ラグビー日本代表の行く末は『ラグビーワールドカップ(RWC)2023』初戦が決定付けると言っても過言ではないだろう。1か月後、待ち受けるのは歓喜か、落胆か。チリ戦が運命を左右する。

日本代表は4年前、開催国として迎えた『RWC2019』で初めてベスト8に進出した。今回、コーチ陣、選手たちがターゲットにするのは優勝である。もちろん、選手たちも実現困難な目標であることは百も承知だ。日本代表メンバー発表の壇上でジェイミー・ジョセフHCは「どのチームにとっても全員のゴールは試合に勝っていくこと、優勝すること。『RWC』はいろんなことが起こり得る」とコメントした。

リーチ マイケル (C)スエイシナオヨシ

4大会目の『RWC』出場となるFLリーチ マイケルはこう言った。
「今回狙いにいって、できなければ次の世代がチャレンジする。この大会がキッカケになるように、日本のラグビーが進化したと言われるような大会にしたい」

バイスキャプテンを務めるSH流大が「優勝と聞いたみなさんは現実的だと思っていないと思うが、でも僕らはできると信じている。2019年も僕らがアイルランドに勝つとは、スコットランドにも勝って全勝でベスト8にいくとは思われていなかったと思う。僕らはそれをできる準備をしている。見ていてください」と約束すれば、PR稲垣啓太は「チームのマインドがひとつ上がったのでしょうね。それだけの決意と覚悟が固まったのでしょう。チームの決意表明だと思う」と補足した。

キャプテンのFL姫野和樹は壮行会でファンに「我々日本代表は4年間をかけて準備してきた。ともに時間を過ごし、ともに汗を流し、たくさんの犠牲を払ってここまできた。すべては『RWC』で勝つため。我々は歴史を変える準備はできています、歴史を変える自信があります。2019年よりもたくさんの感動や勇気を感じてもらえる試合をすることを約束します」とキッパリ。

李承信 (C)スエイシナオヨシ

だが、しかし、気持ちよく『RWC』へ突入するための最後のチャンスであった『リポビタンDツアー2023』イタリア戦でも日本は完敗を喫した。8月26日イタリアで10番を背負った李承信もベンチスタートとなったSO松田力也もショットの精度を欠き、点差を詰めるに詰められず、最後は連続トライを許して21-42のダブルスコアに終わった。

試合後、松田が「自分らしく蹴られなかった。追いかける展開の中で2点は効いてくると思うので、自分のルーティンでしっかり蹴られるようにもう一度見直したい。今回は厳しい結果だと思うが、いいアタックをすればスコアに繋がるところもあったので、前を向いて修正し開幕を迎えたい」と唇を噛めば、FL福井翔大も「1本トライに繋がるタックルのミスをしてしまい、結果も負けてしまった。1対1では絶対に仕留める、アタックの時には自分がオプションとなってチームとしてトライに繋げられるような動きをする。今日の結果は悔しいし、次こそは絶対勝つ」と巻き返しを誓った。

これで本番前の強化試合は1勝5敗で終了。今の日本代表は勝利に飢えている。だからこそチリ戦で求められるのは白星である。ミッションはボーナスポイントを含めた勝点5である。日本代表は『RWC』第1戦で自分たちのラグビーを取り戻さなければならない。

ただし、チリ戦ですべてが好転するとは思えない。相手は『RWC』初出場で参加20か国の中で最も世界ランキングが低い22位に甘んじる格下だが、そこは4年に一度の夢舞台である。これまで感じたことがないような強大なプレッシャーが日本代表選手たちを襲うだろう。しかも33名中20名が初めての大舞台となる。

『RWC2015』日本×ロシアより松島幸太朗 (C)JRFU

思い出してほしい、2019年9月20日東京スタジアムでのロシア戦を。

日本中が期待に胸を膨らませた『RWC2019』開幕戦でキックオフのハイパントをFLリーチ マイケルが目測を誤れば、フォローに回ったNO.8姫野和樹はノックオン……。相手ラインアウトからのボールを奪いSO田村優がキックで陣地を挽回しようとするも、キックチャージに遭う。あわやファーストトライ献上と思われる中、相手のペナルティで事なきを得るが、続けて放たれたFBウィリアム・トゥポウのキックは距離を稼げず、蹴り返されたボールをキャッチできずにロシアに先制トライを奪われたのだった。キックオフからわずか4分、ドキドキワクワクに包まれていた東京スタジアムの雰囲気はあっという間に凍り付いた。

選手たちの足が地につかなければ、ボールも手につかないふわふわした状態ながら、前半の内にWTB松島幸太朗の2トライで逆転すると、徐々にチームは本来の姿を取り戻した。最終的に松島のハットトリックを含めて計4トライをマークしてボーナスポイントを獲得する30-10で好発進したのだった。試合後、強心臓で知られる田村が「緊張して死ぬかと思った」と振り返った姿は印象的だった。その後の快進撃はご存じの通り。しかし、『RWC2019』初戦の前半を見る限り、とても4戦全勝でプールAを突破するとは思えない低調なパフォーマンスだったのだ。

前回大会を知る選手たちは『RWC』初戦が持つ意味を知っている。FWとBKを繋ぐ流は初陣に集中していた。
「チリ戦に向けて映像を見る限り、フィジカルが強く、簡単に勝てる相手ではない。前回大会と同じく、開幕戦は難しいものになるので100%の準備が必要になる。あとさき考えず100%この試合にコミットしたい」

『RWC』初出場のSH齋藤直人も初戦の大事さは理解している。
「同じ絵を見る重要性は、特にイタリア戦の後から感じていた。事前に深く想定できるかが大切。だが試合では(想定外の)ことが起こるため、リーダーがその対策を明確にして、それを全員で認識してプレーし続けるかが大事」

齋藤直人 (C)スエイシナオヨシ

強化試合ではディフェンス面も課題が山積したが、ジョン・ミッチェルACは2枚のレッドカードがいい教訓となったと振り返った。
レッドカードを2枚もらった時点で、ワールドラグビーを通じてコーチングの介入があった。個人と意識を共有し、どこに欠陥があったのかを特定し、認識させ、積極的にドリルを作り、そのドリルについてワールドラグビーにフィードバックを送った。選手には学びがあったし、コーチである私自身も当然学びがあった。あの2枚のカードによって自信を得る機会を逃してしまった。私たちはテクニックを少し変えることでこの問題に対処している。ヒットスルーやボールの下に入ることは続けている。コンタクトに入る時に身体を低くして高さを調整し、リードフットと連動させることが重要」

『RWC2023フランス大会』ラグビー日本代表登録メンバー33名

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稲垣啓太(埼玉パナソニックワイルドナイツ)49
クレイグ・ミラー※(埼玉パナソニックワイルドナイツ)13
シオネ・ハラシリ※(横浜キヤノンイーグルス)0
具智元(コベルコ神戸スティーラーズ)25
垣永真之介※(東京サントリーサンゴリアス)12
ヴァル アサエリ愛(埼玉パナソニックワイルドナイツ)26

【HO】
堀江翔太(埼玉パナソニックワイルドナイツ)72
坂手淳史(埼玉パナソニックワイルドナイツ)37
堀越康介※(東京サントリーサンゴリアス)7

【LO】
サウマキ アマナキ※(コベルコ神戸スティーラーズ)1
ワーナー・ディアンズ※(東芝ブレイブルーパス東京)7

【LO/FL】
ジャック・コーネルセン※(埼玉パナソニックワイルドナイツ)16
アマト・ファカタヴァ※(リコーブラックラムズ東京)3

【FL】
ベン・ガンター※(埼玉パナソニックワイルドナイツ)8
下川甲嗣※(東京サントリーサンゴリアス)2
姫野和樹(トヨタヴェルブリッツ)29
福井翔大※(埼玉パナソニックワイルドナイツ)2
ピーター・ラブスカフニ(クボタスピアーズ船橋・東京ベイ)16
リーチ マイケル(東芝ブレイブルーパス東京)80

【SH】
齋藤直人※(東京サントリーサンゴリアス)15
流大(東京サントリーサンゴリアス)34
福田健太※(トヨタヴェルブリッツ)0

【SO/FB】
小倉順平※(横浜キヤノンイーグルス)4

【SO】
李承信※(コベルコ神戸スティーラーズ)10
松田力也(埼玉パナソニックワイルドナイツ)33

【CTB】
長田智希※(埼玉パナソニックワイルドナイツ)4
中村亮土(東京サントリーサンゴリアス)35
ディラン・ライリー※(埼玉パナソニックワイルドナイツ)14

【WTB】
ジョネ・ナイカブラ※(東芝ブレイブルーパス東京)4
シオサイア・フィフィタ※(花園近鉄ライナーズ)12
セミシ・マシレワ※(花園近鉄ライナーズ)5
レメキ ロマノ ラヴァ(NECグリーンロケッツ東葛)16

【FB/WTB】
松島幸太朗(東京サントリーサンゴリアス)51
※は『RWC』初選出、所属チームの後の数字は代表キャップ数。

果たして、ラグビー日本代表は自信を取り戻すことができるのか。『RWC2023』フランス大会・日本代表×チリ代表は9月10日(日)・トゥールーズにてキックオフ。その後17日(日)・ニースにてイングランド代表、28日(木)・トゥールーズにてサモア代表、10月8日(日)・ナントにてアルゼンチン代表と対戦。チリ戦の模様はNHK総合、NHK BS 4Kにて生中継。

取材・文:碧山緒里摩(ぴあ)

姫野和樹