テレビドラマ『VIVANT』で話題になった陸上自衛隊の情報部隊「別班」。本当にそのような組織は存在するのでしょうか。ドラマ内の当該部隊はフィクションではあるものの、類似の部隊はいくつも存在し、すでに実績もある模様です。

エリート部隊「特殊作戦群」「現地情報隊」とは?

2023年8月現在、TV放送中の連続ドラマ「VIVANT(ヴィヴァン)」において、登場人物の所属先として話題になっている陸上自衛隊の秘密情報部隊「別班」。劇中では、警視庁公安部をも翻弄するエリート部隊のような位置づけですが、実際にそのような組織は存在するのでしょうか。

結論を先に述べると、陸上自衛隊防衛省内にドラマに出てくるような「別班」なるセクションは存在しません。これは国会の答弁でも明言されているほか、後に総理大臣にもなった菅義偉氏も安倍内閣の官房長官時代に、記者会見でその存在を否定しています。

しかし、陸上自衛隊にはこの「別班」のような活動を行っている組織が存在するともいわれています。それが「特殊作戦群」と中央情報隊隷下の「現地情報隊」です。またこれとは別に、陸海空の三自衛隊による共同の部隊として「自衛隊情報保全隊」という組織も防衛大臣の指揮下に編成されています。

特殊作戦群とは2004(平成16)年に創設された陸上自衛隊初の特殊作戦部隊です。発足当初は自衛隊屈指の精鋭部隊と称される第1空挺団出身の隊員が多く在籍していたようですが、現在では全国から選抜された隊員が所属しているといわれています。誕生から約20年が経過していますが、その活動内容ゆえに部隊の秘匿性が高く、公開されている情報はほとんどありません。

現地情報隊は2007(平成19)年に創設された陸上自衛隊の情報部隊です。前述のとおり中央情報隊の隷下部隊で、PKO(国際平和維持活動)などを始めとした国際任務に係る派遣先の現地情報を収集するのが主な役割です。

上部組織である中央情報隊自体が、陸上自衛隊屈指の情報専門部隊で、平素より国内外の各種情報を収集、分析、整理しています。そのような性格の組織ゆえに、自衛隊の部隊が海外派遣される際には、必ずといってよいほど同行するか先行しているといわれています。

アフガニスタンへすでに派遣済みか

最後に挙げた自衛隊情報保全隊は、防衛省本省や統合幕僚監部、陸海空の各幕僚監部などがある市ヶ谷駐屯地(基地)に本部を置いています。主な任務は自衛隊内から外部への情報流出を防ぐことで、同じく市ヶ谷に置かれている防衛省情報本部とも協同しています。

この情報流出を防ぐ一環として、国防の核心となる情報に触れることができる隊員の「適格性」、つまり個人のバックグラウンドを調べているともいわれています。なお、前述したように陸海空の三自衛隊による共同の部隊であるため、陸上自衛官も一定数が所属しています。

陸上自衛隊には、このような情報を専門に扱う組織が実際に存在し、各種活動を行っています。最も顕著なのは、2021年に発生した「在アフガニスタン・イスラム共和国邦人等の輸送」任務に自衛隊が従事した際でした。

この時の任務は、イスラム主義勢力のタリバンが、アフガニスタンの首都カブールを占領し、当時の政権を掌握したことで発生した一種の内乱において、アフガニスタン在住の邦人およびその関係者を救出することでした。

その活動を問題なく遂行するために用意されたのが、栃木県宇都宮駐屯地に所在する中央即応連隊を中心に臨時編成された統合任務部隊(タスク・フォース)です。そして、この統合任務部隊の中に、特殊作戦群の隊員と現地情報隊の隊員が含まれていたといわれています。

結果的に、アフガニスタンで救出できたのは旧アフガニスタン政権の関係者14名と、日本人1名のみでした。その一方で、最大で110名の人員を乗せることができるC-2輸送機と、最大で94名を乗せることができるC-130H輸送機を各2機、計4機派遣し、260名近い自衛官が隣国であるパキスタンのイスラマバードに派遣されています。

そこから何名の統合任務部隊の隊員が派遣されたのかは明らかになっていません。ただ、言い方によっては、こうした危機的な状況は現地の情報を収集するのに適したタイミングでもあります。そのため、中央即応連隊の隊員に混ざって、特殊作戦群の隊員や現地情報隊の隊員がアフガニスタンに派遣されたのは間違いないと考えられます。

「別班」ではなく「別室」なら…

では、彼らは現地で一体何をするのでしょうか。もちろん、ドラマで描かれている「別班」のような動きはしません。警察や公安関係者と対立するようなことはせず、むしろ協力的な体制を整え、お互いに収集できた情報を交換しているでしょう。もちろん、この協力体制のなかには現地の大使館員や、JICA(国際協力機構)などの職員も含まれていると考えられます。

つまり、ドラマに登場する「別班」とは完全に異なる動きをするのが陸上自衛隊の情報関連部隊なのですが、ここまで「別班」に注目が集まるのは、防衛省自衛隊にならこのような人知れず活動している部隊があってもおかしくないと、多くの人たちが考えているからでしょう。また、他国の軍隊には同様の情報組織が存在し、小説や映画、マンガなどで真実とフィクション織り交ぜた活動内容が描かれていることが多い点も挙げられます。

だからこそ、ドラマで描かれるエンターテインメント性が少々強めな架空の組織「別班」も、多くの人たちの興味を引き付けているのかもしれません。ひょっとしたら、本当に「別班」なる組織が陸上自衛隊に存在しているかもしれませんが、だとしたら、なおさら公にはならないでしょう。

ちなみに、陸上自衛隊の管理部門である陸上幕僚監部には、過去「陸上幕僚監部調査部第2課別室」、通称「調別」と呼ばれる秘匿部門があったそうです。ここは1997(平成9)1月、防衛省の一大情報機関である情報本部が発足した際に統合・廃止されたといわれており、上部組織である陸上幕僚監部調査部も、2006(平成18)年3月に統合幕僚監部が発足し、同時に統合情報部が新設されたのに伴い、廃止されています(代わりに運用支援情報部が陸幕に新設)。

思えば、警察の特殊部隊である「SAT(特殊急襲部隊)」も約20年ものあいだ、存在が秘匿され続けました。もしかしたら、何年後かに「実は存在していました」と公になるかもしれません。

訓練で、在外邦人(想定)を航空自衛隊のC-2輸送機へと誘導する陸上自衛隊の隊員たち(画像:陸上自衛隊)。