元国税調査官で税理士のじてこ先生SASAこと笹圭吾氏のSNSには、お金や税金についての質問や相談が多数寄せられるそうです。その回答を、じてこ先生は著書『あの~~~、1円でも多くお金を残すにはどうしたらいいですか?』(すばる舎)でまとめられています。本連載では、じてこ先生のSNSに届いた質問や相談の中から誰もが気になりそうなものを抜粋して、会話形式で紹介。今回は、GG近藤さんの質問「なぜお金持ちの社長は高価な美術品を買うのか?」を取り上げます。質問者の近藤さんは55歳。家族は妻と子供(25歳)。日課は大阪京橋での立ち飲みです。

節税のための購入の可能性

質問者「なぁ先生、金持っとる人は、なんであんなに高額な美術品とかを買うんでっか?たとえば絵画とか。絵が好きな人が社長になりがちなのか、社長になったら絵が好きになるのか、にわとりと卵の親子丼みたいな話やんな?ZOZOの元社長の前澤さんとかも、美術品コレクターとして有名やろ?」

じてこ先生SASA「(……親子丼・笑)前澤さんはコレクションもそうですけど、若い芸術家支援者としても有名ですよね。

まぁそれはそれとして、確かに僕も、それは不思議だったんですよね。税務的な目線で言うと、減価償却費として経費化可能なものを購入して、節税しているケースは結構ありますね。」

質問者「絵が経費になるんでっか?」

じてこ先生SASA「場合によってはなるんですね。たとえば会社のエントランス、応接室、会議室などに飾る目的で購入した場合には、事業用途になって経費化可能なケースが多いです。

その絵の金額によっても取り扱い方が変わるんですけど、金額が30万未満の絵画であれば全額を即経費にできます。(※通常は10万円以上なら減価償却が必要。少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例を使うことで、30万円未満のものを即経費にすることができる)

で、30万円以上100万円未満なら、法律で決められた年数に応じて減価償却できます。絵画の場合は、通常は8年ですね。80万円の絵を購入したなら、償却年数が8年ですから「80万円÷8年=10万円」となって、1年間あたり10万円を経費化できる計算です。

ところが、ここが少し面白いんですが、100万円以上の絵画になると、一般に価値の減少が起きず、逆に時間が経過すればするほど価格が高くなっていくという絵画の特性があるとして、減価償却できなくなります。一部例外はあるみたいですけどね。

減価償却できる資産のことを『減価償却資産』と言うんですが、絵画は購入時の値段によって減価償却資産になるかどうかが分かれる資産なんですね。30万円未満と100万円以上の上と下は減価償却資産ではないけれども、真ん中の30万円以上100万円未満は減価償却資産ということで、おもしろくないですか?」

質問者「いや、税理士の先生の感覚はちょっとわからんけども、そんなら、たっかい絵は経費にはできんわけですな。ほな、前澤さんが購入しているような何億円レベルの絵画は、やっぱり絵が好きだから買っているということなんやろか?」

投資目的や資産分散目的での購入の可能性

じてこ先生SASA「絵とかのアート作品が好きっていうのは、実際あるんでしょうね。ただ、投資の要素もあるんじゃないかな〜、と僕なんかは感じますけど。」

質問者「ほぉー? と言いますと?」

じてこ先生SASA「お金持ちの方にとって美術品というのは、投資商品としても結構人気があるんですよね。コレクションすることで保有している間は自分も楽しめるし、価値も目減りしにくいし、コレクター同士の人脈づくりといった副次的な効果もある。

十分に楽しんで飽きたら、流動性もあるので手放すことも難しくない。しかも、さっきも少し説明しましたが高価な美術品というのは時間経過でむしろ値上がりしていく性質があるので、手放すときには買ったときより高価になっていて売却益まで出ることが多いんです。

加えてお金持ちの方の場合は、もっと儲けたいというよりも、資産をいろいろなものに分散してリスクヘッジしておくために、美術品を買うこともあるみたいですね。

いちばん流動性が高いのは現金で、ほかにも株とか債券とかいろいろありますが、とにかく同じ種類の財産に資産を集中させてしまうと、何か大惨事が起きたときに資産の大部分を失ってしまう危険性があります。

それを避けるために、さまざまな財産へと資産を分散させるのですが、その分散先の1つとして美術品はちょうどいいのかもしれません。」

質問者「なるほどなぁ。まぁ、どっちにしろワシら庶民にはようわからん話やな。ワシはいつでも、ニコニコ現金払いや。」

じてこ先生SASA「(国税時代を思い出すタイプの人や・笑。現金取引にこだわる人って、比較的、税務署の常連さんになりがちやからね)

あと、絵画などは展示会等のために一時的な貸し出しをすると、レンタル料を得られることがあるので、それを目的に投資をする方もいる、というのは聞いたことがありますね。」

質問者「そうなんか。投資対象としても値上がるし、持っている間も賃借料を得られるってことは、もはやマンション経営なんかと同じような感じやな。」

お金持ちの消費は結果的に投資となる

じてこ先生SASA「そういうふうに捉えることもできるかもしれませんね。

しかも、不動産とは違って動産で身近に飾ることができて、自分の応援している画家さん本人とのお付き合いができたり、絵画自体からパワーをもらえたりするんでしょうから、買えるお金があるのなら、悪い投資先ではないんでしょうね。

最初の1つを購入すると、その良さがわかってコレクターになりやすい、なんて話も聞いたことがあります。」

質問者「まったくわからんな……。ワシはそんな『神々の遊び』には興味ないわ〜。」

じてこ先生SASA「(『神々の遊び』て・笑)

一般人は消費にお金を使って、お金持ちは投資に使う。たとえば靴やバッグを買うにしても限定品で、使用したものでも中古市場で値崩れせず、高値で取引されやすい、というのは聞いたことがありますね。

お金持ちの方は、別に投資と思ってお金を使っていないのに、結果として投資になってしまう、という環境だったりするのかもしれません。」

質問者「要は、買うなら高いもん買っとけや、みたいな話やな!」

じてこ先生SASA「いや、それは少し違うような……。あ、それとお金持ちと経営者ではまた違っていて、経営者の場合には『価値の保存』というよりは『価値の循環』みたいなことを考えることが多くて……。」

質問者そうかそうか、まぁようわからん話やけど、先生、もうええわ。ありがとうやで。なんせ、18時までに店に行かんと、ハイボールが高くなってしまうからよ〜。ほな〜〜〜。」

じてこ先生SASA「あ、はい。……行ってらっしゃい……。」

まとめ

・社長がよく美術品を買いがちなのは、節税対策という側面もあるけれど、投資として買っているケースが多い。その中でも絵画は値崩れしにくく、コレクター心理を刺激するようで、よく買われている。

・お金持ちは、資産をあらゆる価値に分散して保有することで、資産を減らさないようにリスクヘッジしている。