マンガ『エリア88』では終盤に、建造途中で放置されていたエンタープライズ原子力空母を、非正規軍の傭兵部隊が「空母エリア88」として戦力化する描写があります。現実でこのような無茶は可能なのでしょうか。

空母自体は売りに出されている!?

マンガ『エリア88』では終盤に、建造途中で放置されていたエンタープライズ原子力空母を、非正規軍の傭兵部隊が「空母エリア88」として戦力化する描写があります。作中では、主人公のシンが買い上げ、「ティッシュペーパーから核弾頭までなんでもある」と豪語する武器商人マッコイ爺さんがモスボール(再利用を考えた状態での保管)状態だった同艦を上手く再生しました。

それにしても、非正規軍が空母を所有するなんてことは、現実に可能なのでしょうか。

似たような例ならば2000年代に起きました、ソビエト連邦崩壊後ウクライナに建造途中で放置されていた空母アドミラル・クズネツォフ級の2番艦「ヴァリャーグ」を、中国人民解放軍海軍のペーパーカンパニーが海上カジノに改造すると偽り購入し、「遼寧」として2005年に改装し空母化した事例です。

これは国家が企業を装って購入し、戦力化したものなので若干趣向が違います。しかし、空母を民間企業が買い取ること自体はそれなりにあります。ただ業者が買い取る目的は、艦を解体するためです。

売却価格として最安値は、2013年10月の「フォレスタル」、2014年4月の「サラトガ」、2022年1月の「キティホーク」など、元アメリカ海軍の空母が1セント(約1円)で売られたという事例があります。ちなみに「キティホーク」を例に出すと、1961年に2億6400万ドルで建造された空母で、現在の貨幣価値に換算して約25億ドル(約2800億円)といわれていますので、破格のディスカウントだということがわかります。

この大幅値下げは、船体にアスベストが含まれていたために行われました。ここまで下げないと解体業者が出てこないと判断されたのです。ほかの空母に関しても老朽化やドックの空きの問題で、民間に委託するため格安にしています。解体業者は解体した屑鉄などを売却し、お金にします。

このように、空母を破格の値段で購入すること自体は可能なのです。アメリカ海軍の空母ほどでもなくとも、空母などの大型艦を格安で解体業者に売ること自体は珍しくありません。しかも他国の業者に売るケースも多く、2023年には、ブラジル海軍の空母「サンパウロ」がトルコの解体業者に売却されましたが、アスベストの問題でブラジルに送り返され、そのまま自沈処分したという騒動も起きました。

格安で購入したとしてもその後が大変!!

ただ格安に購入したとしても、維持管理費は別に発生します。アメリカ海軍の1円空母の場合、繋留代だけでも年間1000万円程度といわれています。上手く解体しないで持ち帰ろうとした場合、少なくとも曳航はできる状態を維持する費用も別に発生します。

これに加え、仮に戦力化するとなれば、艦内や動力、飛行甲板などの修理も行わなければならないため、それこそ国家予算規模の資金が必要となります。さらに戦力化の可能性がある場合は、曳航中に海峡などの通行を許可されない場合もあります。

「遼寧」の場合も、トルコのボスポラス海峡とダーダネルス海峡を通過する際に、1年半以上の交渉を行い、数千万ドルもの保険料を払うことで、通行を許可されました。その後の再建化計画でもスクリュープロペラやプロペラシャフト、操舵装置も新たに設計されるなどの修理が行われ、膨大な資金が投入されました。

「遼寧」は中国人民解放軍海軍の軍艦として運用するという目的があり、膨大な国家予算が投じられたため、ちゃんと空母としての機能を持ちました。しかし、非正規軍がこれをやろうとするのは現実的には不可能でしょう。それこそ、『エリア88』のマッコイ爺さんか、『るろうに剣心』で非正規のテロ組織にも関わらず装甲艦を戦力化することに成功した、佐渡島方治クラスの交渉力と闇ルート把握がないと無理かと思われます。

「遼寧」とするために曳航される空母「ヴァリャーグ」(画像:アメリカ海軍)。