JR在来線で最も長い運行時間の昼行特急は、JR九州の「にちりんシーガイア」です。博多~宮崎空港間を、下りの「5号」は5時間48分かけて走ります。航空機や新幹線、バスでも行ける区間ですが、どんな乗客が長距離特急を利用しているのでしょうか。

所要時間は高速バスにすら負けているが…

2023年8月現在、JR在来線で最も長い運行時間の昼行特急は、博多~宮崎空港間を結ぶ「にちりんシーガイア」です。日豊本線の特急は基本的に、博多・中津~大分・佐伯間の「ソニック」と、小倉・大分~南宮崎・宮崎空港間を結ぶ「にちりん」に系統分割されており、博多~宮崎空港間を直通する在来線特急は、下りの「にちりんシーガイア5号」と、上りの「にちりんシーガイア14号」の2本だけです。5号は5時間48分、14号は5時間45分かけて、413.1kmを走ります。

にちりんシーガイア5号」は博多駅を7時31分に出て、宮崎駅に13時10分、宮崎空港駅には13時19分に到着します。同じ区間で航空機を利用すると、9時50分に博多駅を出て福岡空港から宮崎空港へ向かえば、11時15分に到着。宮崎駅でも11時35分に到着します。

なお鉄道であれ、博多駅7時58分発の九州新幹線新八代駅に向かい高速バスB&Sみやざき」に乗れば、宮崎駅には11時13分着(宮崎空港なら11時37分着)です。高速バス単体なら、博多を7時35分に出る「フェニックス号」に乗れば、宮崎駅到着は12時11分(宮崎空港なら12時26分着)です。

ほかの交通機関に所要時間で劣る「にちりんシーガイア」ですが、どんな利用をされているのでしょうか。筆者(安藤昌季:乗りものライター)は2023年8月、全区間乗車しました。

にちりんシーガイア」は787系電車で運行されています。1992(平成4)年に登場した車両ですが、「ホテル並みの空間」を目指した当時のフラッグシップ特急だけに、現在の目で見ても高品質な車両です。1+2列の「DXグリーン席」や、1~4人で利用できる「グリーン個室」も備えています。

在来線最長特急」として知られるだけに、「グリーン個室」は人気が高く、当日も鉄道ファンのグループが乗車していました。個室内は1人掛けのリクライニングシートとL字型のソファで構成されており、ソファは寝台のように横になることもできます。

実際に乗ってみた

筆者は「DXグリーン」を予約しました。2005(平成17)年に改造のうえ設置された設備で、元々6人用個室だった区画を、1+2列の大型リクライニングシートにしたため、非常にゆったりとしています。座席幅は54cm、リクライニング角度が144度もあり「寝られる」座席です。787系グリーン席でもコンセントがありませんが、「DXグリーン」は1席に2か所あります。惜しむらくは、枕がないことでしょうか。

ほかの席も、博多駅では自由席車両を中心に長蛇の列ができており、普通車指定席もほぼ満席でした。グリーン車は開放室に3人、グリーン個室に2人、DXグリーンに筆者です。

長距離特急ですが、速達型の「ソニック」では2駅しか停車しない博多~小倉間で、「にちりんシーガイア」は6駅に停車します。豪華座席に座りつつ、快速列車のように頻繁に停車するのは、ギャップがあって楽しいです。

8時34分、小倉駅着。ここで進行方向が変わります。普通車の様子を見に行くと、大量の下車があったようで、乗車率は6割ほどになっていました。車内を少々探検します。

3号車は元ビュッフェ車で、ドーム型をした天井の飾りが優美です。座席間隔はここだけ120cmあり、ほかの普通車より20cm広いです。ビュッフェ時代の「セミコンパートメント」はそのまま。2+2列の向かい合わせ座席を半透明壁で仕切った簡易個室ですが、インテリアがよく、座席の座り心地も抜群。大型テーブルも出入りに難儀しません。

扉を備えた多目的室もあります。鎖錠されておらず、誰でも利用可能。ロングシートが設置されカーテンも引けるので、体調が悪い人が横になったり、授乳したりするのにも便利そうです。

4~6号車は開放形の客室で、2+2列のリクライニングシートが並びます。特筆すべきは「大型荷物置き場」があること。現在では当たり前になりつつある設備ですが、787系は20年以上、時代を先取りしているのです。

延岡ユーザーが多い?

小倉で進行方向が変わると、DXグリーンは乗務員室の窓を通じて前面展望が楽しめるようになります。8時51分着の行橋駅や、9時9分着の中津駅は高架化され、新幹線の駅のようです。9時52分着の別府駅では10人以上が降車しましたが、それほど列車内に動きはありません。車窓は別府湾の海の風景が美しいです。

10時8分、大分駅着。30人ほど下車しただけで、乗車率は5割程度をキープしていました。「大分以南に乗り換えなしで行く乗客」が一定数いることがわかります。

大分駅を出ると、大分川、乙津川、大野川の橋梁を立て続けに渡り、幸崎駅付近から佐賀関半島の山越えを行います。佐志生駅付近からはまた海が見え、景色が変わって退屈しません。乗客は11時6分着の佐伯駅で若干降りたくらいで、車内にあまり動きはありません。

佐伯駅を出ると、再び山越えとなります。「宗太郎越え」で知られる山岳区間で、名前の由来となった宗太郎駅は、列車は1日に下り1本、上り2本しか停車しません。隣の駅まで7kmはあるので、観光列車「36ぷらす3」以外では、訪問が難しい秘境駅です。

山越え区間を過ぎると、12時8分に延岡駅着。かなりの人数が下車します。12時12分着の南延岡駅と合わせて、需要の中心と感じました。

未来的なデザインの日向市駅には12時25分着。数人が乗降します。美々津駅を通過した辺りから、車窓にリニアの線路が並行。1996(平成8)年まで実験走行が行われ、現在は線路上が太陽光発電所に転用されています。

高鍋、佐土原の各駅ではほぼ乗降がなく、13時10分に宮崎駅着。ここでグリーン個室を含むかなりの人数が下車し、列車はガラガラに。筆者の主観としては、2~3割くらいが博多からの長距離客と感じました。13時15分、南宮崎駅に到着。10人ほどが下車しました。

宮崎空港旅客機を眺めつつ、13時19分、宮崎空港駅着。5時間48分と長丁場でしたが退屈せず、DXグリーンなら快適で全く疲れが残らないことに驚きます。ただ、車内販売などはないので注意が必要でしょう。

総じて考えると、「にちりんシーガイア」は博多発着の宮崎空港連絡特急というより、宮崎県内の主要駅のニーズを細かく汲み取る乗り換えなしの直通列車として、存在感を示しているのではないでしょうか。

特急「にちりんシーガイア」に使われる787系電車(安藤昌季撮影)。