今年3月に自身初の横浜アリーナ単独公演「AREA OF DIAMOND」を成功させ、4月には4thフルアルバム『Naked』をリリースしたちゃんみな。そんな彼女が放送中のドラマ「ハヤブサ消防団」(テレビ朝日系)主題歌「命日」をリリース。これまで自身の経験に基づく楽曲で幅広い世代の共感を生んできた彼女が、原作小説を読み込み、自らの解釈で登場人物に寄り添いながら作り上げた初の書き下ろし作品だ。本作について、「幸せなタイアップになった」とちゃんみなは言う。なぜオファーを受け、どんな思いで制作したのか。楽曲に込めた思いを聞いた。

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■みんなの反応を見て、ルッキズムの根深さを再確認した

――今年3月に横浜アリーナで開催されたワンマンライブ「AREA OF DIAMOND」では、「美人」の演奏中に披露されたメイク落としパフォーマンスが衝撃でした。そのシーンはYouTubeでも公開されて大きな反響を生んでいます。どんなタイミングで思いついたパフォーマンスだったんでしょうか?

思いついたのは、横浜アリーナ公演の1~2年前だったと思います。私はメイクが好きで、人前に出る際はしっかりメイクをする人なので、そんな自分が素顔を見せることが一番伝えたいことを伝えられると思ったんです。そのタイミングをずっとうかがっていて。2018年から続けていたライブ「THE PRINCESS PROJECT」が終わり、「AREA OF DIAMOND」という新しいショーが始まるタイミングだったので、「今だ!」と思いました。

――あの映像を見て心が震えた人は多いと思います。1~2年間アイデアをあたためている中で、気持ちが揺らいだり迷ったりはしませんでしたか?

そういうのはなかったですね。というのも、演出を詰めていく段階やリハーサルでは、脳が演出家モードになっているからです。ちゃんみなというアーティストを客観的に見て、「こうすれば観客に届くだろう」とか、「きれいにメイクを落とすためには」「鏡を見ないでコンタクトを取るためには」といったことばかり考えていたので、揺らぎはなかったです。

ただ、本番では演出家ではなく演者としてステージに立つので、本番になって初めて頭が「そうだ、私、今からこれやるんだ」と演者脳に切り替わって緊張しました。ちゃんとメイクを落とせるか、伝えたいことが伝わるか、どんな反応をされるか、世間に広がったときにどういった反応があるのか……そういうことを考え始めて、やりながら緊張していたと思います。

――周囲の方々からの反応はいかがでしたか?

「感動した」とか「勇気を持てた」と言ってくれる方が多かったです。普段から一緒に演出を考えてくれているダンサーのMiQaelとGENTA YAMAGUCHIも私と同じように演出家としてちゃんみなを見ているので、リハーサルまでは仕事モードだったんですが、実際にお客さんの反応を目の当たりしたら感動していました。

私としては、あのパフォーマンスで具体的なレスポンスを求めていたわけではないんです。ただ私が伝えたかったことを表現しただけで。でもそういった反応を見たり聞いたりして、それだけみんながルッキズムに苦しめられていたこと、意識の深いところにルッキズムが根付いていたことを再確認しました。オーディエンスの反応を見ながら、私も泣いてしまいそうでした。

――泣きそうだったとは、ちょっと意外な気がします。むしろあのステージのちゃんみなさんからは強さを感じたので。

私、昔からそういう癖があるんです。緊張すればするほど緊張していないふりをするし、泣きそうになればなるほど強がってしまう。泣きそうな気持ちと、演者・ちゃんみなとしてしっかりパフォーマンスしなければという気持ちの両方でしたね。

■原作を読み、歌謡曲を研究して作った新曲「命日」

――さて、今回の新曲「命日」は、テレビ朝日系列で放送されているドラマ「ハヤブサ消防団」の主題歌として書き下ろされたものです。オファーが来たときはどう思いましたか?

元々、自分の曲は自分の色にしたいし、自分の話を書きたいし、そもそも音楽は自分が書きたいと思ったときに書きたいタイプなんです。でも今回は、池井戸潤さんの原作小説を読んで面白そうだなと思いました。

また、監督さんやプロデューサーさんたちとミーティングをさせていただく中で、スタッフのみなさんの人柄の良さや私に対する信頼をすごく感じられて。「ちゃんみなさんの解釈でいいので、好きにやってください。面白いものを作ってください!」と言ってくださったので、ぜひやらせてほしいとお受けしました。

――どんなふうに作り始めたんでしょうか。

私の中では、やっぱりハヤブサという田舎の土地でいろんな事件が起こる物語なので、「田舎」がキーワードとしてありました。そこから広げて、スナックでハヤブサの人たちが歌っているイメージが漠然と浮かんできたんです。そうして歌謡曲にたどり着いて、歌謡曲を研究して作りました。

――具体的にはどのあたりの歌謡曲ですか? 山口百恵さんの「プレイバックPart.2」を参考にされたのかなと思いましたが。

特にこれという曲はないんです。ただ、歌謡曲全般を聴き漁ったので、言われてみれば確かにそのあたりの雰囲気が強く出ているかもしれないですね。私らしさみたいなものは最後のラップのパートだけにして、全体的な歌い方は歌謡曲の時代感を反映させました。作詞と作曲はほぼ同時進行で、フリースタイルのように歌いながら歌詞を入れていきました。

■「運命なんてないんじゃないか?」と思った

――「命日もバースデーもないんだから」というサビの歌詞にはどういう思いが込められているんでしょうか?

「命日」は「人が亡くなった日」という意味だけれど、この曲には「運命の日」というニュアンスも入れています。たとえば、自分を傷つけた人や苦しめた人、あるいは逆に自分が苦しめてしまった人のことって、死ぬときに思い出すと思うんです。そう考えたら、「運命の人」って何なんだろうと思うようになって。

結婚して一緒に子どもを作った人なのか、自分が死ぬときに手を繋いでくれていた人なのか、それとも死ぬまで覚えていた憎い人なのか、どれが運命の人なのか分からない。「命日もバースデーもないんだから」という歌詞には、「あんたなんかに私の命日を捧げたくないし、バースデーを祝われたくもない」という意味と「運命なんてないんじゃないか?」そして「いつからいつまでなのか正体のわからない“若さ”」というあらゆる意味を込めました。

実は制作前にスタッフさんから、ドラマでは川口春奈さん演じる立木彩というキャラクターに焦点が当たると伺っていたんです。そこで、彩の気持ちになって改めて原作を解釈しました。特に、彩が持つプライドと私が持つプライドの共通点を深掘りしましたね。

――「この頃感じる焦りはなんだろう/二十四、五、六は溶けやすいだろう」という歌詞も気になります。ちゃんみなさんは現在、24歳。ご自身にも焦りがあるのでしょうか。

24、25、26歳は女性にとって、人生において決めなければいけないことが増える年齢だと思うんです。たとえば、出産するのか、しないのか。子どもひとり育てることが以前に比べて難しくなっている今の日本経済の中で、その選択肢を選ぶのか、選ばないのか? 焦って決めるのは良くないし、でも科学的にはリミットが近づいている。一方で、遊びやすい年齢でもある。そういう意味で「溶けやすい」と感じています。

――「お前」という言葉はどうでしょうか? ちゃんみなさんが歌詞で「お前」を使ったのは、過去に数回しかありませんよね。

そうなんですよね。「お前」という言葉は私の中では下品な言葉で、相手を蔑むときや命令するときなど、自分が上だと示したいときに使う言葉です。今回「お前」という言葉を使ったのには、母親目線のフレーズがあることや、歌謡曲の時代には割と普通に「お前」という言葉が使われていたことなどいくつか理由があります。でも、一番大事な理由は、「当たり前だ 私高いから/今はヤング 十分払いたくないわ」というフレーズに表れていると思っていて。

私はこの曲の本質はここだと思うんです。これって、若い時にしか言えないセリフですよね。若いだけで価値があると言われる世の中で、それを自覚している若い人もいるし、自覚しながらうまく武器としては使えていない人、あるいは過信している人もいる。いずれにしろこの曲では若さを高価なものだと考えて「お前なんかに捧げたくないわ」と相手に言い放っているんですね。

■そのまま昭和歌謡をやっても自分らしくない。だったら、極道かなと(笑)

――MVはまるで映画のようで、北野武さんの作品みたいだと感じました。

映画のようなMVにすることは、曲を作りながら決めました。歌謡曲のエッセンスを入れようと決めてから、極道のイメージが浮かび上がってきたんです。そのまま昭和歌謡をやっても自分らしくないと考えていた時に、極道っぽいものなら私に合うかなと思いついて(笑)。それから、クレイジーケンバンドの横山剣さんの影響はあるかもしれません。ずっとファンだったし、一度対談させていただいたこともあって、本当に素敵な方でずっと心に残っていました。剣さんを思い出したら極道っぽいものがやりたいなと思えてきて(笑)。MVの参考にした映画は『仁義なき戦い』です。MVではいろいろな選択肢に悩まされる極道の一家に生まれた女性をイメージしました。

――着物姿が素敵で、「美人」のMVや20歳の時のワンマンライブの着物姿とはまったく違う印象でした。演技も、目線など細かいところ含めてとても良かったです。

ありがとうございます。テーマは「お嬢から女将へ」。演技は、頑張りました(笑)。乱闘シーンなんかも間近で見ていたから役者さんに感情移入しちゃいましたね。「ああ、この人この後、〇〇されちゃうのに……!」とか思いながら(笑)。

――ちなみに、放送されているドラマは見ていますか?

もちろん見てます! 最初は、「命日」が流れたことに気付きませんでした。ドラマが面白くて見入っちゃって、自分の曲が流れることを忘れちゃってて。イントロが終わったくらいで「あ、『命日』だ!」って気付きました(笑)。しかも毎回、後半の良いタイミングで流してくれるんですよね。あれはドラマチームの凄さだと思います。

――今回の書き下ろしを経て、今後やってみたいことはありますか?

ドラマの内容に即した作品を書き下ろすのは今回が2度目だったんですが、今後も自分が面白いと思った作品に寄り添ってできることがあるのなら、またぜひやりたいなと思いました。「面白いものを作ってください」と言われると燃えます。こんなに素敵なドラマに、あんなに素晴らしい使われ方をされるなんてとってもありがたいです。ドラマチームのみなさんのおかげで、幸せなタイアップになりました。

取材・文=山田宗太朗

「命日」をリリースしたちゃんみな/   撮影=諸井純二