今回の相談者は、離婚することが決まり、ペアローンで購入した自宅からすでに出てきてしまった妻・加奈さん(仮名)。家賃の負担もあることから、少しでも早くペアローンを解消したいと考えていますが、調べれば調べるほど、離婚を原因とするローンの名義変更の難易度が高いことが分かり、頭を抱えています。持ち家離婚カウンセラー・入江寿氏はどんなアドバイスをしたのでしょうか。詳しくみていきます。

ローン返済と家賃を二重で負担する妻…「ペアローンを解消したい」との相談

今回の相談者は、本田加奈さん(仮名)。「ペアローンで購入した共有名義の自宅があるのですが、離婚することになったので、このペアローンをなんとか解消したいと思っています」と、メールで問い合わせをもらいました。

後日面談を実施して話を聞いてみると、加奈さんはすでに家を出て、1人暮らしを始めていました。共有名義の自宅には現在、夫の直哉さんが一人で暮らしているとのことでした。

共有名義の自宅があるのは、直哉さんが学生時代から慣れ親しんだ小田急線沿い。加奈さんはとくにこの地に思い入れを抱いている訳ではなかったため、自身は早々に自宅を出て、勤め先への通勤に便利な場所に部屋を借りていました。

加奈さんは、直哉さんに共有名義の自宅の名義と住宅ローンの一本化をお願いしていますが、直哉さんには「仕事が忙しい」とはぐらかされており、なかなか前に進まないとぼやいています。

調べれば調べるほど明らかになる「離婚による名義変更」の難しさ

もちろん加奈さん自身でも、いまの借入銀行には問い合わせを行いました。しかし銀行からは、名義変更には難色を示されたといいます。自分自身で調べれば調べるほど、離婚を原因とする共有名義の自宅と住宅ローンの名義の一本化は難しいということがわかり、頭を抱えています。

銀行は、そうしたニーズに対応するローン商品を持たないことに加え、「虚偽離婚」の形で離婚した人が、新たな住宅ローンを住宅購入以外の用途に使うのではないか、というリスクを恐れているのです。

現在、ペアローンの返済と自身の家賃を負担している加奈さん。少しでも早く、ペアローンを解消したいと考えるのは当然です。

面談では、ローンの残債や直哉さんの年収、お仕事内容、住宅ローン以外の借入の有無などについて、詳しくヒアリングを行いました。ペアローンの残債を全額借換えするのは難しそうでしたが、加奈さんから受け取った書類を基に、直哉さんがいくらまでなら借入ができるのか、検証してみることにしました。

収入の減った夫、全額借換えは「難しい」見込みだったが…

2人が住宅を購入したのはわずか3年前ということもあり、住宅ローンの残債はまだあまり減っていませんでした。

残債は、直哉さん一人で借換えをするには少し大き過ぎる額です。さらに、直哉さんは4年前にスタートした自身の事業を育てるために会社員としての仕事をかなりセーブしており、収入も減っている状況でした。

総合的にみて、直哉さんが全額借入を行うのは難しそうだということは明らかです。

ただ、ヒアリングを重ねていくと、田舎に相続した後に使っていない土地があることがわかったのです。加奈さんによると、直哉さんは将来的に田舎に住む予定はなく、その土地を処分したいと話していたとのこと。これを売却して自己資金とすれば、借入の可能性はグッと広がります。

ここからは直哉さんも巻き込んで、自己資金を作るための土地の売却を進めていくことになりました。

幸いなことに売り出しから数ヶ月で買い手が見つかり、無事に自己資金を準備できたことで、直哉さんの借換えについての事前審査の承認が下りることになりました。

後で分かったことですが、直哉さんが積極的にペアローン解消に向けた手続きを進めようとしなかったのは、仕事が忙しかったという理由だけによるものではありませんでした。直哉さんは、加奈さんからの離婚の要求に合意したものの、2人で相談して建てたセミオーダーの家や、加奈さんのこだわりの詰まったキッチンに思い入れがありすぎて、名義と住宅ローン変更を少しでも遅くしたいと考えていたのでした。

一方、ペアローンと家賃の二重払いがあって負担の大きかった加奈さん。少しでも早く直哉さんに住宅ローンを一本化して離婚を成立させたいと考えており、直哉さんに代わって必要書類を役所ですべて準備しました。

直哉さんの新事業は順調に伸びていました。数年後には事業もさらに拡大し、支店も作って益々繁盛する見込みです。最後まで、「妻にこの事業の繁栄を祝ってもらえないことがとても悔やまれる…」と話していた直哉さんでしたが、渋々ながら借換えの本申し込みを行い、決済(名義と住宅ローン変更)日の段取りが決定。離婚協議へと進んでいくことになったのでした。

(※写真はイメージです/PIXTA)