
インターネット上での誹謗中傷が社会問題になっています。特に若年層のSNS誹謗中傷トラブルは年々深刻化しており、なかでもいじめの延長として高校生が被害に遭ってしまう事例は少なくありません。では、高校生が誹謗中傷の被害に遭ったら、本人や親は、どのように対処すればよいのでしょうか? 本記事では、高校生が誹謗中傷の被害に遭った場合の対応について、Authense法律事務所の弁護士が解説します。
インターネット上での誹謗中傷の現状
インターネットが普及し、誰もが容易に情報発信ができるようになりました。非常に便利である反面、誹謗中傷などの被害に遭うリスクも高く、これは社会問題ともなっています。
たとえば、テレビのリアリティ番組に出演していたプロレスラーの女性が誹謗中傷の被害に遭い、自ら命を絶ってしまった事件が記憶に新しいかもしれません。また、有名人のみではなく一般の高校生などであっても、誹謗中傷の被害に遭う可能性があります。はじめに、インターネット上での誹謗中傷について、現状を解説していきましょう。
一般社団法人セーファーインターネット協会はインターネット企業有志によって運営される団体であり、誹謗中傷の相談先である「誹謗中傷ホットライン」を開設しています。この一般社団法人セーファーインターネット協会の活動報告によると、誹謗中傷に関する削除依頼件数は、年々増加傾向です。半年ごとに連絡件数と連絡人数を比較すると、次のとおりとなっています※1。
・2020年6月~12月(1,237件/696人)・2021年1月~6月(1,393件/717人)
総務省のプラットフォームサービスに関する研究会の資料によると、過去1年間にX(旧Twitter)やYouTube、Yahoo!ニュースのコメントなど、所定のSNSなどのサービスを利用したと答えた回答者のうち、約半数(50.1%)が他人を傷つけるような投稿(誹謗中傷)目撃しているとのことです※2。
インターネットを利用している以上、誹謗中傷を目にすることは、もはや珍しくないといえるでしょう。
若年層の被害経験が多い
同じく、総務省のプラットフォームサービスに関する研究会の資料によると、過去1年間にSNSなどを利用した人の1割弱(8.9%)が誹謗中書の被害経験があるとしています※2。
SNSなどを利用する人のなかには積極的に書き込みをする人もいる一方で、友人間でのみのやり取りや、他者の投稿を閲覧することなどを主目的にしている人も少なくありません。こうしたなかで利用者の1割弱が誹謗中傷の被害に遭っているというのは、非常に高い割合であるといえるでしょう。
また、誹謗中傷の被害経験を年齢別に見ると、次のようになっています。
・15~19歳:10.9%・20代:16.4%
・30代:10.7%
・40代:7.1%
・50代:8.7%
・60代:4.0%
20代が突出しており、次いで10代、30代が多くなっています。こうしたデータからも、若年層の被害が多い傾向にあるといえるでしょう。
※2 総務省プラットフォームサービスに関する研究会:インターネット上の誹謗中傷情報の流通実態に関するアンケート調査結果
誹謗中傷に対してとり得る法的措置
高校生が誹謗中傷の被害に遭った場合、相手に対してどのような法的措置をとることができるのでしょうか? 主な法的措置は、民事での損害賠償請求と、刑事告訴の2つです。これらの法的措置はいずれか一方のみを行っても構いませんし、両方を行っても構いません。
1 民事:損害賠償請求
民事での損害賠償請求とは、相手に対して、被った損害を金銭で賠償するよう請求することです。損害賠償請求はまず、弁護士が代理して、相手に対して直接行うことが多いでしょう。しかし、相手が支払いを拒んだり、請求を無視したりすることも考えられます。その場合には、裁判を申し立て、裁判上で損害賠償請求を行うこととなります。
また、インターネット上での誹謗中傷の場合には、書き込みをしたのが誰であるのかわからないことも少なくありません。このような場合には、まずコンテンツプロバイダ(X(旧Twitter)社など)やアクセスプロバイダ(NTT社など)から発信者情報の開示を受け、相手を特定するステップが必要となります。
ただし、プロバイダが任意での開示に応じてくれることはほとんどありません。そのため、裁判手続きを利用して、裁判所からプロバイダに対して発信者情報開示の命令を出してもらうことが一般的です。
2 刑事:刑事告訴
刑事告訴とは、犯罪行為の事実を警察などに申告し、犯罪者の処罰を求める意思表示です。告訴は口頭でも可能とされていますが、受理やその後の捜査を円滑にするため、一般的には告訴状を提出して行います。「誹謗中傷罪」という罪はありませんが、誹謗中傷はその内容や態様によって、「名誉毀損罪」や「侮辱罪」などにあたる可能性があります。
告訴状が受理されれば警察にて捜査が行われ、加害者が逮捕される場合もあるでしょう。その後、検察に事件が送致され、検察にて起訴か不起訴かが判断されます。起訴されると略式起訴を除き刑事裁判が開始され、相手の有罪・無罪が決定するという流れです。
有罪となれば、たとえば名誉毀損罪であれば、「3年以下の懲役もしくは禁錮または50万円以下の罰金」に処されます。告訴状の作成は非常に手間がかかりますので、弁護士へ依頼して告訴を行うことをおすすめします。
高校生が誹謗中傷の被害に遭った場合の対応方法
高校生の子供がインターネット上で誹謗中傷の被害に遭ってしまったら、親としては非常にうろたえてしまうかと思います。では、高校生が誹謗中傷の被害に遭ったら、どのように対応すればよいのでしょうか? まず行うべき対処方法は、次のとおりです。
スクリーンショットなどで証拠を残す
誹謗中傷の被害を知ったら、まずはその場で誹謗中傷の証拠を残しましょう。証拠を残す具体的な方法は、誹謗中傷をされた投稿のスクリーンショットを撮影することなどが考えられます。スクリーンショットの撮影で含めておくべき主な内容は、次のとおりです。
・投稿の内容・投稿のURL
・投稿の日時
なお、スマートフォンからの通常のスクリーンショットでは、URLなどが掲載されない場合もあります。そのため、可能であればパソコンから、PDFでのスクリーンショットが撮影できるとよいでしょう。また、スマートフォンしかない場合であっても、画像ではなく、PDFでの保存をおすすめします。
すぐに弁護士に相談する
誹謗中傷の被害に遭ったら、できるだけ早く弁護士にご相談ください。先ほど解説したように、誹謗中傷は刑事告訴や損害賠償請求の対象となり得る行為ですので、法律の専門家である弁護士に相談することが推奨されます。
相談のタイミングは、できれば誹謗中傷の被害を知った当日や翌日などがベストです。なぜなら、誹謗中傷への法的措置は、時間との勝負だからです。できるだけ早期に弁護士へ相談することで、相手の特定などが成功する可能性が高くなるでしょう。
学校に相談する
高校生の誹謗中傷は、非常に残念なことに、同級生など知人によって行われる場合もあります。そのため、誹謗中傷の状況によっては、学校へも相談しておくとよいでしょう。
ただし、学校側がどの程度対応してくれるのかは、状況や学校の考え方などによって異なります。また、学校へ相談する必要があるかどうかもケースバイケースでしょう。そのため、学校へ相談するべきかどうかについても、弁護士と打ち合わせをしたうえで検討することをおすすめします。
高校生が誹謗中傷の被害に遭った場合の「NG対応例」
高校生が誹謗中傷の被害に遭った場合、初動を誤ってしまうと、法的措置が難しくなったり被害が拡大したりするおそれがあります。そのため、本人や親が次の対応をすることはおすすめできません。
相手に直接言い返す
誹謗中傷の被害に遭い、根も葉もないことをインターネット上に書き込まれてしまえば、気分のよいものではないでしょう。相手に反論したり、誤った情報を正したくなったりする気持ちは十分理解できます。
しかし、誹謗中傷への対応としては、これはおすすすめできません。なぜなら、誹謗中傷に反応して相手に言い返してしまうと、火に油を注いでしまい、誹謗中傷の被害が拡大してしまうおそれがあるためです。
また、言い返した内容によっては反対に相手方から「名誉毀損だ」などといわれてしまい、法的措置をとるにあたって不利となる可能性もあるでしょう。そのため、言い返したくなる気持ちはいったんぐっと堪え、反応しないことをおすすめします。
焦って削除請求をする
多くのSNSやインターネット上の掲示板では、運営者や管理者などに対して、投稿の削除請求が可能です。しかし、法的措置を検討しているのであれば、焦って削除請求をすることはおすすめできません。なぜなら、削除請求が認められて投稿が消えてしまえば、法定措置に必要な証拠が消えてしまうこととなるためです。そのため、削除請求をする前に、スクリーンショットなどでしっかりと証拠を残しておきましょう。
また、自分でスクリーンショットを撮った場合にはどうしても抜けや漏れが生じがちであり、弁護士としては、追加での証拠を得たい場合も少なくありません。スクリーンショットを撮ったからといってすぐに削除請求をするのではなく、削除請求をする場合は弁護士へ相談をしたあとに行うとよいでしょう。
自分で調べて対応しようとする
誹謗中傷へのよくある失敗例として、自分で対応しようとして、結果的に法的措置が難しくなるケースが挙げられます。弁護士へ対応を依頼すると、確かに弁護士報酬がかかります。そのため、費用を節約するために、何とか自分で対応しようとする場合もあるでしょう。
しかし、誹謗中傷への法的措置を自分で成功させることは、容易ではありません。相手が誰であるのかを知るための発信者情報開示請求のみであっても、開示請求を受けるためには裁判所が開示請求の妥当性を判断するだけの根拠を提出する必要があり、これには法令の専門知識が不可欠です。
そして、誹謗中傷への法定措置は、時間との勝負であるといっても過言ではありません。なぜなら、時間の経過とともにプロバイダが保存しているログが消されてしまい、発信者情報開示請求をしても、相手の特定が困難となってしまうためです。ログの保存期間はプロバイダによって異なりますが、おおむね3ヵ月から6ヵ月程度とされていることが多いでしょう。そのため、無理に自分で対応しようとせず、すぐに弁護士へご相談ください。
誹謗中傷被害は高校生も例外じゃない…早めに弁護士へ相談を
誹謗中傷が社会問題となっており、その被害に逢うのは高校生であっても例外ではありません。高校生が被害に遭う誹謗中傷は、「いじめ」の延長であることもあるでしょう。行う側は、安易に行っている場合もあるかもしれません。
しかし、誹謗中傷は法的に問題のある行為であり、刑事罰や損害賠償請求の対象にもなり得ます。また、相手が匿名であったとしても、発信者情報開示請求などを行うことで、相手を特定することができる可能性が高いといえます。そのため、誹謗中傷の被害に遭ったら泣き寝入りするのではなく、できるだけ早期に弁護士へご相談ください。

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