残された家族の生活を守る「遺族年金」。受給のためにはさまざまな要件をクリアしている必要があります。しかし、要件を満たしていたと思っていたのに、実は……ということも。みていきましょう。

老後の漠然とした不安…その正体は?

――老後の生活に不安はありますか?

そう聞かれたら、大抵の人は多かれ少なかれ「不安あり」と答えるでしょう。公益財団法人生命保険文化センター『2022年(令和4)年度 生活保障に関する調査』で、同様の質問をしたところ、「不安あり」は82.2%。

*「非常に不安を感じる」「不安を感じる」「少し不安を感じる」の合計

不安の正体とは。最も多く聞かれた理由は「年金」。老後、収入のほとんどが公的年金となる人が6割に達するといわれているなか、「年金だけでは不十分」というのは大きな不安です。ほかも、大抵はお金にまつわる理由といっていいでしょう。

【老後生活に対する不安の理由】

●公的年金だけでは不十分…79.4%

●日常生活に支障が出る…57.3%

●自助努力による準備が不足する…36.3%

●退職金や企業年金だけでは不十分…31.4%

●仕事が確保できない…29.2%

●配偶者に先立たれ経済的に苦しくなる…21.3%

●貯蓄等の準備資金が目減りする…21.0%

●子どもからの援助が期待できない…13.6%

●利息・配当収入が期待通りにならない…11.0%

●住居が確保できない…5.4%

出所:公益財団法人生命保険文化センター『2022年(令和4)年度 生活保障に関する調査』より

ここから注目するのは、「配偶者に先立たれ経済的に苦しくなる…21.3%」について。70歳男性では16.1%が、70代女性では26.6%が、配偶者が先立てれることで生活苦に陥ることに不安を感じています。

公的年金は大きく2種類。自営業や専業主婦であれば、老齢基礎年金。満額支給であれば、月6.6万円程度。会社員や公務員であれば、老齢厚生年金が上乗せされます。その老齢基礎年金と合わせた平均受給額は、65歳以上男性で月17万円程度、65歳以上の女性であれば月11万円程度となります。

また厚生労働省はモデル夫婦(20歳~60歳まで平均的な給与を手にしてきた夫と、20歳~60歳まで専業主婦だった妻)の年金額は、月22.4万円ほどだとしています。夫婦二人分の年金があればいいけれど一人分だと心許ない……特に年金受給額の少ない女性のほうが、そのような不安を抱きがちのようです。

えっ、遺族年金がもらえない⁉注意したい「年金の加入期間」

配偶者を亡くした遺族が生活に困らないようにと支給されるのが遺族年金。こちらにも、国民年金に紐づく「遺族基礎年金」と、厚生年金に紐づく「遺族厚生年金」があります。それぞれ受給条件が異なるのでみていきましょう。

まず遺族基礎年金。亡くなった人が①~④に当てはまっていることが条件です。

国民年金の被保険者である

国民年金の被保険者で60歳以上65歳未満である

③老齢基礎年金の受給権者である

④老齢基礎年金の受給資格を満たしている

そして受給できるのは、亡くなった人によって生計を維持されていた「子のある配偶者」または「子」。ここでいう「子」とは、18歳になった年度の3月31日までの期間に該当する、または障害等級1級または2級で20歳未満の期間に該当する、のいずれか。年金生活者であれば、年齢的に遺族基礎年金がもらえる人はほぼいないと考えられます。

次に遺族厚生年金。亡くなった人が①~⑤に当てはまっていることが条件です。

厚生年金の被保険者である

厚生年金の被保険者であった期間に初診日がある傷病により、初診日から5年以内に死亡した

③1級または2級の障害厚生年金の受給権者である

④老齢厚生年金の受給権者である

⑤老齢厚生年金の受給資格を満たしている

受給できる人には、①配偶者または子、②父母、③孫、④祖父母 と優先順位があります。年金生活者の場合、パートナーを亡くした場合、遺族厚生年金を受け取るケースは多そうです。

厚生労働省令和3年厚生年金保険・国民年金事業の概況』によると、遺族厚生年金の受給額の平均は月8万0,351円。また先ほどのモデル夫婦の場合。老齢基礎年金は満額支給だとし、夫が亡くなったとすると、残された妻は月13.5万円の年金(老齢基礎年金+老齢厚生年金)を手にできると考えらえます。これで十分かどうかはさておき、亡くなった家族の支えになることは確かです。しかし、

――えっ、遺族年金、もらえないの⁉

そんな事態に見舞われるケースも。たとえば「生計維持の要件を満たしていない」というケース。生計の維持とは、以下の①②いずれも満たすことをいいます。

①生計を同じくしていること

:同居していること。別居していても、仕送りをしている、健康保険の扶養親族である等の事項があれば認められる

②収入要件を満たしていること

:前年の収入が850万円未満であること。または所得が655万5千円未満であること

そして「保険料納付の要件を満たしていない」というケースも。老齢基礎年金を受け取るには、10年の受給資格期間があります。つまり保険料の免除期間や一部免除期間も含めて、10年以上保険料を納めていないと、国民年金がもらえません。これをクリアしたうえで、会社員の経験があれば、厚生年金が上乗せされることになります。

70代妻:うちの旦那は、きちんと国民年金厚生年金ももらっていたわよ

たとえば、そう主張する、70代の女性。国民年金厚生年金も受け取っていた夫が亡くなったら、当然、遺族厚生年金をもらえると思うでしょう。しかし遺族厚生年金の受給資格期間は25年以上。つまり保険料免除期間含め、老齢基礎年金としての受給資格期間が25年以上あり、そのうえで厚生年金加入期間が1ヵ月以上なければなりません。老齢基礎年金、老齢厚生年金をもらっていることと、遺族厚生年金がもらえることは、イコールではないのです。

70代妻:30年近く一緒にいたのに……私、あなたのこと何も知らなかったのね

最愛の夫を亡くした後、そんな思いにさいなまされる妻。このようなことが起きないよう、万が一、保険料の未納期間があるなら、解消しておくことがベストです。