一橋大学大学院 小野浩教授と、一橋大学大学院 特任教授 兼 Institution for a Global Society 株式会社 代表取締役社長 福原正大が、共同座長を務める「人的資本理論の実証化研究会」は、日経225銘柄における2023年3月期を決算期とする185社を対象に、有価証券報告書における「人的資本の投資対効果」の開示に関するレーティング(格付け)を実施し、上位50社の社名・結果を発表しました。

レーティングは、本研究会の「人的資本」の捉え方に基づき、現在の有価証券報告書において義務化されていない指標である、1.人的資本の投資対効果の評価、2.人的資本投資の対象の明示有無の2点を、評価のポイントとしております。

■実施背景

2023年3月期以降の有価証券報告書から、人材の多様性の確保を含む人材育成方針や社内環境整備方針、その関連指標(女性管理職比率、男性の育児有業取得率など)の開示が義務化されました。これにより、企業はさまざまな人材施策を開示し始めておりますが、現在の有価証券報告書では人材の能力に関する情報は十分に提供されておらず、企業価値向上のための人的資本(能力)活用や投資家の評価に資する情報開示には至っていないものと思われます。本研究会は、中長期的な企業価値向上を目的として人的資本開示を積極的に行う企業を客観的に評価し、今後のあるべき人的資本開示の議論を深めるべく、本レーティングを行うことといたしました。

レーティング概要

〇評価背景となる、人的資本に関する考え方

本研究会においては、ノーベル経済学者であるゲーリー・ベッカー氏が提唱した人的資本理論に基づき、人の能力こそが企業価値の源泉であり、「人的資本」であると捉えています。エンゲージメントやダイバーシティは、人的資本(能力)を企業価値に効果的に繋ぐための条件と位置づけ、これらを「人的資本(能力)の発揮度」としています(図1)。つまり、人的資本(能力)は、人的資本(能力)の発揮度と掛け合わさることで、企業価値に影響を与えるという構造となります。

したがって、持続的な企業価値向上のためには、人的資本そのものと、人的資本の発揮度を含めた「Human Capital Potential Factor(人的資本の潜在ファクター)」を定量化し、企業価値にどのように寄与しているのかについての投資対効果(ROI)を検証していくことが重要であると考えております。

図1:人的資本の潜在ファクターと企業価値の関係図

〇評価基準

2023年3月に内閣府が公表した知財・無形資産ガバナンスガイドラインVer2.0では、(A)ストーリー上に戦略を位置付けること、(B)企図する因果パス(企業のパーパス・全体戦略・ビジネスモデル・企業価値・顧客価値と知財・無形資産とのつながり)を明らかにすること、(C)経営指標と投資・活用戦略を紐づけること、の3点が重要であるとされています。

そこで、本レーティングでは、内閣府の考え方をベースとして、1.人的資本投資への評価指標(人材戦略を踏まえた評価指標になっているか)、2.人的資本投資対象の明示有無(経営戦略上必要な能力への投資が明示されているか)の2軸で、スコアリングを行なっております。

1.人的資本投資の評価指標の評価基準

*具体的に論じられている場合には0.5点加点、抽象的に論じられている場合には0.5点減点

2.人的資本投資対象の明示の評価基準

*具体的に論じられている場合には0.5点加点、抽象的に論じられている場合には0.5点減点

レーティング結果

〇全体

185社の平均は、合計スコアが4.13点(10点満点)、1.スコアが2.17点(5点満点)、2.スコアが1.96点(5点満点)となりました。有価証券報告書に記載が必ずしも要求されていない、人的投資の「戦略」と「指標及び目標」についてどこまで記載すべきなのか、多くの企業が頭を悩ませている印象を受けました。他方で、明確に人的資本投資の戦略として人材の能力について開示し、経営戦略に必要な人的資本(=能力)を言語化して目標を設定している企業もありました。

〇上位10社のレーティングとコメント

スコア1.「人的資本投資への評価指標」のトップはエーザイ(5点満点中5.5点)となりました。また、スコア2.「人的資本投資対象の明示」のトップは、双日、コニカミノルタNTTデータグループ、富士通、千葉銀行、富士フイルムホールディングス、日本製鉄の7社(5点満点中4点、株式コード順)となりました。

尚、レポートでは上位50社までスコアを発表しています。

*同じ順位の企業は、株式コード順

■企業向け意見交換会・機関投資家向けを開催予定

〇企業向け意見交換会のご案内

自社のレーティングを高めたい企業の方については、取締役以上の役職の方向けに朝食会などのアカデミアを含めた意見交換会を開催予定です。上記お問い合わせフォームにて「企業様向け:意見交換会に参加希望」をご選択ください。

〇機関投資家向け説明会のご案内

人的資本開示レーティングに興味ある機関投資家の方向けに説明会を開催予定です。上記お問い合わせフォームにて「機関投資家様向け:説明会に参加希望」をご選択ください。

<APPENDIX>

■研究会 概要 

〇発足背景

2023年3月期決算から義務化される「人的資本の情報開示」に向けて、多様な人的資本の指標に関する議論が行われています。本研究会は、日本企業がこれらの開示にとどまらず、「そもそも人的資本が企業価値にどれだけ寄与するものか(人的資本の投資対効果)」を明らかにすることで、経営者へデータに基づいた人材施策の投資判断を促し、かつ投資家への戦略的な情報開示を実現するために発足しました。2023年度は32社の企業が参画しています。(2023年8月末時点)

本研究会では、ゲーリー・ベッカー氏のもと学んだ小野教授の人的資本理論に基づきながら、人材能力データ・財務データ等を含めた企業の実データを分析し、研究を進めています。

■本件の問い合わせ先

〇研究会へのお問い合わせ:「人的資本理論の実証化研究会」運営事務局

E-mail: hc-cv-research@i-globalsociety.com

〇ご取材に関するお問い合わせ:メディア関係者限定公開欄をご確認ください。

配信元企業:Institution for a Global Society 株式会社

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