サウジマネーの猛威をフカボリ!
サウジマネーの猛威をフカボリ!

不動のボランチとしてジュビロ磐田黄金期を支え、2006年開催のドイツワールドカップには、日本代表の中心メンバーとして出場。日本サッカーが世界水準へと飛躍していく瞬間をピッチの中央から見つめていた福西崇史。

そんな福西崇史が、サッカーを徹底的に深掘りする連載『フカボリ・シンドローム』。サッカープレーを深掘りすればするほど観戦が楽しくなる!

第68回のテーマは、今夏の移籍市場でトレンドの一つとなったサウジアラビアへのビッグネームの大量流出について。サウジマネーの猛威がACLや代表戦にまで及ぼす影響を福西崇史が解説する。

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先日、9月1日で欧州の夏の移籍市場が閉まり、各クラブの今季前半戦までの戦力が出揃いました。今夏も注目の移籍が多くある中で、猛威を振るっていたのはサウジアラビアでした。連日のようにサウジビッグネームの噂や獲得情報がネットニュースを賑わし、今夏のトレンドの一つとなっていました。

その中心となっていたのは、今季のACLに出場するアル・ヒラル、アル・イテハド、アル・ナスル、それに加えて名門の一つであるアル・アハリです。

昨年12月にクリスティアーノ・ロナウドを年2億ユーロ(約300億円)という破格の年俸で契約したアル・ナスルは、今夏にマルセロ・ブロゾヴィッチ、セコ・フォファナアレックス・テレス、サディオ・マネアイメリク・ラポルテ、オタヴィオといった選手を次々に獲得。大物を引き連れて、7月にはジャパンツアーにまで来ました。

アル・イテハドは6月にカリム・ベンゼマが3年契約、年俸1億ユーロ(約150億円)で加入すると、続けてエンゴロ・カンテ、ジョタ、ファビーニョを獲得。

アル・ヒラルはルベン・ネベス、カリドゥ・クリバリ、セルゲイ・ミリンコヴィッチ=サヴィッチ、マウコム、ボノ、ミトロヴィッチとFWからGKまで豪華な布陣を揃えると、先日にはネイマールの加入も発表しました。

今季のACLには出場しませんが、アル・アハリもロベルト・フィルミーノリヤド・マフレズアラン・サン=マクシマン、フランク・ケシエ、デミラル、ロジェール・イベニェス、エドゥアール・メンディなど、欧州の強豪に引けを取らない陣容となっています。

今季からACLはフォーマットが改定され、秋春制のシーズンに移行すると同時に、外国籍枠も4人(うちアジア国籍枠1)から6人(うちアジア国籍枠1)に拡大されました。サウジ勢は昔から強敵ではありましたが、今夏の移籍市場とフォーマットの改定によってその脅威は比較にならないほど強大になりました。

7月にアル・ナスルがジャパンツアーに訪れ、パリ・サンジェルマンインテルと対戦しました。そのインテルとの試合の中継で解説を担当しましたが、アル・ナスルのクオリティには驚きました。

この頃の大物選手はC・ロナウド、ブロゾヴィッチ、フォファナアレックス・テレスだけで、それ以外はサウジの選手たちでした。プレシーズンとはいえ、昨季のCLファイナリストのインテルを相手に引けを取らず、前半23分には先制点を挙げました。

後半になると3人は交代で下り、一方的な試合になってしまうかと思いましたが、最後まで互角にやり合い、結果的にも1-1のドローで終わりました。このときのサウジの選手たちのレベルの高さには驚きました。

C・ロナウドが加入して約半年、ブロゾビッチやフォファナはまだ加入間もないという時期なのに、国内選手たちのクオリティは間違いなく上がっていると感じられ、モチベーションも非常に高いと感じました。

それはサウジリーグの急速なレベルアップはもちろん、代表強化においても途轍もない影響を及ぼすと思いました。まるで開幕当初のJリーグを思わせます。当時は引退間際のビッグネームが集まっていましたが、サウジにはまだ欧州のトップリーグで活躍できる選手たちばかり。選手の質と量ともに、当時のJリーグをはるかに上回る影響力があるはずです。

ACLではサウジは西地区なので、日本勢とは決勝でしか当たりませんが、決勝にこれらのクラブが上がってくれば、かなりの脅威であることは間違いでしょう。また、来年1月にはアジアカップが開催されますが、サウジのレベルアップ、勢いは日本にとっても注目すべき点です。

ただ、こうしたサウジのクラブ、代表が強化されていくことは、アジア全体のレベルアップにもつながるものだと思います。日本代表にとってもサウジがアジアでより強力なライバルになることは、悪いことではないと思います。

欧州の今夏のマーケットは終了しましたが、サウジの移籍期間は9月20日までとまだ終わっていません。このタイミングでの引き抜きがないとも限らないというのは、欧州のクラブにとっては脅威でしょう。実際に戦々恐々としているクラブは多いと思います。

また、このビッグネーム流出が来季以降、いつまで続くかというのも興味深いところ。まだ底が知れないサウジマネーの猛威を今後も注目して見ていきたいと思います。

構成/篠 幸彦 撮影/鈴木大喜

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