近頃、スーツ姿のふたりの男性が運営するYouTubeチャンネル「週末縄文人」が、ちょっとした話題になっている。8月25日に、エッセイ本『週末の縄文人』(産業編集センター)を出版。YouTubeではほかのチャンネルではみられない珍しい動画を投稿し、支持を集めている。今回は同チャンネルの動画から、週末縄文人の人気の理由を分析してみたい。

参考:【写真】30日間かけて竪穴式住居が完成していく様子

 週末縄文人は、平日は都会で働く「縄」と「文」という2人の男性が、現代の道具を使用せずに、ゼロから文明を築けるか検証するチャンネルだ。2020年12月に開設されたこのチャンネルは、石斧や竪穴式住居をつくる動画が注目を浴び、じわじわとチャンネル登録者数が増加。現在その数は11.7万人を突破しており、今後ブレイクが予想される、いま注目のチャンネルだ(2023年8月30日時点)。

 このチャンネルで人気の動画「もう一度石斧を作ってみたら縄文人レベルに達していた件 #23 Primitive Japan」を見てみると、まず2人がスーツ姿と革靴であることに驚かされる。外で作業するには不釣り合いな格好だ。まずは、海岸で石斧の刃づくりに使用する石を調達。磨製石斧で使用していたとされる蛇紋岩(じゃもんがん)を手に入れると、刃をつくるために石を割り、ひたすら磨く作業を続けている姿が収められている。石斧の刃が完成したのは、なんと石を加工しはじめて40時間後のことだった。

 タイトルに「もう一度」という言葉が使われているのは、作業小屋の資材となる木を伐採していた際、以前作った石斧の刃を勢いで飛ばし、無くしてしまったというちょっとした事件があったからである。2人にとっては2度目の石斧づくりになることからこの言葉が使われているわけだが、つくり方を知っているふたりでも、石斧を作るには相当な時間がかかったことがわかる。

 竪穴式住居を1からつくる動画では、30日間に及ぶ制作過程を公開。木の破片をスコップ代わりに穴を掘って柱を組み、笹を集めて屋根の部分に敷き詰める作業を繰り返す。30日間という制作期間のなかには、とてつもなく地道な作業があったようだ。コメント欄では限りなく本物に近づけるため、遺跡を巡ってリサーチを重ねたことも告白しており、完成後に涙しながらハグをする様子から、忠実に再現するための努力と達成感が感じられた。

 これまでに投稿された動画のコメント欄には、ふたりの苦労と根気強さ、ロマンが詰まった動画に大きな反響が寄せられている。どんなに気の遠くなるような作業でも、信頼のもとに、楽しそうに成し遂げていく姿に感動する視聴者も多い。なんでも買えてしまうこの時代に、自然のものだけで家や道具をつくる大変さを知り、当時のひとたちの知恵と工夫を再認識する視聴者が多いことが印象的だ。

・現代と縄文時代がかけ合わさったエンタメ性

 このチャンネルの特徴は、文明が栄えて便利になった現代と対局にある縄文時代をテーマにしたエンタメ性があることだ。加えて、歴史を学ぶ学術系コンテンツにあると考えられる。学び・勉強系のコンテンツといえば、理系のテーマに特化したチャンネル「積分サークル」などが人気だが、文明発展にフォーカスしたチャンネルはかなり稀。さらに現代の道具を一切使用しないというルールのもとでつくられる動画は人気YouTuberたちの単発企画にはあるものの、チャンネル運営のルールとして採用している動画はまず見当たらない。つまり、週末縄文人アイディア自体に目を見張るものがあるのだ。

 週末縄文人が注目を集める理由は、「現代を象徴するスーツ姿のビジネスマン」が「現代の道具を使わない」という斬新なアイディアと、人類のロマンを感じる“ガチ”な検証コンテンツにあるといえそうだ。

(文=せきぐちゆみ)

動画サムネイルより