「お金と感情」は良くも悪くも互いに影響を与え合っています。お金の不安をどうにかしたいと思っている人は、まずはこの「お金と感情の関係」に気づきましょう。その上で具体的な対策を立てて実行すると、根本的な解決につながります。金融教育家・上原千華子氏の著書『ファイナンシャル・セラピー』(日本能率協会マネジメントセンター)より一部を抜粋し、お金との付き合い方に影響する「マネー障害」について紹介します。

人がお金のことで感情的になる瞬間

みなさんは、お金のことで感情的になったことはありますか?

お金のことを考えると、将来が不安でたまらない。お金が入ってくると気分がよくなり、パッと使ってしまう。そんな経験があるかもしれません。

また、ふだんは仲のよい家族なのに、お金の話になるとケンカが始まる。とてもいい人そうに見えるのに、お金の話になると腹黒いなど、お金のことで人と揉めることがあったかもしれません。

普段「お金と感情」について、はっきりと意識することは少ないでしょう。しかし、私たちが生きていく上でお金は必要なもの。心は無意識にお金と結びついています。

ファイナンシャル心理学パイオニアブラッド・クロンツ氏と父テッド・クロンツ氏によると、人は大なり小なり「マネー障害」を持っているといいます。

マネー障害が深刻になると、浪費のようなお金の悪習慣を繰り返してしまうなど、頭では分かっているのに、やめられない悪循環に陥ります。

ここでは、クロンツ親子が著書『Mind Over Money』で提唱している3つのマネー障害に沿って、人がお金で感情的になるケースを解説していきます。

(1)マネー回避(Money Avoidance Disorders)

マネー回避とは、お金を拒絶したり避けたりする状態です。「お金は怖い」「お金は諸悪の根源」など、お金に対する否定的な思い込みが引き金となります。過去にお金に関するネガティブな出来事を経験したことがあると起こりやすくなり、日本人はマネー回避傾向が強いように思われます。

具体例を見ていきましょう。

【①ケチケチしすぎる】

日本には「質素倹約は美徳」という文化があると思いませんか? プチプラファッション、節約レシピ、100円ショップの活用など、さまざまな経済的努力の情報があふれていることからも、それがうかがえると思います。

私自身、父から質素倹約のマインドを受け継ぎ、「コスパ」を重視しているのでよく分かるのですが、実は度が過ぎると精神衛生上よくありません。

以前、「ケチな自分を変えたいんです!」と私のファイナンシャル・セラピー講座を受けに来たAさんという方がいらっしゃいました。

Aさんは普段から節約を心がけて、家族3人で質素に暮らしているといいます。しかし、お子さんが大きくなるにつれて、「お母さん、ケチすぎるよ!」と言われるようになり、自分とお金との関係を考えるようになったというのです。

そんなAさんは、私の講座を通して、次のようなことに気づいたと話してくださいました。

「私はお金に支配されていると思います。お金を使うと罪悪感を覚えるんです」。

Aさんは、買い物をする時も食事をする時も、無意識にお金がかからないものを選んでしまいます。楽しむためにお金を使う、感謝の印としてお金を払う、スキルアップのためにお金を使うなど、ポジティブな気持ちでお金が使えないのです。

その裏には、「お金がなくなってしまう不安」や「お金が十分にあっても拭えない欠乏感」などが隠れています。「質素倹約は美徳」であったとしても、このような不安に支配されているとしたら、いくらお金があったとしても豊かな人生は送れませんね。

【②過度にリスクを避ける】

代表的な「お金に関するリスク」には、市場リスク、信用リスク、流動性リスクがあげられますが、これらを過度に怖がると、冷静な判断ができなくなります。

「昔、株式で大きな損失を出して投資を辞めました。今度はちゃんと勉強して投資を始めたいです」。

そうおっしゃって、真剣な顔で個別相談にきたBさんは、それまでよくわからないまま、見よう見まねで株式投資をやっていたそうです。

しかし、2008年のリーマンショックで株価が急落。パニックになって全部売却したところ、50%近くの損失を出してしまい、その後は投資が怖くなり、預貯金しかしていないといいます。

これは、一見正しく対応したように見えますが、実は景気回復のチャンスを逃しています。

仮に、Bさんがアメリカの代表的なインデックス「S&P500」に投資していたとしましょう。約1,600ドルだったS&P500は、2008年のリーマンショックで約半値の約800ドルまで急落しました(図表1)。Bさんはここで全て売却しています。しかし、2021年10月28日時点のS&P500の株価は約4,600ドル。つまり、もしBさんがその時点まで売却せずにいたとしたら、株価はリーマンショック直前の2.5倍近くになっていたのです。

投資スタイルによっては、損切りが必要な時もあります。しかし、10年以上の長期で一般的なインデックスに投資するのであれば、パニックになる必要はありません。

その後Bさんは投資の代わりに貯金をしましたが、低金利時代なのでほとんど利息はついていません。過度に損失リスクを怖がって底値で損切りし、景気回復で資産が2.5倍に増えるチャンスを逃してしまったのです。Bさんのような人は、世界中にたくさんいるのではないでしょうか。

【③お金から目を背ける】

みなさんは、家族以外の人とお金の話をしますか?

日本人は、お金についてあまり話したがりませんよね。他人とお金の話をしない理由の一つは、お互いの懐事情が分かってしまうと気まずいからだといわれています。

ただ、家族やパートナーともお金について話したがらない場合、マネー回避障害の可能性があります。たとえば、毎月の生活費や子供の教育費、貯蓄方法について話し合わない、銀行口座の残高やクレジットカードの支払額をチェックしたがらないなどです。その深層心理には、「お金は汚いもの」「お金のことを考えると怖い」などの思い込みが隠れています。

(2)拝金主義(Money Worshipping Disorders)

2つ目にマネー障害として紹介されているのは、「拝金主義」です。たとえばあなたは「お金がたくさんあれば、幸せなはず!」と思ったことはありませんか?

私自身、2018年に独立するまではそう思っていました。「お金さえあれば幸せ」とは限らないけど、世の中の問題は、お金で解決できることが多いと信じていたのです。しかし、脳科学コーチングを学んでから、「お金と幸福感」について深く考えるようになりました。

また世の中を見渡すと、コロナ前後で「豊かさ」の定義が大きく変わったように思えます。2020年のパンデミック以前は、年収や財産、社会的ステータスなどが「豊かさの象徴」といった風潮がありました。一方コロナ禍では、自分と家族が心身ともに健康で、必要なお金が手元にある状態が「真の豊かさ」と考える人が増えたのではないでしょうか。

豊かさの定義は人それぞれ。ただ「お金が全て」といった拝金主義は、精神衛生上よくありません。なぜなら、お金で一時的に気分を高揚させて、心を満たそうとしているからです。ドキッとしたあなた、大丈夫ですよ。同じように思っている人は、世界中にたくさんいます。

どのような事例があるのか、詳しく見ていきましょう。

【①浪費】

お金があるとパーッと使ってしまい、気がつくと手元にお金が残らない。こうした浪費の中には、ギャンブル障害やためこみ症、儲かった時の高揚感(こうようかん)が忘れられず、高リスク商品で投機的な短期取引を繰り返す人も、この部類に含まれます。

【②買い物依存】

憧れのブランド品を身につけて、セレブ感を味わいたい人は多いかもしれません。たしかに、人には誰しも人からよく見られたい願望はあるものです。持ち物のグレードで待遇が変わることは実際にあります。

普段はプチプラリュックで出かけるCさんは、ある日珍しく高級ブランドのバッグで外出しました。すると、立ち寄ったお店では丁重に扱われ、道ゆく人々もCさんにぶつからないように、少し距離を置いてすれ違っていったといいます。いつもより周囲から大事にされている感じがして、気分がよかったそうです。

ただ、このような高揚感を求め過ぎると、買い物依存症に発展する可能性があります。買い物依存症とは、買い物を繰り返すうちに、買い物自体が目的となり、自分で衝動を抑えられなくなる状態です。その結果、借金をしてまで買い物を繰り返し、自己破産に至るケースも。ブランド物に執着し過ぎる人は、なぜ自分はこの商品を買いたいのか、買う前に自問してみてください。

(3)人間関係におけるマネー障害(Relational Money Disorders)

3つ目のマネー障害は、パッと見ただけではどのようなことかイメージがしにくいかもしれませんね。

まずは具体的に、どのようなケースがあるか見ていきましょう。

【①経済的依存(financial dependence)】

他人のお金を当てにして依存し続ける状態を指します。たとえば、経済的に自立したくない、お金に責任を持ちたくないから、大人になっても親から経済的に援助してもらうなどです。また、②のお金の権利付与とも密接に関係しています。

【②お金の権利付与(financial enabling)】

人にお金を無心されても「ノー」と言えないマネー障害です。たとえば、経済的に余裕がないのに、①の経済的依存を要求する人にお金を貢いでしまうなどです。

よくあるケースは、経済的に自立できるはずの子どもに、いつまでも仕送りを続ける親です。この場合、良好な親子関係を保ちたいために、不健全な経済的支援をしています。その裏には、お金をあげないと関係を維持できないという恐れが隠れています。こうした行動も、マネー障害の一種とされています。

【③お金の背信(financial infidelity)】

家族に黙ってローンを組んだり、高額商品の価格について嘘をついたりする状態です。黙って予算を超える買い物をしたり、密かにリスクの高い投資に手を出したりします。これは、すでに相手との信頼関係が崩れている時に起きやすいといわれています。

【④お金のもつれ(financial enmeshment)】

これは、親が自分のニーズを満たすために、お金を通して子どもをコントロールする状態です。お金を利用した心理的虐待とも言えます。この虐待を受けた子どもは、心にトラウマを負う可能性が高くなります。

たとえば、大人同士で解決すべき金銭問題に子どもを利用する、つまり借金の取り立てが来ると、「両親は今いません」と子どもに嘘をつかせるなどです。また、親が「私がお金を出して教育したおかげよ!」と言って、子どもが実力で得た功績やお金を搾取するのも、「お金のもつれ」に含まれます。

こうした人との関わりの中で起こる金銭トラブルは、とても複雑です。このマネー障害では、自分も相手も感情的かつ経済的な影響を受け、人間関係をこじらせて心に深い傷跡を残します。

また、他人から認められたい、愛されたい欲求が絡むため、自覚するのが難しいのが特徴です。お金の話になるとなぜか人ともめる人は、人間関係におけるマネー障害がある可能性があります。

人は大なり小なり「マネー障害」を持っている

このように、お金と感情は密接に結びついています。マネー障害としてあげられている項目にあてはまると感じた方もいらっしゃるかもしれませんが、もしそうだったとしても、自分を責める必要はありません。なぜそのような価値観が形成されたのか振り返りながら、一緒にお金との付き合い方を考えていきましょう。

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<ポイント>

あなたの感情を揺さぶるようなお金にまつわる出来事は、日常のさまざまなところで起こりうる。そのことを知ったうえで、自分のこれまでを振り返ってみよう。

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上原 千華子

(株)ウェルス・マインド・アプローチ代表取締役、金融教育家

欧米投資銀行勤務歴17年、個人投資家歴26年。証券外務員一種、最新の心理学NLPを使ったマネークリニック®認定トレーナー。金融知識だけではお金の不安が消えなかった経験から、心理学を取り入れたライフプランと資産運用を教えている。「お金の教育をもっと身近に、心から豊かな人生を」がモットー。

2022年より「3ヶ月マネー実践講座」を提供開始。ライフプランから資産運用まで自分でできるようマンツーマン指導。多忙な中小企業経営者から支持され、口コミでビジネスが広がっている。

※「ウェルス・ファイナンシャル・セラピー®」は株式会社ウェルス・マインド・アプローチの登録商標です(登録668701)。

(※写真はイメージです/PIXTA)