世界平和の象徴!? ハワイアンピザ
世界平和の象徴!? ハワイアンピザ

『週刊プレイボーイ』で連載中の「ライクの森」。人気モデルの市川紗椰(さや)が、自身の特殊なマニアライフを綴るコラムだ。今回は、国籍カオスな「グローバリゼーションめし」について語る。

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前回カリフォルニアロールなどアメリカ風のスシの話をしました。日本からの移民によってロサンゼルス(LA)に持ち込まれたおすしが、独自の進化を遂げ、今もさまざまな地域で新たなスシが作られている、と。

カリフォルニアロールはLA生まれと紹介しましたが、実はカナダ生まれ説もあります。このカリフォルニアロール発祥の地を巡る争いは、思った以上に白熱しているよう。「カナダグルメ」や「カナダが誇る世界的発明」を紹介する数々のサイトには、堂々とカナダ名物として掲載されています。

真相はわからないし正直どっちでもいいっちゃいいんですが、"カナダ名物の和食・カリフォルニアロール"という響きは妙に刺さります。名古屋の名店「味仙」の看板メニューとしておなじみの名古屋めし台湾ラーメン イタリアン」「台湾ラーメン アメリカン」に等しいカオスに心が躍ります。

カナダが生み出した国籍カオスめしはほかにもありました。それは、ハワイアンピザ。日本でもおなじみのパイナップルとハムがのった、賛否の分かれるあのピザ、実は1962年カナダのオンタリオにあるダイナーで生まれました。しかもこのメニューを考案したマスターギリシャ出身。ピザの本場ナポリで食べたピザにインスパイアされて、自分の店でオリジナルのピザを出そうと思ったのがきっかけだそう。

直前の1959年ハワイが正式にアメリカの州になったため、この頃北米ではハワイアンブームが起こっていました。そうした経緯があった上で、ギリシャ系移民によるカナダ発のナポリ料理・ハワイアンピザが誕生しました。

結局どの国の何の味かわからない、世界平和の象徴のような一品かもしれません。好き嫌いがはっきり分かれるという意味では、さほど平和ではないメニューだけど......でも、しょっぱい食べ物にフルーツ許せる派・許せない派は、国籍や文化ではなくひとりひとりの好みで分かれている気がするので、やっぱり真の国境のない料理なのかもしれません。ちなみに、私は「あり派」です。次にいただくときは「国籍の宝石箱や~」とでも叫んでから食べてみます。

ほかにも、青森のソウルフードイギリストースト」から派生した「イギリスフレンチトースト」という、欲張り故郷な商品もあります。イギリストーストは、青森のコンビニやスーパーに必ずあるご当地パンです。食パンサンドのようなシンプルな菓子パンで、月に50万個も売れるという定番品。

スタンダードはマーガリンとグラニュー糖をサンドしたものですが、小倉あん&マーガリンやいちごジャムを挟んだものなど、これまでに発売された商品は200種以上。このイギリストーストの生地を卵や牛乳を混ぜた液に浸したものが、イギリスフレンチトーストです。

さらに、ピザ風のトッピングを施した「イギリスフレンチトースト(ピザ風)」というボーダーレスな商品も存在します。そもそもフレンチトーストフランスではなくアメリカで生まれたということを思い出すと、さらに混乱します。おおらかさとカオスを兼ね備えたグローバリゼーションめし。いつか千葉県東京ドイツ村で食べたいです。

市川紗椰
1987年2月14日生まれ。米デトロイト育ち。父はアメリカ人、母は日本人。モデルとして活動するほか、テレビやラジオにも出演。著書『鉄道について話した。』が好評発売中。中学2年生のときに、修学旅行先がカナダと知った"ハズレ感"をまだ忘れていない。公式Instagram【@sayaichikawa.official

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