オゾンは一般的に植物に悪影響を与える。市販のオゾン発生器のそばに観葉植物を置いておくと、葉が枯れてしまったりするという。その一方で、殺菌効果の高さを利用した、植物の病害対策にも使われている。

北朝鮮でも近年、オゾンの利用に関心が高まっており、金策(キムチェク)工業総合大学がオゾン発生装置を開発している。その機械を普及させよとの指示が下されたが、現場では困惑が広がっている。平安南道(ピョンアンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

指示が下されたのは8月に入ってからのこと。内閣農業委員会は、各道の人民委員会(道庁)と農村経理委員会に対し、これから収穫が始まる穀物を長期間保存するために、種子をオゾン処理する技術を導入せよとの指示を下した。

また各道は、市や郡が穀物保管倉庫の点検を行い、条件を満たしているか「互相検閲」を行えとの指示も下した。これは自分の市や郡ではなく、別の地域で検査をすることで、コネやワイロで誤魔化したりすることを防ぐための措置だ。そこで発見された問題は、今月末までに報告し、自力更生の精神で技術導入の指示を貫徹せよとのことだ。

市や郡の糧政事務所や各農場では、この指示に対し困惑が広がっている。指示そのものが寝耳に水で、準備も何もあったものではないからだ。そこに加えて、きちんと導入できたかを検査まですると聞かされ、呆れ返っているという。

糧政事務所のイルクン(幹部)の中には、こんな本音を漏らす者もいたという。

「今まで保管するほどの穀物が残ったためしがない」

北朝鮮では夏になって麦やジャガイモの収穫が始まり、中国やロシアから大量のコメや小麦粉が輸入されたものの、当局の市場抑制策により現金収入を得る機会を失った人々は、未だに飢えに苦しんでいる。そもそも、農業生産量は国内の需要を満たしておらず、不足分を輸入に頼らざるを得ない状況が続いている。

増産に不可欠な肥料や営農資材も毎年のように不足している。農場はヤミ金から資金を調達し、それで資材を買い込んで、秋には高い利息を払って返済する。

中央は、そんな現場の事情などどこ吹く風だ。地方の農場を現状を知らないのか、知っていても無視しているのか、各農場に種子オゾン処理技術指導書を送り付け、その通りにやれと丸投げしている。検査を担当することになる糧政事務所も困惑している。

「(上は資材を)提供してくれないのに、検査はしろと言ってくる。下からも不満を突きつけられ、板挟みになっている。とりあえず検査はするフリだけに留めると(下を)なだめている」(情報筋)

農場では、何もない状態で技術を導入せよと言われても、結局水の泡に終わるだろうと諦めている。北朝鮮では、実効性のない指示は時間が経てば有耶無耶になってしまう。このオゾン処理機も同じ運命をたどるかもしれない。

北朝鮮──その深部とポテンシャルを探る