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マイナ保険証」に関して「政府はウソをついている」と私は思っています。

そのウソとは、「カードを落としても大丈夫」「顔認証があるからなりすましはできない」など安全性に関わるものも多く、近著『マイナ保険証の罠』(文春新書)にまとめています。なかでもいちばんのウソは「保険証を廃止しても医療現場に問題はない」という点でしょう。

国はマイナ保険証のメリットを強調しますが、医療現場では実にさまざまな不具合が起きています。受付がスピードアップするはずの顔認証も、髪形の変化や眼鏡の有無などで認証できないケースが多い。逆に「全く別人のマイナ保険証なのに顔認証された」といった信じられないことも起きています。

また、健康診断などの医療情報がマイナポータルを通じて閲覧できるため、より良い医療が受けられるともいわれますが、これもかなり疑わしい。というのも、マイナポータルの医療情報は、病院が毎月どんな医療行為を行ったか、費用の明細を知らせる「レセプト」を元にしています。月ごとにまとめて送るものですから、リアルタイムには程遠い。その都度きちんと更新されたお薬手帳のほうがリアルタイムの情報に近いといえるでしょう。

混乱はこればかりではありません。医療者にはマイナ保険証を導入するため、読取り機の設置やシステムの導入が義務付けられています。経済的な負担はもちろん、システムの不具合への対応に悲鳴を上げている医療機関が多いのです。全国保険医団体連合会の調査では、マイナ保険証の運用を始めた医療機関のうち、41%で不具合があったと答えています。

顔認証ができない、別人のデータが出てくる、なかには1割負担の高齢者に「3割負担」と表示されるなど、あってはならない間違いに医療機関は疲弊し、「マイナ保険証だけでなく、必ず健康保険証も持参してください」と貼りだす病院もあるとか。

さらに、何十年も地域に根付き医療を行ってきた高齢の医師たちが、次々と廃業に追い込まれています。全国保険医団体連合会によると、マイナ保険証の導入で廃業を決めた医師は全国で1,000人以上にのぼるといいます。彼らは、デジタル機器は苦手かもしれませんが、自分の患者の体質や既往症などのデータは頭の中にあって、地域からの信頼も厚いのです。

医師の少ない地方もあります。主治医を失い途方に暮れる患者たちは、この先どうすればいいのでしょう。

岸田首相は「誰一人取り残さないデジタル社会の実現」を掲げていますが、廃業に追い込まれた医師たち、その患者たちを「取り残した」とは言わないのでしょうか。

ウソにまみれたマイナ保険証が、誰もが安心して受診できる医療制度を崩壊に追い込むことのないよう、厳しい目で追及したいと思います。