社長招聘の求人が水面下で活発に動いています。外部からダイレクトに社長が招聘されるのは事業投資ファンドが絡んでいるケースが多く、主にはその投資先企業における「事業再生」と「後継」がテーマです。とくに最近は「後継」テーマのものが増えています。本稿では株式会社経営者JPの代表取締役・CEOの井上和幸氏が、社長採用ではどのような人が選ばれるのかについて解説します。

社長に求められるのはロジカルな思考力

某・投資ファンドの役員は、投資先企業の社長候補として面接したA氏について次のようにコメントしました。

「たしかに現場力に溢れていて、泥臭い仕事も粘り強くやってくれるとは思うのだけれど…」

A氏は当該投資先企業と同種の事業責任者経験を持ち、停滞していた事業を粘り強く再成長させた実績の持ち主でした。

その経験と手腕に注目して実施された面接では、配下の社員たちを動かす力と取引先顧客と密なコミュニケーションを図る動きについて、高い評価を得ることができました。しかし、事業の状況や顧客群の状況、戦略と実行評価などの話になると、パッと具体的な話が出てこず、形容詞や抽象的な説明ばかりになってしまったとその役員はいいます。

その結果、経営状況や打ち手の進捗について、経営陣へのレポーティングやディスカッションを行っていくのは難しいとジャッジされてしまったのです。

社長として抜擢される候補者に求められるのは、経営執行にあたってロジカルに状況を把握し、打ち手を組み立て説明できる力です。

とくにファンドが投資する先の企業における経営者の場合、投資元であるファンド側とのコミュニケーションも非常に重要です。そしてファンド側とのコミュニケーションでは、ロジカルで端的な会話のキャッチボールができるかどうかを問われることが多く、高度な論理力が求められます。

ファンド側の人たちは、コミュニケーションの部分で負荷がかかるような人を投資先企業の社長や経営陣には置きたくないのです。

現場がついてこない人を社長に抜擢することはない

では、合理的な人なら良いのかというと、それだけではダメなのが難しいところです。

先日、某ファンドの投資先案件で、ファイナリストに残ったB氏とC氏のどちらを採用するかという話になったことがありました。最終選考結果は2人ともOK。結果として筆者が紹介に携わったB氏が採用されることになりました。

このときの論点は、投資先企業の社員たちとの関係性期待値にありました。

C氏は論理思考に長けており、トップとしての経営の見立て、ファンド側とのコミュニケーションにはなんら不足のない人だったそうです。しかし、現場を上から見るようなタイプらしく、トップと社員たちとの間に距離感が出るだろう、という懸念がありました。

一方のB氏は、論理思考・ファンドとのコミュニケーションに問題はなく、その上で現場に自ら入り込んでいくタイプ。“快活な兄貴分”といった人柄であり、投資先企業の社員たちと良好な関係を築き執行してくれるだろうと期待されました。

この2人の比較において、ファンド側のみならず、なによりも大切な投資先企業の社員たちとうまくやっていけるであろうという期待値が高かったB氏の採用が決まったのです。

社長として抜擢される人には、現場に対してヒューマンに関わりモチベーションUPできる人間力が必須です。上から合理性だけに頼って経営執行する人には、現場がついてこないためです。

経営に求められる「アート」「クラフト」「サイエンス」

社長として抜擢される候補者に求められるのは、論理思考力と人間性の両面です。この「理」と「情」を高いレベルで兼ね備えた人が、転職で社長になる人といえます。

どちらが欠けても駄目なのです。

経営学者のヘンリー・ミンツバーグ教授(カナダ、マギル大学デソーテル経営大学院クレゴーン記念教授)は、経営には「アート」と「クラフト」と「サイエンス」の3つが必要と語りました。

経営とはまさに、想像力や感性、現場力・実行力、戦略力・論理思考が問われる総合格闘技なのです。

(写真はイメージです/PIXTA)