「家、ついて行ってイイですか?」を手掛けたことで知られる、元テレビ東京プロデューサーの高橋弘樹氏。今年2月末で18年間勤めたテレ東を退職した彼が、3月1日より社員として働くABEMAではじめて制作した番組「世界の果てに、ひろゆき置いてきた」(毎週土曜、日曜夜9:00 ABEMA)が今、大きな話題を呼んでいる。ネット掲示板2ちゃんねる」の開設者で実業家の“ひろゆき”こと西村博之氏が、アフリカを旅する本作。高橋氏は、番組を作るにあたって「ネットテレビの良いところを両方しっかり混ぜ合わせることを意識した」と語り、特に、番組冒頭のひろゆき氏が砂漠を彷徨うシーンについて「地上波あそこまでお金を掛けた映像を作ることは、大作ドラマくらいでしかあり得ない」と自信をのぞかせる。

【動画】アフリカで事故に巻き込まれるひろゆき&東出

また、旅の同行者として俳優の東出昌大を選んだ理由を「人生について一度立ち止まって考えたことがある人を起用したほうが面白くなるし、深みが出ると思った」と説く高橋氏。さらに、自身が運営するYouTubeチャンネル「ReHacQ」でもひろゆき氏とタッグを組んで旅番組を展開していることについて聞くと、「ひろゆきさんと旅番組をやっていると、何故かめっちゃ神が降りてくるんですよね」と、確かな信頼関係をうかがわせた。

ネットテレビの良いところを両方しっかり混ぜ合わせることを意識

――はじめに、「世界の果てに、ひろゆき置いてきた」を企画した理由を教えてください。

本音を言うと、楽して面白いドキュメントバラエティーを作りたかったんですよ。良い番組を制作するためには、当然時間がかかる。でも、僕が行ける範囲内でロケをするとなると、自ら出向いて撮らなきゃいけない。なので、僕の手の届かないくらい遠方に面白そうな人を置いていく設定にすれば、撮影しに行かなくてもいいんじゃないかと思い、企画しました(笑)

――なるほど(笑)。では、遠方に放置して面白そうな人として、ひろゆきさんを起用した理由は何なのでしょうか?

前々からひろゆきさんが旅好きだと知っていましたし、それに、僕との関係値的にも気合を入れて長期でスケジュールを空けて協力してくれるだろうなと思い、お願いしました。

――ひろゆきさんにオファーを出した時はどんな反応でした?

二つ返事でOKしてくれました。ひろゆきさんって、やりたくない時は「う~ん…」とか「あ~…」とか嫌そうにするんですけど、やりたい時は「あ、大丈夫っすよ」と言ってくれるんです。今回はやりたい時のテンションの返事だったように思いました。

――今回の番組は、高橋さんがABEMAの社員となって初めて手掛けた番組になります。はじめて制作したインターネット番組でもあるわけですが、どんなことを意識して作られたのでしょうか?

ネットテレビの良いところを両方しっかり混ぜ合わせることを意識しました。編集は、すごくテレビっぽいんですけど、ネットを意識したシーンもたくさんあって。ネットでは、視聴者に能動的に見てもらうことが大切です。

そのため、一目で引き込むような画づくりにこだわりました。その代表例が、広大な砂漠のど真ん中をひろゆきさんが彷徨い歩く、番組冒頭のシーンです。地上波あそこまでお金を掛けた映像を作ることは、大作ドラマくらいでしかあり得ない。と、思っていたら、「VIVANT」のOPが、まさにそんな感じでした。個人的には「VIVANT」に勝ったと思っています。向こうはモンゴルの砂漠ですが、こっちはナミビアの砂漠で、砂の色はナミビアのほうがいいですから(笑)

■旅って人生のメタファーだなと改めて思いました

――番組では東出昌大さんとToshlさんもひろゆきさんの旅の同行者として出演されますが、お二人にオファーを出した理由も聞かせてほしいです。

たとえば、イケメンを集めたアイドルグループで旅番組を企画するのであれば、ハワイが似合うじゃないですか。若手人気女優だったら、ニューヨークの街を歩いてもらえば画になりますよね。ただ今回のような、世界の果てをあてもなく行くような旅って、人生について一度立ち止まって考えたことがある人を起用したほうが面白くなるし、深みが出ると思ったんです。

2人にどんなことが起こったかは世間でよく知られていますけど、僕はそこにあまり興味がなくて。「真相どうだったんですか?」というゴシップ的な笑いに走ることは簡単ですが、本質的ではないというか。そういう人が、ゴシップ的な話題以外で何を語るのかに興味がありました。

――異色のキャスティングにはそんな意図があったんですね。

そうなんです。僕は今回のロケ映像を見ていて、旅って人生のメタファーだなと改めて思いました。人生って、90年近く続くじゃないですか。その長い年月の中で体験する、出会いと別れや、喜怒哀楽などを凝縮したものが旅なのかなと。なので、今回「世界の果てに、ひろゆき、置いてきた」を作ってみて、ひろゆきさんと東出さんの人生観を見たような気がしています。

――実際にロケをしてみて、当初の想定が覆されたことなどはありましたか?

たくさんありましたが、一番は、#7でひろゆきさんと東出さんが乗るバスが事故に遭ったことですね。日本だと交通事故に起こったらどうなるか容易に想像できますけど、アフリカの片田舎で交通事故に遭ったらどうなるのかという稀有な映像が撮れました。2週間もロケをしていれば、奇跡的なシーンが撮れることはままありますが、もう一個上の“ロケの神”が降りるみたいなことがたまにあって。そのシーンはまさしく“ロケの神”が降りていました。

というのも、交通事故に際して“フリ”がしっかりと効いていたんです。事故の直前に牧師さんがバスに乗り込んできて、「皆さんに神のご加護がありますように」と、乗客とドライバーに安全な旅を祈念するんです。その時に不謹慎にも、あの2人、無視してがっつり寝てるんですよ(笑)。ちなみに、その日はずっと移動の日。2~3時間バスに揺られながら、東出さんがヘラヘラした顔で「撮れ高みたいな変化って言ったら、もう、このバスが事故るしかないですもんね~」とか言っていて、その後、本当に事故ったわけです。なので、編集していて「神懸かってるな!」と、鳥肌が立ちましたし、なんだか、ドラマを見ているみたいでした。

■ロケの神様に出会うには「映像を物語として捉えて、発見すること」

――“ロケの神”でいうと、「家、ついて行ってイイですか?」でもそうですが、 高橋さんの番組にはいわゆる“神回”が頻出している印象があります。この“ロケの神”を降臨させる秘訣があれば、教えてください。

まず第一に長時間撮影すること。それに加えて、編集でその「神」を見つけられるかどうかだと思います。ロケ映像を見ても描けないディレクターもいますから。ロケ映像を物語として捉えた上で、発見できるかが大事だと思います。それを見つけていくのが、ノンフィクションドキュメントバラエティーを制作するディレクターの腕の見せ所なんです。だから、パン屋さんが美味しいあんパンを作るのと一緒ですよ。今日は湿度が高いから餡の水の量を変えよう…みたいな、ある種の職人技といいますか。そういう作業を地道にやっていると、「神様がそこにいるな」と気付く瞬間があるんです。

――「ひろゆき置いてきた」のほかに、高橋さんが運営するYouTubeチャンネル「ReHacQ−リハック−」でも、ひろゆきさんが旅をする企画「ReHacQ旅」を展開されていますが、ひろゆきさん×旅という掛け合わせのどんなところに魅力を感じていますか?

淡々としているところがいいんですよね。ただ、そこには良し悪しもあります。「世界の果てに、ひろゆき、置いてきた」の#1でナミビアの砂漠を抜けて、大西洋を眺める場面があるんですけど、結構あっさりしてるんです。編集する側としては感慨に浸るコメントが欲しいのに、彼は言わない。「海見たら感動してくれよ!」と思う反面、そこにはリアリティーがあるんです。

そんなふうにひろゆきさんは嘘臭くないし、素直な人で。本音を言ってくれるから、旅行において見たこともない反応・対応になるところがいい。現地の料理を食べて、うまくなければうまくないっていうし(笑)。素直で変に演じないからなのか、ひろゆきさんと旅番組をやっていると、何故かめっちゃ神が降りてくるんです。

――ひろゆきさんと高橋さんの相性の良さもあるんですかね。

まぁ、ひろゆきさんがいなくても、僕の旅番組には神が降りてくるんですけどね(笑)思い込みが激しいんですよ、僕は。ちょっとメンヘラだから、旅のロケで撮影された素材から感じるものが多すぎて、多感症なのかなと思ってます(笑)

テレビでも実は結構なことが今の時代でも描ける

――現在、ABEMAで勤務する一方、副業として「ReHacQ」の運営・番組の企画制作を行う株式会社tonariの代表も務められていますが、会社員と社長の二足の草鞋で仕事をしようと思ったのはなぜですか?

tonariを立ち上げたのは、あらゆる意味での映像の権利を持ち、資金の調達も自分でしながら、映像を作ることに魅力を感じたからです。それに、企画の選定をする必要がなく、自分のやりたい企画にスピーディーに取り組めるのもメリットですね。とはいえ、僕は経営者よりも作り手ですから、人のお金で責任を負わずに番組を作っていたいという気持ちもあります(笑)。そんな願望とともに、これまで携わってこなかったOTT(Over The Top)のコンテンツを手掛けたいという思いや、様々なご縁もあってABEMAに勤めることにしました。

――テレビ番組とネット番組では、表現の幅に差があるように感じますか?

僕は自分の番組作りにおける表現のルールを結構厳しく設定していて、それは、テレビでの本来許されている表現のルールよりも狭いんですよ。だからOTTではなくテレビでも、実は結構なことが今の時代でも描けるんです。でも、ほとんどの制作者が踏み込んでやらない。仮に、本来テレビでできることを10と置いた場合、僕が8ぐらいでルールの線引きをしているとしたら、他の制作者は6や7でやってるように感じます。

6から8にもっていくには、色々考えなければいけません。「世界の果てに、ひろゆき置いてきた」で言うと、東出さんが屠殺するシーンタバコを吸うシーンがあるのですが、そのシーンにはどんな思いがあって、なぜ必要なのかを説明できないダメ。なぜなら、これらのシーンは10に近くて「どうして描かなければいけないのか」という、アラートが発せられるので。そこに対する思いが明確にあれば、8や9にいけるんだと思います。

ひろゆき×東出のコンビの第二弾はあるか?

――早くも次回作を期待する声もありますが、第二弾の構想はありますか?

またひろゆきさんをどこか置いていきたいです(笑)。個人的には、グリーンランドの奥地が隔絶されてて、冬だと極夜でメンタルが壊れたりするらしいんですけど、そういうところも楽しそうだなと考えています。ただ僕はやりたいんですけど、ひろゆきさんはもうやりたくないと思っているんじゃないですかね(笑)

――ひろゆきさん×東出さんのコンビが継続することを期待する声も多いですが。

仮に、あの2人で10年タッグを組んで旅を続けたとしたら、ものすごいコンテンツになるような気がしています。やはり、長期間かけて描く人間関係って、非常に尊いものがあるので。ただ、東出さんはこれからより忙しくなっていくと思いますよ。むろん、当人に起きたことは色んな評価があると思います。結果として良くないと一般的に思われることもあったかと思いますけど、少なくとも僕が見た東出さんは、かなり魅力的な一面がある人でした。その魅力を、今後、僕以外の演出家や監督が気付いていき、忙しくなっていくと思うんです。

――9月9日(土)夜9:00に#9、10日(日)には最終回を迎えます。最後にメッセージをお願いします。

今回、番組を作ってみて、やはり旅というのは人生を凝縮したものなんだなと改めて感じています。個人的には、#0から10までで、ひろゆきさんと東出さんの人生が浮き彫りになってきた印象です。ひろゆきさんも東出さんも色々あった人生ですが、変化していくんですよね。人生も20代、30代、40代と年を経るごとに変化していくと思うのですが、旅だとその変化が凝縮されるイメージです。しかも今回は極限の旅ということもあり、数日とか一週間で人間が変化していきます。その変化していく過程も見どころです。普段忙しくて旅に行けない方もきっと疑似体験できると思うので、ご覧いただけたら幸いです。

「世界の果てに、ひろゆき置いてきた」高橋弘樹P/撮影=小島浩平