長年、世界中で愛され続けているディズニー作品にとって、音楽はとても重要な役割を担っている。ディズニー音楽というと、明るくてハートウォーミングなイメージが真っ先に思い浮かぶかもしれない。しかしその一方で、最新作『ホーンテッドマンション』(公開中)をはじめ、ディズニー作品のなかには、ちょっぴり不気味でホラーテイスト漂う名曲も数多く存在する。そこで今回は、独特のダークな世界観を持ち、ハロウィーン気分を盛り上げてくれるナンバーにスポットを当てながら、その魅力を紹介していきたい。

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■『ホーンテッドマンション』や『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』…怖さのなかにユーモアも交えたホラーナンバー

公開中の映画『ホーンテッドマンション』は、ディズニーランドの大人気アトラクション「ホーンテッドマンション」にインスパイアされた実写作品。不気味にそびえ立つ、999人のゴーストが住んでいる呪われた館を舞台に、館に住むことになった親子と、そこへ集められた心霊現象のエキスパートたちが、スリルと驚きに満ちたエキサイティングな冒険を繰り広げる。

海外ではハロウィーンのシーズンになると、いわゆる“ハロウィーン・ソング”と呼ばれる、いまにも幽霊が出てきそうな怪しいメロディの曲がよく流れる。定番のハロウィーン・ソングの一つが、アトラクションや映画版『ホーンテッドマンション』でも使われている「Grim Grinning Ghosts」だ。アトラクションのゲストたちは黒いドーム型の乗り物、ドゥームバギーに乗って、ゴシック調の屋敷の中をゆっくりと進んでいく。その道中、パイプオルガンストリングスなど、様々な楽器によるアレンジで、この曲を聴くことができる。

もともとホーンテッドマンションには、ゲストたちにただ恐怖体験を与えるのではない、親子で一緒に楽しめる愉快なお化け屋敷というコンセプトがある。そのため、ここで流れる音楽もまた、怖くて不気味な雰囲気のなかに、どこか楽しげでユーモラスなニュアンスが感じられる。子どもたちがドキドキしながら、でも決して怖がりすぎることなく、楽しく聴ける音楽である点が大きな魅力だ。

映画の音楽を担当したのは、第91回アカデミー賞で作品賞など3部門に輝いた『グリーンブック』(18)や、ソウルの女王アレサ・フランクリンのキャリアを描く『リスペクト』(21)など、数々の映画作品で音楽を手掛けている作曲家、クリス・バワーズ。ニューヨークの名門、ジュリアード音楽院でジャズクラシックを学び、同校始まって以来の天才と呼ばれた彼は、ピアニスト、ジャズ・アーティストとしても活躍する世界的ミュージシャンだ。

これまでもディズニー作品の楽曲には、ジャズ・ミュージシャンを夢見る主人公が登場する『ソウルフル・ワールド』(20)の音楽など、ジャズジャズにアレンジされた曲が多く、ディズニー音楽との相性のよさは証明済み。ジャズの伝統に根づきながらも、90年代のラップやヒップホップなど、ジャンルの垣根を超えたあらゆる音楽にインスピレーションを受けて曲を作ってきたバワーズの音楽的感性は、まさにホーンテッドマンションの世界観をいまの時代に合わせ、フレッシュに蘇らせるうえで欠かせない要素である。

「Grim Grinning Ghosts」も、映画版でパワーアップ。“Breakfast”と“Dance Party”の2バージョンが登場し、どちらもジャジーでおしゃれなアレンジに仕上がっている。軽快な曲調と、さりげなく入ったハモリやコーラスが耳に心地よいBreakfastバージョンに対し、Dance Partyバージョンはぐっと華やかな印象。ホーンテッドマンションの世界に誘われるような、緊張感高まるスリリングなムードのメロディが、途中でいっきに陽気なダンスパーティ調のリズムに変わる。キレのあるビートにテンションも上がって、大勢のゴーストたちと一緒に思わず踊りだしたくなる楽しさだ。

ちなみに本作の舞台は、アメリカ南部の都市ニューオーリンズ。アメリカ、カリフォルニア州ディズニーランドには“ニューオーリンズ・スクエア”という19世紀の同地をテーマにしたテーマランドが存在するように、ウォルト・ディズニーにとって、ニューオーリンズは思い入れの深い、お気に入りの街。さらに、黒人音楽の影響を受けたジャズの発祥の地としても知られている。

本作のオープニングを飾る楽曲「His Soul Left Gloss on the Rose」は、このニューオーリーズを拠点とする8人編成のブラスバンド“ザ・ソウル・レベルズ”が、映画のために書き下ろした新曲だ。ジャズソウルファンクヒップホップ、ロックを融合させた、ブラスならではのパワフルなサウンド作りで知られる彼らもまた、本作にふさわしいアーティストである。人々の話し声が混ざった、ガヤガヤと活気のある街の喧騒や、リズミカルな手拍子が入ったグルーブ感あふれる曲を聴いていると、けだるさを感じながらニューオーリンズのバーで一杯、酒を飲んでいるような気分も味わえる。

またディズニー映画の中で、ホラーテイスト作品の筆頭としてあげられるのは、鬼才ティム・バートン原案のアニメーション映画ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』(93)だろう。この映画の音楽も、ゴシック色の強い、怖くてキュートな楽曲の宝庫だ。

音楽を手掛けたのは、『シザー・ハンズ』(90)ほか、バートン作品のほとんどのスコアを制作しているダニーエルフマン。インパクトの強いメロディと、不気味な歌詞が印象的な「ハロウィーン・タウンへようこそ」は、劇中のハイライト楽曲の一つ。ゴーストや魔女など、ハロウィーン・タウンの邪悪な住人たちによる、怪しさたっぷりのコーラスが、ファンタジーとホラーが融合した独特の世界観を盛り上げてくれる。

■悪役だけど憎めない!大人気ヴィランズたちが奏でるメロディ

ダークなディズニー音楽を語るうえでは、敵役として登場するキャラクターたち、ディズニーヴィランズの存在も忘れてはならない。クセの強いヴィランズの邪悪な世界を彩ってきた楽曲の数々は、恐ろしくて迫力があったり、華やかでかっこよかったりと、バラエティに富んだ名曲ぞろい。憎い敵役のはずの彼らにどこか惹かれてしまうのは、ヴィランズそれぞれの個性を引き立てる楽曲の影響も大きい。

知名度の高いディズニーヴィランズの一人が、『リトル・マーメイド』に登場する海の魔女アースラ。ディズニーの黄金時代を築いたコンビ、作曲家アラン・メンケンと作詞家ハワード・アッシュマンが本作で手掛けた楽曲は、どれもキャラクターそれぞれの個性を見事に象徴している。アースラが人魚のアリエルと契約を交わし、人間になる代償として彼女の声を奪おうと言葉巧みに誘惑するシーンで歌う「哀れな人々」も、まさにヴィランであるアースラの恐ろしい性質がジワジワと伝わってくる楽曲。声を失うことを不安がるアリエルに対し、有無を言わせないように決断を迫るアースラの気迫に満ちた歌声が圧巻だ。

101匹わんちゃん』(61)に登場する、毛皮愛好家の冷酷なファッションデザイナー、クルエラ・ド・ビルも、その強烈すぎるキャラクターゆえに人気の高いディズニーヴィラン。彼女をテーマにした「町のクルエラ」は本作を代表する曲でもある。劇中では、クルエラの恐ろしい人物像について、ダルメシアンの主人公ポンゴの飼い主で、作曲家のロジャー即興演奏風に歌ってみせる。60年代の雰囲気を感じさせるノスタルジックおしゃれなメロディと、これでもかと悪口を言いたい放題の歌詞とのギャップがコミカルで、思わずニヤリとしてしまう。

リトル・マーメイド』に続き、メンケンとアッシュマンがタッグを組んだ傑作『美女と野獣』。このミュージカル作品のヴィランは、主人公ベルが暮らす町の英雄と呼ばれながら、実際は粗野で横暴な男、ガストンだ。リズミカルなメロディが耳に残って忘れられない劇中歌「強いぞ、ガストン」は、ベルに結婚の申し出を断られて落ち込むガストンを、彼の子分であるル・フウが励ますシーンで流れる。町の人々が、いかにガストンがすばらしい人物であるかを褒め称える歌詞が、皮肉にも彼のナルシストぶりや卑怯さを浮き彫りにしていくのがユーモラス。

ロック・ミュージシャンのエルトン・ジョンが挿入歌を担当したことでも話題を集めた『ライオン・キング』も、キャラクターの心情を鮮やかに表現する楽曲のすばらしさが際立つ。本作のヴィランであるスカーは、プライドランドの王であるムファサの弟で、主人公シンバの叔父にあたるライオン。密かに王座をねらう彼が、ムファサとシンバの殺害計画を手下のハイエナたちに語って聞かせる劇中歌「準備をしておけ」には、シンバの前では優しい叔父さんとして振る舞っていながら、その内にひた隠しにしてきた真の姿にゾクッとさせられる。重々しいシリアスな曲調と、スカーの迫力ある歌声が印象的なヴィランズ・ソングらしい1曲だ。

またそれぞれの楽曲は、実写版でもさらなる魅力を放つ。日本興行収入30億円を突破した『リトル・マーメイド』(公開中)では、コメディエンヌとしても高く評価されているメリッサ・マッカーシーが、どこか憎めないチャーミングさと邪悪さを兼ね備えたアースラを演じ、圧倒的存在感で「哀れなる人々」を歌い上げている。ほかにも実写版美女と野獣(17)で、自信家のガストンをハマり役で演じたルークエヴァンスによる「強いぞ、ガストン」など、実力派俳優陣による演技力と歌唱力が合わさった時、異なる表情を魅せるヴィランズ・ソングも楽しんでほしい。

■思わず踊りだしたくなる!ティーンに人気のハロウィーン・ポップス

ディズニーヴィランズの子どもたちを主人公にした「ディセンダント」シリーズや、ゾンビと人間の恋と青春を描く「ゾンビーズ」シリーズなど、世界中で大ヒットしたディズニーチャンネル・オリジナルムービーにおいても、ただ明るいだけじゃない、ちょっとダークなホラーテイストが加わったポップミュージックティーンたちに人気だ。

「ディセンダント」は、「ハイスクールミュージカル」のケニーオルテガが製作総指揮に監督、振付を務めた青春ミュージカル三部作。ポップな歌とエネルギッシュなダンスという点では、「ハイスクールミュージカル」と共通しているものの、異色なのはそのキャラクターたち。『眠れる森の美女』のマレフィセントの娘マル(ダヴ・キャメロン)、『白雪姫』の悪の女王の娘イヴィ(ソフィア・カーソン)、『101匹わんちゃん』のクルエラの息子カルロス(キャメロン・ボイス)、『アラジン』のジャファーの息子ジェイ(ブーブー・スチュワート)の4人を中心に、ティーンエイジャーの葛藤やドラマが描かれていく。

第1作『ディセンダント』(15)の主題歌「ロッテン・トゥ・ザ・コア」は、メインキャラクターの4人が、いかに自分たちが芯まで腐った、根っからのヴィランズであるかをラップ調で自虐的に歌った曲。『ディセンダント2』(17)では、4人組が「ワルになる方法はたくさんある」とヴィランズの怪しい魅力全開で歌うオープニングソング「悪の力を呼び覚ませ」が大ヒット。オラドン高校の優等生たちが彼らに感化されて、どんどん開放的になっていく過程を描いたMVも、YouTubeを中心に再生回数が急上昇するなど大旋風を巻き起こした。

『ディセンダント3』(19)のオープニングを飾った「グッド・トゥ・ビー・バッド」は、シリーズを通して精神的に大きな成長を遂げた彼らが、生まれた環境や自分自身に誇りを持つことの大切さを歌うパワフルなダンスナンバー。シリーズ全体を通してヴィランズっぽく、ヒップホップテイストを取り入れたキャッチーな曲が多かった。

同じく歌とダンス満載のミュージカルゾンビーズ」シリーズは、人間の高校に転校してきたゾンビの青年ゼッド(マイロ・マンハイム)と、人間のチアリーダーの少女アディソン(メグ・ドネリー)の種族を超えた禁断の恋から始まる青春ストーリー3部作。ゾンビ、人間、狼族、さらには宇宙人まで、ジャンルも異なるキャラクターたちが次々に登場するのが大きな特徴。偏見や差別の愚かさ、他者を受け入れ、共存していくことのすばらしさなど、ディズニーがずっと大切にしてきたメッセージをそれまで以上にストレートに伝えてくれる作品である。

ゾンビーズ』(18)のオープニングナンバー「マイ・イヤー」は、高校に入学するゼッドとアディソンそれぞれが登校初日の不安と期待を歌った楽曲。ポップとヒップホップ、音楽のテイストが交互に入れ替わる構成で、人間たちに虐げられてきたゾンビの世界と、個性的すぎることを嫌う人間の世界が巧みに紹介されていく。

ゾンビーズ」の劇中、アディソンがチアの入部テストを受けるシーンで流れる曲は「ファイアド・アップ」。ダンスに定評のあるディズニーオリジナルテレビ映画のなかでも、「ゾンビーズ」のダンスパフォーマンスはトップレベルと言われている。一糸乱れぬ完璧な動きが求められるチアダンスを踊る、チアリーダーたちのキレッキレのパフォーマンスを盛り上げるハイテンションな音楽に要注目だ。このほか、シリーズのフィナーレとなる『ゾンビーズ3』(22)のオープニングナンバー「Alien Invasion」も抑えておきたい。“エイリアンの侵略”というタイトル通り、地球にやって来た宇宙人たちが、不穏な空気が漂う近未来的なサウンドの曲に合わせて、ロボットダンスを披露する姿がなんともユニーク。

どの楽曲もカラフルでエキサイティングな音楽であると同時に、登場人物の心情を伝え、ストーリーを進めていく原動力になっている。これこそが、すべての作品に共通する、ディズニーミュージックの伝統だ。ハロウィーンの季節が近づくいま、ゾクッとする不気味さと、ワクワクするような高揚感に満ちたディズニー音楽の数々を、じっくり楽しんでみてほしい。

文/石塚圭子

『ホーンテッドマンション』に代表されるディズニーのホラーテイストな楽曲を振り返る/[c]2023 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved.