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 これだけ文明の進んだ時代でも、SNSに自分の思ったことを投稿しただけで死刑になってしまう国もある。

 退職したサウジアラビア人教師が、X(旧Twitter)に、政府の人権記録を批判する一連の投稿を行ったところ、サウジアラビア政府から死刑判決が下された。

【画像】 サウジアラビアの裁判所がSNSの投稿を理由に死刑判決

 7月10日サウジアラビアの専門刑事裁判所は、ムハマド・アル・ガムディさん(54歳)に対し、彼のX(旧Twitter)やYouTubeの投稿が、政治を批判したものであるとして死刑判決を下したと、人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチが発表した。

 同団体によると、アル・ガムディさんは昨年逮捕されてから、今年7月に有罪判決を受けるまで、弁護士との接触はほとんど与えられなかったという。

 アル・ガムディさんは、2022年6月11日メッカのアル・ナワワリーヤ地区にある自宅の前で、妻と子供たちと一緒に座っていたところを国家治安部隊によって逮捕された。

 その後、アル・ガムディさんはジッダ近郊のダハバン刑務所で4か月間独房に監禁され、その間家族や弁護士と連絡を取ることは許されなかった。

 逮捕から4か月以上経って、リヤドのアル・ハイル刑務所に移送されたときのみ、彼は家族との接触を許されたという。

 当時はまだXではなく、Twitterだった時代で、アル・ガムディさんの問題のツイートは、サウジ王室への批判と政治犯サルマン・アル・アウダの釈放の推進に関係しているとされている。

 具体的な内容は、サウジ国王、皇太子、同国の外交政策への批判や、投獄されている宗教聖職者の釈放要求、物価上昇についての不満などだそうだ。

 起訴状の精査では、サウジアラビアのテロ対策法の第30条、第34条、第43条、第44条に基づき、有罪判決を受けたことが判明している。

 それらは、「国家守護者への忠誠の放棄」「テロのイデオロギーとテロ組織(ムスリム同胞団)の支持」「テロ組織との連絡」「TwitterやYoutubeのアカウントを利用して公共の秩序を不安定にしようとする個人をフォローし宣伝する」「テロ関連容疑で拘留された個人に同情する」というものだ。

 量刑は、犯罪が「国王と皇太子の地位を狙ったもの」であり、「世界的なメディアプラットフォームを通じて行われたという事実によって彼の行為の大きさが増幅され、厳罰が必要である」という理由で決定されたという。

死刑判決に対し非難の声

 人権擁護団体ヒューマン・ライツ・ウォッチは、アル・ガムディさんへの死刑判決に憤りの声をあげ、超保守的なサウジアラビアの「表現の自由と平和的な政治的反対運動の弾圧」を非難した。

 同団体のサウジアラビア調査員ジョーイ・シェイ氏は、このように述べている。

サウジアラビアの弾圧は、裁判所がSNSへのつぶやきだけで死刑を言い渡せるという恐ろしい新たな段階に達した。

サウジ当局は、あらゆる反対意見に対するキャンペーンを、驚くべきレベルまでエスカレートさせており、この茶番的な正義を拒否すべきである。

 また、アムネスティ・インターナショナルの中東・北アフリカ局長フィリップルーサー氏はこのように話している。

アル・ガムディ氏は、匿名のTwitterとYoutubeのアカウント両方で、合計わずか10人のフォロワーを持っていただけだ。

また、SNSで自分の意見を表明しただけで、このように告発され、死刑判決を受けるなんて、あまりにも馬鹿げている。

この判決は、彼をターゲットにするだけでなく、政治的に率直な発言をした少なくとも1人の他の家族の行動に対する報復として意図された懲罰であるようだ。

サウジ当局はイメージを回復するために何十億ドルも費やしてきたが、いくらお金を積んでも、この国がどれほど抑圧的になったかをごまかすことはできない。
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兄が死刑判決になったのは自分への復讐、と弟

 アル・ガムディさんの弟でサイード・ビン・ナセル・アル・ガムディ博士は、自主亡命して現在はイギリスに住んでいる。

 著名なイスラム学者で、サウジ政権を声高に批判していることからも、兄の逮捕と判決は、当局による自分への復讐の試みだったと主張している。

 同博士は、先月Xにこのように投稿した。

兄が汚職と人権侵害を批判する5件のツイートの後に判決を受けました。

サウジ当局は、私にサウジアラビアに戻るよう何度も求めましたが、私はそれを拒否しました。

この虚偽の判決は、私を国に送還しようとする捜査の試みが失敗したことを受けて、私個人に嫌がらせをすることを目的としているものです。

私の兄に対する今回の死刑判決は、私の活動に対する報復である可能性が非常に高いです。そうでなければ、彼の告発はこれほど厳しい刑罰にはならなかったでしょう。

 イギリスの人権団体ALQSTの監視・擁護責任者で、釈放されたサウジアラビアの政治犯ルージャイン・アルハスルウルの妹であるリナ・アルハスルウルさんは、Xで次のように非難した。

この死刑判決は、国内での言論の自由に対する「弾圧が激化する」中で下されたものです。

彼ら(サウジアラビア政府)は、誰も安全ではなく、ツイートへの投稿でさえ殺される可能性があるという、明確で邪悪なメッセージを送っているのです。
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ムハンマド・ビン・サルマーンの下で激化する弾圧

 過去2年間にわたり、アムネスティサウジアラビアでインターネットを利用して意見を表明する人々に対する弾圧が激化していることを文書化してきた。

 アムネスティは昨年だけでも、オンラインでの平和的活動を理由に15人が10年から45年の懲役刑を宣告された事例を文書化していて、その中には平和的なオンライン表現を理由にサウジアラビア人女性に科せられた最長の懲役刑も含まれている。

 イギリス在住のサウジアラビア人女性が、当時のTwitterで車を運転する女性の権利を主張したところ、帰国中に逮捕され、懲役34年の刑を言い渡された。

 また、サウジアラビアの著名な改革推進派の法学教授アワド・アル・カルニ氏(65歳)は、Twitterアカウントを保有し、サウジにとって「敵対的」とみなされるニュースを共有するために「WhatsApp」を利用したとして、死刑に直面している。

 2017年9月のカルニ氏の逮捕は、当時新たに皇太子に指名されたムハンマド・ビン・サルマーンによる反対派に対する弾圧を意味していると報じられた。

 サウジアラビアの専門刑事裁判所は、こうした平和的な表現やオンライン活動を「テロリズム」と同一視するサイバー犯罪対策法およびテロ対策法の下で、曖昧な規定を使用し、多くの人々を死刑に直面させてきたようだ。

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サウジアラビアは世界有数の死刑執行国

 欧州サウジ人権機関によると、サウジアラビアは今年これまでに少なくとも92人を処刑したという。

 2022年には196人が処刑され、アムネスティが過去30年間に国内で記録した年間死刑執行数としては最高となった。

 これは、2021年の死刑執行数の3倍、2020年の少なくとも7倍に相当する。

 昨年3月、サウジアラビアは1日に81人が処刑されたと発表し、世界的な見出しを飾り、同国におけるここ数年で最大の大量処刑となった。

References:Saudi Arabia: 'ludicrous' death sentence against retired teacher for tweets must be quashed / written by Scarlet / edited by parumo

 
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X(Twitter)に政府の方針を批判する投稿をした男性に対し、サウジアラビア政府が死刑判決