防衛省では、陸上自衛隊の対戦車・戦闘ヘリコプターや偵察ヘリコプターを全廃し、無人航空機、いわゆるUAVで代替する計画です。ただ、高性能化が進む無人機といえども、メリットばかりとはいえないようです。

「風前の灯」状態 陸自の戦闘ヘリコプター

地上を走る戦車の天敵といえる存在の攻撃ヘリコプター陸上自衛隊も2022年12月現在、AH-1S「コブラ対戦車ヘリコプターAH-64D「アパッチ」戦闘ヘリコプターを合計約60機保有しています。

しかし、2022年末に発表された防衛三文書の中に、衝撃的な一文が書かれていました。

それは「対戦車・戦闘ヘリコプター及び観測ヘリコプターの廃止」と「多用途/攻撃用無人機(UAV)及び偵察用無人機(UAV)等に移管する」という言葉です。果たしてそれは本当に可能なのでしょうか。これまで有人で行っていた任務を無人機で代替できるのでしょうか。

そもそも、対戦車・戦闘ヘリコプターの役割とは何なのでしょうか。一般的には攻撃ヘリコプターとして知られるこの種の機体は、敵の戦車や装甲車を攻撃し、地上部隊の前進をサポートするのが主な役割です。

攻撃ヘリコプターの源流は1960年ごろ、汎用ヘリコプターに武装を施し、対地攻撃に使えるようにしたのが、始まりといわれています。

本格的に攻撃ヘリコプターが多用されたのは、1960年代中盤から1970年代前半にかけて行われたベトナム戦争で、このアメリカの動きにソ連も追随します。ただ、ヨーロッパ諸国において攻撃ヘリコプターの開発が進められたのは、さらに遅れて1980年ごろになりました。

こうして、米ソ両国を中心に攻撃ヘリコプターは発展を続けます。その一方で、ベトナム戦争以降も、ソ連のアフガニスタン侵攻や湾岸戦争などで実戦投入され、攻撃ヘリコプターは「タンクキラー」として恐れられるまでに至ります。

ただ、低空を低速で飛行することから、対空砲地対空ミサイルなどには弱く、特に身軽に移動できて隠れることもできる個人携帯型の肩撃ち式地対空ミサイルは、攻撃ヘリコプターが最も恐れる存在となりました。

他方、攻撃型無人機(UCAV)はどうでしょうか。

無人機だと第六感が働かない?

本格的な無人攻撃機の最初と言われているのは、1995年からアメリカ軍で運用が開始されたRQ-1(現MQ-1)です。現在は後継となるMQ-9に更新されていますが、これら無人機の愛称である「プレデター」は、無人機のなかでは比較的よく知られています。

ちなみに、RQ-1(MQ-1)の後継であるMQ-9はアメリカ空軍が扱い、RQ-1(MQ-1)の派生であるMQ-1Cはアメリカ陸軍が運用していますが、それぞれ対地攻撃用の装備を備えています。

これら無人機はもちろん、撃墜されても操縦手が命を落とすことはなく、人的損害がないのがメリットです。よって、不時着や緊急脱出などでパイロットが行方不明や捕虜になることがないため、捜索する必要もありません。

また、有人機と比較して機体重量が軽いことから低燃費で、滞空時間も長くとることが可能です。さらにはパイロットのために設けられたコクピットのスペースに追加の機材を乗せることができるため、有人機よりも優れた積載性能を持たせることができるでしょう。

では、無人攻撃機は有人の攻撃ヘリコプターの代替、すなわち任務をそのまま引き継ぐことは可能なのでしょうか。

答えは「イエス」でもあり「ノー」でもあります。

これはその状況によって答えが異なるからで、一概にどちらが優れているとはいえないからです。

たとえば、敵の脅威レベルが高い空域での活動となると、パイロットの命を危険に晒す必要がない無人機の方が安心できます。その一方で、人間が持つ感覚のひとつである「直感」に関しては、モニター越しに遠隔操作するパイロットには感じることができません。

実はこの「直感」が戦場では戦況を大きく左右するともいわれています。いわゆる「戦場の勘」と呼ばれるものですが、数値化するなどの可視化が難しいため、他者に伝わりにくいという側面もあります。

とはいえ、無人機は一般的に有人機よりも高度なセンサー類を搭載しているため、ベテランの勘に頼ることなく、訓練を受ければ誰でも操縦できるようになるでしょう。ただし、誤射の可能性は無人機の方が高いともいわれています。

無人機だからってパイロットが疲れないわけじゃない

ほかにも、パイロットの負担という面で大きな差が出ます。パイロットにとって最も負担が掛かるのは飛んでいるときです。これは飛行時間して客観的に見比べることが可能ですが、有人機の場合、一般的なパイロットが年間200時間から300時間ほどの飛行時間なのに対し、無人機の場合は遠隔操作とはいえ、年間900時間以上もの飛行時間になるそうです。

つまり、「労務」として考えると、有人機よりも無人機の方が大きな負担をかけていることになります。その影響からか、アメリカ陸軍においては、深刻な無人機パイロット(オペレーター)不足に陥っており、それまで同パイロットには士官しかなれなかったのに、いまでは下士官も加わるようになっています。

無人機は決して万能ではありません。地球の裏側でも衛星通信などを用いて遠隔操作できますが、敵の妨害電波や電子パルス攻撃などへの対応が必要になります。場合によってはシステム自体がハッキングされる可能性もあるでしょう。そうなると、敵に操られた無人機はいずれコチラに飛んできます。

近い将来、陸上自衛隊攻撃ヘリコプターや観測ヘリコプターを全廃して、新たな無人機部隊を発足させます。これがどういった結果になるのか。確かに部隊を運用するコスト面でいえば、有人の攻撃ヘリコプターの方が高いといえるでしょうが、無人機になったとしても運用コストがそこまで大きく下がるとは考えられません。

また、攻撃ヘリコプターや観測ヘリコプターのパイロットに支払われている飛行手当の行方も気になります。アメリカ空軍やアメリカ陸軍ではしっかりと飛行手当を支払っていますが、陸上自衛隊の場合はまだハッキリしないのが実情です。

仮に、攻撃ヘリコプターや観測ヘリコプターのパイロットに支払っていた飛行手当を取り止めることで経費を節約するという考えがあるのであれば、その代償はより大きなものとして陸上自衛隊に返ってくるでしょう。

将来的に退役する予定の陸上自衛隊のAH-64D戦闘ヘリコプター(武若雅哉撮影)。