世界最大級の自主映画のコンペティション“PFFアワード”を擁する映画祭『第45回ぴあフィルムフェスティバル2023』が今月9日から東京で、来月に京都で開催される。

本映画祭はこれまでに数々の人気監督を輩出しており、プロになるために本映画祭のアワードに応募する監督も多いが、本映画祭の最大の目的はまだ見ぬ新しい才能を発掘すること。たくさんの映画を観てきたファンも驚く、あまり映画を観ない人が思わず共感してしまうような“これまでにない映画”が上映される可能性を秘めているのだ。

16人のセレクションメンバーの“いちおし”が
すべて違った今年のPFFアワード

荒木啓子ディレクターは今年PFFアワードに入選した「22作品の中にはどれか“刺さる”ものがあると思います」と語る。

世界には様々な映画祭があり、その多くがコンペティション部門を設けているが、その多くが名の通り“コンペティション(競争)”だ。しかし、PFFアワードは各賞の発表はあるが、それ以上に新しい才能を発掘することに力を注いでいる。

まず入選作品は投票では選ばれない。情熱のあるセレクションメンバーが今年も応募作品557本を途中で止めたりすることなく観て、じっくりと話し合いを行う。その結果、今年は近年で最も多い22作品が入選した。

PFFアワード2023より『完璧な若い女性』『ホモ・アミークス』『リテイク』『ちょっと吐くね』

「今年の選考会は驚くほどセレクションメンバーのセレクトバラバラで、16人のメンバーの“いちおし”がすべて違ったんです」と荒木ディレクターは振り返る。

「それはすごく良いことだと思いますし、メンバーが推す作品はすべて上映したくなるんです(笑)。『この映画のどこが良いのかぜんぜんわからない』という人が仮にいたとしても、その作品を熱く語る人がひとりでもいるのであれば、上映した方がいいと思うんです。今年は上映時間の短い作品が多かったこともあって、上映できる枠の中に可能な限り入れて選考しました。

PFFアワード2023より『鳥籠』『サッドカラー』『USE BY YOUTH』『ただいまはいまだ』

ここ数年は入選作品の自由度がどんどん上がってきていると思います。応募監督の中には高校生の時から映画を撮っている若い人もいますし、映画を撮りたくて上京してきて、ネットで仲間を募って撮影をはじめる人もいます。大人のつくった仕組みやシステムに乗らないで、自分でなにかをしようとしている若い人が増えている感覚があります。だから、若い人に観てもらいたいですし、22作品の中にはどれか“刺さる”ものがあると思います」

若い人には会場に足を運んでもらいたいし、
オンラインでも観てもらいたい

ここにはまだ見ぬ映画たちと、そんな作品と出会える場がある。だから本映画祭は世界がコロナ禍に見舞われる前から入選作品のオンライン配信に力を入れてきた。

PFFアワード2023より『移動する記憶装置展』『また来週』『ふれる』『Flip-Up Tonic

「PFFは“映画をつくりたい人は全国にいる”と思っています。でも、映画祭は東京と京都でしか開催されないので、オンラインでも観てもらいたいんです。

中学生が偶然に配信で観てくれて、『自分でも映画をつくってみようか』と思ってくれるのを期待しているんです。だから中学生や高校生に気軽に観てもらいたいですし、その中から新しい監督が彗星のように現れるのを期待しています。“偶然の出会い”がこれだけ少なくなっている状況で、オンライン配信はとても大事なんです」

PFFアワード2023より『ParkingArea』『逃避』『うらぼんえ』『こころざしと東京の街』

一方で、会場でのスクリーン上映と上映後のQ&Aの時間も必ず用意されている。

「いまは若い監督たちも“配信”で観るのが普通になっていて、自作のリアルな上映を想定していない。だからこそ、映画祭は監督たちにリアルで上映する場を経験してもらう役割もあると思っています。多くの入選監督にとってスクリーンで自作を観る初めての場だと思うんです。その時に“大きなスクリーンで上映される時に、どれだけのクオリティが必要なのか”を知ってもらいたいんです。

いまは映画館が“ワクワクできる場所”じゃなくなってきているのかもしれません。だからこそ、若い人には放課後にでも会場に足を運んでもらいたいですし、オンラインでも観てもらいたいです」


スカラシップは“プロになるため”ではなく、
“隠された才能を発掘する”ためにやっている

PFFアワード2023より『リバーシブル/リバーシブル』『肉にまつわる日常の話』『Sewing Love』『じゃ、また。』

映画祭では22作品が、9つのプログラムで2回ずつ会場で上映される。最終審査員によって各賞が決定し、PFFアワード入賞者にはオリジナル作品をPFFが企画開発から製作、劇場公開までトータルでプロデュースする長編映画製作援助システム「PFFスカラシップ」の挑戦権が与えられるが、これも“プロ監督への道”ではなく、“新たな才能の発掘と育成”のためにあるプログラムだ。

「“商業映画”という言葉はすでに現代には存在しないと思うんです。だからスカラシップは入選監督たちが『これまでとはまったく違う環境で映画をつくることを経験する』ためにあります。

PFFアワード2023より『ハーフタイム』『不在の出来事』

自分の企画をプロデューサーに説明しなくてはならない、見知らぬスタッフと一緒に撮影しなければならない、つまり、自分のやりたいことを整理して具体化して入選作品よりも面白いものをつくらなければならない。つまり、スカラシップで競うのは自分の入選作品なんです。

PFFスカラシップは“プロになるため”ではなく、若い監督にはもっとつくりたい映画、やりたい企画があるはず、という前提でやっています。すべては“隠された才能を発掘する”ためにやっていること。

この映画祭は、隠された才能を見つけたい、才能をもっている人の可能性を広げたい。そのためにやっているんです」



『第45回ぴあフィルムフェスティバル2023』
9月9日(土)~23日(土) 東京・国立映画アーカイブ
10月14日(土)~22日(日) 京都文化博物館
※月曜休館
公式サイト
【コンペティション部門】PFFアワード2023

荒木啓子ディレクター