8月30日、『Sea of Stars』が発売となった。

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 90年代JRPGを彷彿とさせるゲームデザインが発売前から話題となり、発売後も好評を博している同タイトル。そう感じさせる所以と、その魅力について掘り下げる。

90年代JRPGの息吹を感じさせるSABOTAGE STUDIOの新作『Sea of Stars』

 『Sea of Stars』は、『The Messenger』や『Oddworld: Soulstorm』などのタイトルで知られるインディーディベロッパー・SABOTAGE STUDIOが開発・発売するRPGだ。プレイヤーは、邪悪な錬金術師・フレッシュマンサーの生み出す怪物に荒らされる世界を舞台に、「月」「太陽」の力をそれぞれに秘めた主人公・ヴァレアとゼイルを操作し、その支配からの脱却を目指す。ターン制のバトル、原始的・直感的なマップアクション、王道の物語といった要素が特徴となっており、ネット上ではスーパーファミコン時代の同ジャンルの金字塔と比較する声が大きい。古き良きJRPGさながらの体験を受け取れる最新タイトル、それが『Sea of Stars』というわけだ。

 対応プラットフォームは、PlayStation 5PlayStation 4Nintendo SwitchXbox Series X|SXbox One、PC(Steam)。価格は、PlayStation版が4,070円(税込)、Nintendo Switch版が4,400円(税込)、Xbox/PC版が4,000円(税込)となっている。現時点ではダウンロードのみの展開だが、2023年12月7日にはパッケージも発売される予定。また、PlayStation/Xboxのプラットフォームでは、それぞれのサブスクリプションサービスである「PlayStation Plus ゲームカタログ」「Xbox Game Pass」にもラインアップされている。

■増えるレトロ志向のタイトル 『Sea of Stars』の各所に散りばめられた「懐かしさ」と「新しさ」

 近年のゲーム市場では、80年代90年代の作品を模倣する新作タイトルの発表が増えている。ゲームカルチャーにとってこの時期は文化の草創期。技術革新などによって埋もれつつある時代を今によみがえらせ、「懐かしさ」と「新しさ」を共存させることが、現代のユーザーに訴求するためのひとつの要素と考えられているのだろう。実際にこうして生まれたタイトルたちは、「レトロスタイル」として多くのプレイヤーに受け入れられている。本稿で扱っている『Sea of Stars』も、そのうちのひとつだ。

 先にも述べたとおり、『Sea of Stars』は、ターン制のバトル、原始的・直感的なマップアクション、王道の物語などを特徴とする。これらはすべて、80年代90年代に生まれたRPGの主成分となっていた要素だ。同タイトルがスーパーファミコン時代の金字塔と比較されるのは、こうした個性によるところが大きい。公式の作品紹介文には「クラシックスタイル」「古典的名作から着想を得た」という言葉が使われている。

 一方、映像・音楽面には、新しさも取り入れられている。『Sea of Stars』はピクセルアート風のグラフィック、昔ながらのファンタジーRPGを思わせるオーガニックなBGMを特徴とするが、その表現は、80年代90年代と比べるまでもないほど美しい。このあたりは、技術革新によるハードの性能向上、ソフトの収録容量の増加、手法の進歩によるところだろう。特に前者におけるライティング、後者におけるパート数の豊富さ、ひとつひとつの音色の質などには、現代に生まれた作品ならではの変化がうかがえた。『Sea of Stars』が広く受け入れられている理由は、この点にこそある。「懐かしさ」と「新しさ」のバランスがとれた新作レトロRPG、それが『Sea of Stars』なのである。

 なお、『Sea of Stars』の音楽制作には、光田康典氏が一部携わっている。同氏は、『クロノ・トリガー』や『ゼノギアス』などの古典JRPGへの参加で知られる、日本を代表するゲーム音楽のコンポーザーのひとりだ。この点にも、制作陣の90年代JRPGからのインスピレーションを感じる。光田氏は以前から、SABOTAGE STUDIOが開発したタイトル『The Messenger』のファンだったという。ある意味で偶発的とも言える縁によって、JRPGのこれまでを知るプレイヤーがニヤニヤしてしまうようなコラボレーションが、『Sea of Stars』で実現したことになる。

 『Sea of Stars』は、80年代90年代のRPGへの懐古のトレンドを代表するタイトルとなっていけるか。8月30日には、初日の販売数が10万本に達したという公式のアナウンスも話題を集めた。同タイトルの快進撃はまだまだ続きそうだ。

(文=結木千尋)

“90年代JRPG風”新作『Sea of Stars』