知的遅れがある程度みられる子どもを持つ親の中には、「小学校と中学校を出た後、特別支援学校高等部に進むとどうなってしまうのか。特別支援学校高等部は“中卒扱い”になるので、就職するときに不利だ」と毛嫌いする人がいます。

 小学校入学の際、支援級や支援学校を選択してしまうと、学力的にも人間関係づくりにおいても、中学校から通常級に行くことは難しく、中学校も支援級か支援学校、そして特別支援学校高等部に進む道しかない…ということなのでしょう。

 確かにそうかもしれません。それはどうしてなのか。また、特別支援学校を卒業すると、本当に「就職に不利」なのか。子育て本著者・講演家である筆者がお話しします。

卒業後に「手にするお金」

 小学校入学時に、支援級や支援学校を選択した子どもは、中学校も支援級か支援学校、そして特別支援学校高等部に進むしかない――。その理由は、小学校の6年間、支援学級や支援学校に通って基礎学力をつけていない子が、中学校から通常級に行くことは「不可能に近い」からだと思います。

 例えば親がごり押しして、裁判を起こしたら通常級に行けるかもしれませんが……これでは、子どもがかわいそうだと思います。

 さて、高校には支援級が存在しないので、特別支援学校高等部に進むしかありません。その場合、就職時は最終学歴が“中卒”になってしまうとなると、小学校入学の段階から将来のことを考えて、「無理やりにでも通常級に進級させたい」と考える親御さんの気持ちも分かります

 実際、このように言われたことがあります。

「特別支援学校高等部に行くと、受験できず、大学にも行けず、いい会社に就職できないのを知っているんですか」

「支援学校からの就職は悲惨だよ。並みの給料はもらえない。だから、可能性があるなら少しでも通常級に賭けたいと思う気持ちも分かる」

「給料なんてまともにもらえないのを知っているのか」

 実際はどうなのでしょうか。特別支援学校高等部を卒業した後、障害者雇用枠で会社に入ったとします。管理職になるのは難しくても、社員として給料をもらい、障害がある場合は障害基礎年金も受け取ることができるかもしれません。

 障害基礎年金は各種手帳さえ持っていれば必ず受け取れるというものではなく、別途、医師に診断書を書いてもらった上で申請しなくてはなりません。でも手帳を持っていれば受け取れる可能性が高く、その額はおおむね月額6万円くらいです。その分を合わせると、大卒の新卒者と同程度の給料額を手にすることができます。

履歴書にどう書けばいいのか」と気にする人もいるかもしれません。特別支援学校高等部卒業の学歴は「高卒」でも「中卒」でもなく「特別支援学校高等部卒」、履歴書にはそう書けばよいのです。仮に、大学に進みたい場合は「高卒」と同等扱いになるので、受験の資格はあります。

卒業後の「進路」は?

 特別支援学校高等部の卒業後の進路は、次の5通りが考えられます。

(1)生活介護…常に支援が必要な人に対して社会生活能力を向上するための場
(2)就労継続支援B型…一般就労が困難な人が働く作業所。工賃として支給される
(3)就労継続支援A型…事業所から雇用される。最低賃金が保証される
(4)就労移行支援…一般就労を目指す就労訓練の場。2年間限定
(5)一般就労…法定雇用率による障害者枠で就労

 知的障害を伴う自閉症児として育った私の息子は、特別支援学校高等部を卒業した後、障害者雇用枠での就労を希望せず、就労移行支援事業所に進みました。

 どうしてかというと、「普通の人でも高校を卒業して就職する人はいるけれど、障害がある子がいきなり社会に出るのは厳しいのではないか」「大学や専門学校のような意味合いで、職業訓練をしっかりしてくれる就労移行支援事業所に行くのがいいのではないか」と考えたからです(就労移行支援事業所は療育手帳がなくても、受給者証を取って通うことが可能です)。

 息子は「ホープ神田」という就労移行支援事業所に、3年間通いました。通常は2年間限定のものですが、コロナの関係で就職活動ができない時期があったため、3年間が認められました。

 就労移行支援事業所を出て就職すると、月1回、事業所職員による「職場訪問」があります。就労定着支援のため、3年間訪問してくれます。

 もちろん、特別支援学校高等部を卒業後、すぐに就職した場合も学校の先生は職場に出向き、一定期間はフォローしてくれます。でも、支援学校高等部の先生たちは、来年度に新卒を迎える3年生の就職活動の支援で手いっぱいなのが現状です。卒業生の就労定着支援に関わっている時間はないのではないでしょうか。

「助けてください」と言えるようになる

 これは、ある企業の人が言っていたことです。

「自己肯定感が低く、自分自身の障害受容ができておらず、知ったかぶりをして、質問することを恥ずかしいと思い、注意を受けるとプライドが邪魔して素直に聞けない人は、実に扱いにくい」

 自身の「苦手」を分かっていて、「僕はこれができないので助けてください」と言えることが大切です。

 こういうことを身に着けられる進路はどこでしょうか。知的遅れがある程度みられるのに、通常級に入れ、わが子が自信を喪失して引きこもってしまっては元も子もありません。

 一方で「支援級に進み、支援学校高等部に進み、就労移行支援事業所に進み、しっかりと職業訓練を受けて就職」は、よい進路だと私は思います。このあたりをよく考えて、学校選びをスタートさせたらよいと思います。

 特別支援学校高等部に入学するために療育手帳が必須の学校もありますが、障害者雇用枠での就労を目指すため、入学時に手帳を持っていなくても、入学後に取得できるよう動いてくれる学校もあると耳にしたことがあります。自治体にもよるので、お住まいの地域の学校情報を集めてみてくださいね。

子育て本著者・講演家 立石美津子

特別支援学校を卒業すると「就職に不利」…本当なの?