女性労働者が職場で「妊娠」をきっかけに「マタハラ」を受けるケースがあります。また、男性労働者も、育休を取得しようとして却下されるケースがあります。これらは法的にどのような問題があり、どう対処すればよいのでしょうか。自身も1児の母であり、出産・子育てに関わる法律問題に詳しい弁護士・高橋麻理氏の著書『子育て六法』(日東書院本社)より、一部抜粋してご紹介します。

女性労働者に対する「マタニティハラスメント」

マタニティハラスメント(マタハラ)とは、妊娠、出産、子育てなどをきっかけにした職場での嫌がらせや不利益な取扱いのことで、法律で禁止されています。マタハラには2つの種類があります。

1つ目が、妊娠、出産、子育てなどに関わる制度の利用に対する嫌がらせ。たとえば、妊娠し、定期検診のための時間休をとることを報告した女性に対し、「仕事を抜けられてしまうと、プロジェクトを任せられない」などと言うこと。

2つ目が、妊娠、出産、子育ての状態に対する嫌がらせ。たとえば、妊娠を報告した女性に対し、上司が「会社の大事な時期だから困る。他の人を雇うから辞めてもらうことになるよ」などと言うこと。

法律には、事業主は、妊娠等を理由に「女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」と定められており、また、就業環境が害されることのないよう、必要な体制の整備等を講じなければならないと定められています。したがって、妊娠を理由に一方的にプロジェクトから外すことは、状況によってはマタハラにあたる可能性があります。

しかし、会社が一方的にプロジェクトから外す意図はなく、妊娠中の方の体調を最優先に考えるという配慮に基づき、本人の意向や体調を確認しようとしたケースもあるかもしれません。そのような場合は、それ自体がただちにマタハラとはいえない可能性があります。

会社側の行為がマタハラに該当するかどうかの検討と併せ、何よりも重要なのは、コミュニケーションをとることだと思います。自分の体調、仕事内容等に照らし、これまでどおりプロジェクトに参加できることを会社側に伝えたり、体調に無理なく参加できる方法を提案したりするなど、方法を考えてみるとよいかもしれません。

マタハラが疑われたら、社内の人事担当者に相談してみてください。対応が期待できない場合は、各都道府県労働局や全国の労働基準監督署内などに設置された総合労働相談コーナーなどに相談できます。

男性の育休申請が「却下」されたらどう対応すべきか

男性の場合、「マタハラ」ではありませんが、育休を取得しにくい実態があります。「前例がない」という理由で却下されたという話もよく聞きます。

しかし、「育児・介護休業法」では、労働者は男女問わず、育休をとることができると定められています。また、育休とは別に、出生直後に「産後パパ育休」をとることも認められています([図表]参照)。

さらに、事業主は、労働者本人または配偶者が妊娠または出産したことを申し出たときは、育児休業に関する制度などを知らせたり、それに関わる意向を確認するための面談などの措置を取らなければならず、かつ、申出を理由に事業者が労働者に対して解雇その他の不利益な取扱いをしてはならないと定められています。

加えて、事業主は育児休業に関する研修の実施、相談体制の整備等のいずれかの措置を講じなければならないとされています。

でも、育児休業取得者の割合は、女性約85%に対し、男性は約14%。まだ男性の育休が浸透しているとは言い難く、「前例がない」会社も多いのは事実です。

令和元年(2019年)10 月1日から令和2年(2020年)9月30 日までの1年間に在職中に出産した女性(男性の場合は配偶者が出産した男性)のうち、令和3年(2021年)10 月1日までに育児休業を開始した者(育児休業の申出をしている者を含む)の割合。

正しい法律の知識がないままに上司が却下している可能性もあるので、人事担当者に相談してください。それでも解決しなければ、各都道府県労働局、全国の労働基準監督署内などに設置されている総合労働相談コーナーや弁護士への相談も考えてみてください。

高橋 麻理

弁護士法人Authense法律事務所

弁護士

(※写真はイメージです/PIXTA)