた場所であることが見えてきます。

新田原基地でF-35B飛行隊結成へ

航空自衛隊へ2024年度に配備されるF-35B戦闘機の配備先が決定的になりました。防衛省は2023年8月31日に発表した令和6(2024)年度予算の概算要求で、同年度中に航空自衛隊新田原(にゅうたばる)基地へ、最初の飛行隊となる「臨時F-35B飛行隊(仮称)」を発足させる方針を明らかにしました。

防衛省は2021年7月に作成した「F-35航空自衛隊新田原基地への配備について」という名称の資料の中で、新田原基地に配備されるF-35Bは「将来的には防空任務に従事するが、当面は運用試験と機種転換訓練を実施する予定」であるとしており、「臨時F-35B飛行隊」はその任にあたる飛行隊になるものと思われます。

F-35をめぐっては、政府が2018(平成30)年12月18日に、航空自衛隊が運用しているF-15J/DJ戦闘機のうち、能力向上改修に適さない99機(Pre-MSIP機)の後継機としてF-35105機導入し、そのうち42機をSTOVL(短距離離陸・垂直着陸)型のF-35Bとすることを決定。2020年度から機体の調達などを開始していました。

そのF-35B航空自衛隊が運用する初のSTOVL戦闘機であり、また、必要に応じて海上自衛隊いずもヘリコプター搭載護衛艦に搭載されて運用されることもあって、どこの基地に飛行隊が置かれるのか注目されていました。

ずいぶん前から決まってた? 新田原へのF-35B配備

新田原基地にF-35Bを運用する飛行隊を置くという構想は、2018年のF-35導入方針決定以来、度々メディアでも報じられていましたが、今から約1年前の2022年7月16日に岸 信夫前防衛大臣が行った記者会見で、約20機からなるF-35Bの1個目の飛行隊を新田原基地に配備する方針が示されていました。

さらにこの会見からさかのぼること約半年前の2022年1月14日には、新田原基地の地元自治体である宮崎県新富町の小嶋崇嗣町長と、隣接する西都市の橋田和実市長が防衛省で岸前防衛大臣と面会し、F-35Bの配備を受け入れる意向を示していました。臨時F-35B飛行隊の新田原基地での新編は、2022年の早い段階で確実になっていたと言えます。

「新田原が最適」なこれだけの理由 実際どう運用?

飛行隊の設置がなぜ新田原なのか――防衛省航空自衛隊は新富町役場に対して、次のように説明しています。

今後、自衛隊施設を整備する方針である馬毛島(鹿児島県)での訓練が円滑に行えること、海上自衛隊の呉基地に配備されているヘリコプター搭載護衛艦「かが」との連携を深めていくことが可能な位置にあることから、新田原基地にF-35Bを運用する飛行隊を置く構想を固めたとしていました。

前にも述べたようにF-35BSTOVL能力を備えていますが、STOVL運用の際には機体後部の推進用ターボファン・エンジンに加えて、「リフトファン」と呼ばれる揚力発生用のファンも駆動させるため、推進用ターボファン・エンジンのみで飛行するF-35Aよりも生じる騒音が大きくなります。

このため防衛省は新富町役場に対して、新田原基地に配備されるF-35Bの同基地でのSTOVL運用訓練は緊急事態を想定した最低限のものにとどめ、本格的なSTOVL運用訓練は馬毛島で行うと説明しています。

また、航空自衛隊はこれまで艦艇で戦闘機を運用した経験がなく、いずも型護衛艦F-35Bを運用にするためには、海上自衛隊とのより密接な連携が必要となります。

いずも型護衛艦の2番艦である「かが」は、2021年度に1番艦「いずも」に先がけて艦首の形状変更などの大規模な改修を行っており、F-35Bの艦上運用体制の確立で大きな役割を果たすことが期待されています。

いずも」は2021年10月にF-35Bの発着艦試験を行っています。この訓練に使用されたF-35Bは、アメリカ海兵隊岩国航空基地に配備されている第242戦闘攻撃中隊の所属機でした。自衛隊いずも型でのF-35Bの運用体制を確立するにあたっては、アメリカ海兵隊との密接な協力も不可欠です。新富町役場に対する説明では触れられていませんでしたが、岩国航空基地に近いことも、新田原基地がF-35Bの配備先に選ばれた理由の一つなのではないかと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

有事を想定しても「那覇より新田原」

そして現在、南西諸島の島嶼防衛が日本の安全保障上の最大の課題であることも、F-35Bを運用する飛行隊が新田原基地に配備されるこことなった理由の一つだと筆者は思います。

航空自衛隊戦闘機が配備されている基地で、最も南西諸島の島嶼部に近いのは那覇基地ですが、那覇基地は有事の際に先制攻撃を受けることも十分考えられます。

仮に那覇基地の航空反撃能力が失われたとしても、後詰めとして艦艇や航空自衛隊戦闘機を運用する基地以外からの運用も可能な柔軟性の高いF-35Bを、南西諸島の島嶼部から遠くない新田原基地に配備しておくことは、抑止力強化の面でも合理的な考え方だと言えるでしょう。

着々と進んでいる新田原での受け入れ準備

防衛省は有事の際、基地への先制攻撃による航空反撃能力の喪失を避けるため、2021年度から航空自衛隊基地へ、航空機などを分散配置するための分散パッドの整備を進めていますが、その整備は新田原基地から開始されています。

また同省は前述した新富町役場に対する回答の中で、新田原基地へのF-35Bの配備に伴ない、指揮所、格納庫、訓練施設などの受入施設の整備も予定していると述べています。令和6年度予算の概算要求には、これらの受入施設を整備するための経費も計上されています。

航空自衛隊向けのF-35Bの初号機は来年(2024)年の秋ごろを予定しており、戦力化はかなり先の事となりますが、これまで述べてきたように、選ばれるべくして配備先に選ばれたと言っても過言ではない新田原基地のF-35Bの受入体制は、着々と構築されつつあります。

アメリカ海兵隊のF-35B戦闘機(画像:アメリカ海兵隊)。