史上最も愛されたプリンセスとされるダイアナ元妃が、皇太子妃の座を捨て、自分らしく生きる道を選択するに至った3日間を描く映画『スペンサー ダイアナの決意』が、Amazon Prime Video チャンネル「スターチャンネルEX」にて配信中だ。故エリザベス女王の没後1年(現地時間9月8日)を迎えた本日、チャールズ国王と同じ名門ヒル・ハウス校に通っていた経歴を持つタレントのハリー杉山が、本作の魅力や英国の王室事情について語ってくれたインタビューをお届けする。

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英国名門貴族スペンサー家に生まれ、20歳で当時の皇太子であるチャールズと結婚したダイアナ元妃。その後、世界中に“ダイアナ旋風”を起こし、2人の王子にも恵まれるも、チャールズと結婚前から恋愛関係にあったカミラ夫人との不倫や、慣れない王室でのストレスに苛まれ、摂食障害を抱える。そして1997年8月31日、当時の恋人と共に突然の交通事故で急逝した。享年36歳。本作でダイアナ役を演じたのは、「トワイライト」シリーズで絶大な人気を誇ったクリステン・スチュワートで、アカデミー主演女優賞に初ノミネートされるなど、高い評価を受けた。

■「老若男女関係なく、ダイアナは完全に国民的アイドルでした」

ダイアナフィーバーが起こっていた1980〜90年代、当時のダイアナについて杉山は「老若男女関係なく、彼女は完全に国民的アイドルでした」ときっぱり言う。「誰よりもかわいくておしゃれなファッションアイコンでしたが、すごく恵まれた環境で幸せだったのかというと、その実像は過酷な日々を送る悲劇のプリンセスだったんです」。

杉山は「現国王チャールズカミラ王妃との関係性は、昔からメディアで報じられていたので周知の事実でしたし、当時は国民の80~90%がダイアナ側の味方だったのではないかと思います。だからこそダイアナ元妃が亡くなられた時、国民からの反響はとても大きいものでした。さらにイギリス国内だけでなく、世界中の人々が彼女を偲んでいたように感じられました」と現地の空気を振り返る。

■「『スペンサー ダイアナの決意』はひとつの映画としての魅力を強く感じました」

スペンサー ダイアナの決意』で描かれるのは、英国ロイヤルファミリーの人々が、エリザベス女王の私邸サンドリンガム・ハウスに集まった1991年のクリスマスでの出来事だ(映画の冒頭で“寓話”と示される)。ダイアナチャールズ皇太子の夫婦仲が冷え切り、不倫や離婚の噂が飛び交うなか、ダイアナは身も心も追い詰められていく。やがて彼女は、故郷でもあるこの地で、ある決心をする。本作のメガホンをとったのは、ナタリー・ポートマン主演映画『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』(16)のパブロ・ラライン監督だ。

これまでもダイアナ元妃を描く映画をたくさん観てきたという杉山は、本作について「ダイアナの人生はもうだいぶわかっているので、物語そのものよりも、ひとつの映画としての魅力を強く感じました」と言う。特に、イギリスのロックバンド、レディオヘッドのギタリストであるジョニー・グリーンウッドの音楽が印象深かったそうだ。「彼の音楽は、主役のダイアナと肩を並べるぐらいの存在感だったかと。ポール・トーマス・アンダーソン監督作『ファントム・スレッド』でも、音楽の力を強く感じましたが、狂気の世界をクラシック不協和音で表現できるグリーンウッドは天才だなと思いました」。

さらに「映画(の映像)はものすごくおしゃれで、ハイブランドの広告を見ているような感覚もありながら、(物語は)ちゃんとダイアナという1人の人物が過ごしたクリスマスの3日間にスポットライトを当てた点がおもしろかったです」と本作の魅力を語った。

シャネルが全面協力した衣装の数々にも魅了された杉山。「スタイリングがいちいちおしゃれすぎました。しっかりと監修が入っていますが、僕は特に、緑のチェックのジャケットがお気に入りでした。ある意味典型的な良家のお嬢様がちょっと遊んでいるスタイリングなんじゃないかと」。

また、チャールズ皇太子カミラ夫人との不倫に苦しみ、王室の古いしきたりにも適応できず、ギリギリの精神状態に追い込まれたダイアナの姿を見事に演じきったクリステン・スチュワートについては「びっくりしました!クリステンといえば、『トワイライト』の印象が強かったので。顔の骨格はダイアナ元妃と全然似てないのですが、不思議なことにとてもハマっていて、角度によっては若いころのダイアナ元妃とすごく似ていると思いました。それに、クリステンは精神的に追い込まれる役がすごくうまいと思うから、そこもよかったです」とアカデミー賞主演女優賞にもノミネートされた演技を絶賛する。

■「家族に対する強い想いは、イギリス人特有の感情かもしれないです」

また劇中で、すさまじい狂気を感じたのが、ダイアナがディナーの席でネックレスをひきちぎり、スープの中に落ちた大粒のパールを、次から次へと口へ運び飲み込んでいくシーンだと語る。

「あれは、前代未聞の演出でした。しかもグリーンウッドがそこにも音楽を入れているから、なおさら気持ち悪いシーンになっていたし、ダイアナ元妃がそこから逃げ出すシーンも、まるでホラー映画のようでした」。

杉山は「イギリスで育つと、英国王室に関しては必然と詳しくなります」と言う。「毎日入ってくる王室のニュースについては、近所のマダムたちともよく話しました。日本でも皇室について報道されますが、イギリスでは王室事情が時には容赦なく生々しく報じられるので、常に一般市民の注目の的になっています」と、日本の皇室との違いを語る。

劇中では、ダイアナ元妃の生家、スペンサー家が、ヘンリー8世の妻だったアン・ブーリンとゆかりがあるとされ、彼女がヘンリー8世から離婚され、のちに処刑されたことも紹介される。「その歴史は学校で勉強するので、イギリス人なら誰もが知っています。劇中ではサンドリンガム・ハウス内の装飾としてヘンリー8世のドでかい肖像画が登場しますが、やっぱり国王の王権というのは、圧倒的な“権力”なんだなと改めて感じました」。

母親として子どもたちに愛を注ぐダイアナの表情も印象深い。「ダイアナは、狂気の悪循環にどっぷりハマっていく一方で、絶対にブレなかったのが、彼女の子どもたちに向ける愛情でした」。本作のなかでは、ダイアナと幼いウィリアム王子とヘンリー王子の絆深いシーンが描かれているほか、冒頭では、故郷の地でかつて父親が着ていたボロボロになったジャケットを見つけ、持って帰ろうとするダイアナの姿も映しだされる。「そもそも彼女は家族をものすごく大切にしていたから、カカシが着ていたお父さんのジャケットに思いを馳せたんだと思います」。

ダイアナ元妃について「本当に切ないです」と、彼女の胸中をおもんばかる杉山。

ダイアナは父親みたいに自分をリードして守ってくれるような頼れる男性と一緒にいたいと思っていたのに、チャールズのような人を選んでしまった。父親の温もりを少しだけでもいいからほしいと思ったから、ジャケットを持ち帰ったのだと思います。そこは、昔の実家がある地元だったので、1人で自問自答をしたのではないかと」。

杉山も全寮制の学校生活や海外生活が長かった分、ホームシックになった経験があるそうだ。ダイアナが廃墟となった自分の生家に戻るシーンについて、「僕自身も去年、父親を亡くしましたが、自分ではなかなか答えが出てこないことについては、自分が育った家に戻り、なにかしらのきっかけを必死で探そうとする行動は理解できます。僕もイギリスの実家の家具をいま住んでいる部屋に置いていて、先祖の魂を感じながら、日々過ごしています。父親の結婚指輪も身に着けていますし、家族代々受け継がれてきた数百年前の本や、曽祖父、親父の肖像画を飾っているので。家族という存在に対する強い想い。それはイギリス人特有の感情かもしれないです」。

■「ダイアナ元妃が特別な存在になったのは、“頂点を極めても決して幸せじゃなかった”ことが大きい」

現在の英国王室については「伝統などの変わらなくていいことと、変わるべきところがあると思います。昨年、エリザベス女王が崩御されましたが、1950年代から女王陛下として英国を支え、見守ってきた女王は不老不死なんじゃないかと思っていたイギリス人は多かったのではないかと。でも、そこから強制的に、英国王室は新たなるページをめくる時代が来ました」と捉えた。

「今年5月のチャールズ国王の戴冠式では、白人だけではなく、各国からそれぞれの宗教を代表する方々が参加し、黒人の宗教音楽であるゴスペルが歌われたり、“レガリア”という日本の“三種の神器”的なお宝が提示されたりしました。それは、ダイアナ元妃の影響からか、もしくは世の中の流れからなのかはわかりませんが、英国王室も変わってきています」と感じている。

ロンドンオリンピックの開会式で、あそこまで女王陛下がプロモーションを仕掛けたことにも驚きました」と、当時、話題をさらった「007」さながらのパフォーマンスを称え「当時は、チャールズ皇太子BBC天気予報をしていたし、結果的に、あのプロモーションは大成功したと思います」と太鼓判を押す。

しかし“開かれた王室”となっていく一方で、ヘンリー王子夫妻の王室離脱など、ゴシップも絶えない。そんななかでは、いまやキャサリン妃が、ダイアナ的なポジションを目指していると思うか?と聞くと、杉山は「そうかもしれませんが、ダイアナ元妃があそこまで特別な存在になったのは、“頂点を極めても決して幸せじゃなかったこと”が大きいと思います」と持論を述べる。

キャサリン妃の場合は、ウィリアム王子と愛し合っていて、すごく安定しています。ヘンリー王子夫妻関連でのごたごたはあっても、極めてハッピーですし、日常的なスタイリングは、結婚前からトップショップやギャップなど手軽に買えるプチプラ・ブランドのものを着ています。とはいえ、ロールモデルであることは間違いないと思いますが」と述懐。

「芸能界もそうですが、なにかしらの葛藤や悲劇を乗り越えている、もしくは経験中の“ナウ”がない限り、センセーショナルな存在にはならないと思います。ダイアナ元妃はものすごく美しくてチャーミングで、いろんな都市伝説があるにも関わらず、こんな不幸なの?という点がキャッチーなので、何世代も語り継がれる存在になったのではないかと。でも、あんなに美しい人でも、男は離れていくんですね」。

最後に、本作をこれから観る方へ、メッセージをもらった。

「美しい狂気と共に満ちあふれるダイアナ元妃の生き様を感じてほしい。あくまでも憶測ですが、孤独と混乱と悲しみに明け暮れた一方で、人としての軸を最後までしっかり持とうとしたダイアナの想いが存分にわかると思います。あとは切羽詰まったクリステン・スチュワートの演技がすばらしく、彼女のキャリアを代表する作品になりました。美しいイギリスの田舎や豪華絢爛なインテリア、音楽なども楽しんでほしいです」。

取材・文/山崎伸子

ダイアナ元妃の魅力からいまの英王室事情をハリー杉山が語る/[c]SPLASH/AFLO