元国税調査官で税理士のじてこ先生SASAこと笹圭吾氏のSNSには、お金や税金についての質問や相談が多数寄せられるそうです。その回答を、じてこ先生は著書『あの~~~、1円でも多くお金を残すにはどうしたらいいですか?』(すばる舎)でまとめられています。本連載では、じてこ先生のSNSに届いた質問や相談の中から誰もが気になりそうなものを抜粋して、会話形式で紹介。今回は、自慢突き上げ婦人さんの質問「なぜ夫の年収が高いのに家計が苦しいのか?」を取り上げます。質問者の自慢突き上げ婦人さんは49歳。家族構成は夫55歳(高収入、高学歴、高身長)、長男20歳(慶応大学)、長女17歳(私立高校)です。

年収1,000万円超えでも、実は生活がしんどい?

質問者「先生、ウチの主人は年収1,300万円超えの超・一流企業の役員なんですけど……実はいろいろとストレスが溜まっていますの。先生にぶちまけてもいいかしら?」

じてこ先生SASA「(いや、『お金や税金の質問コーナー』なんやからふつうにアカンやろ……。しかも『一流』に『超』までつける感じ、モンスター相談者でないとええけど……)

ちょ、ちょっと奥さん、人生相談ではないんで、ストレスはぶちまけんといてください。(笑)お金や税金のことについてなら、答えられますけども!」

質問者「そう。でも安心して。お金と税金についてのストレスの話よ。」

じてこ先生SASA「……まぁ、でしたらかまいませんが。奥さん、人生勝ち組の豊かさオーラが滲み出ているじゃないですか? 何か問題があるんですか? 僕なんかのお話で奥さんの何かの救いになるのであれば、どうぞ、お話しください。」

質問者「先生、そこですよ。実は、もう豊かさオーラを出すのに疲れているんです。」

じてこ先生SASA「えっ? どういうことですか?」

質問者「『超・一流企業の会社役員らしく』とか、『超・一流企業の会社役員の妻らしく』するために、いちいち、出費がかさむんですの。

仕事上のお付き合いで主人が飲みに行けば、立場上、会計は主人が持つことが多いですし、お世話になっている方へのお中元やお歳暮なんかも欠かせません。

車もそれなりのものに乗らないといけませんし、住まいも都内の一等地です。子供たちの教育も、恥ずかしくない進路に行かせるために中学受験や高額な進学塾に行かせるとか、セレブらしく振る舞うのって、意外にお金がかかるんですのよ!?

主人が年に1,300万円も稼いでくれているのに、なぜか、全然生活に余裕がないんです!」

じてこ先生SASA「(自分で自分のことをセレブって言うんや……)はー、そうなんですねぇ。なるほどなるほど、所得が高い世帯には、所得が高いゆえの悩みも存在するわけですね。

豪華な生活をして幸せそうに見えても、それが本当に幸せかどうかは別物とも言いますし……。外国の調査では、年収800万円くらいの人が一番、幸福度が高いとするデータもあるみたいですね。」

質問者「そういうものかもしれませんわ。セレブにはセレブの悩みがあるんですの。」

じてこ先生SASA「(……まぁ、セレブ自称には突っ込まんほうがええやろうな・笑)

基本的には、たとえ低収入でも、逆にどんな高収入でも、すべての家庭は無理なく生活できる、身の丈に合った生活レベルを維持するよう気をつけましょう、というアドバイスになりますね。

年収が低い方は、比較的に節約重視の生活ができている、と言うか、そもそもお金がないのでそういう生活を強いられている場合が多いのですが、高収入の方の場合は手元のお金の制約がないので、意外に生活レベルを上げすぎてしまうことが多いようです。

世の中、上には上がいますからね。お金は使おうと思えばいくらでも使えるのですが、年収1,000万円台の人が、年収1億円台の人と同じ生活をしたら、いくら高収入の方でも破綻してしまいますよ。

一度上げた生活レベルはなかなか下げにくいものですが、我慢したり妥協したりできるところから、少しずつ節約的な生活を心がけることをお勧めします。」

質問者「……言いにくいことを、ズバリと言う先生ですわね。」

じてこ先生SASA「どうも、すいません。

会社の仕事関係なら経費にできる

質問者「でも、まぁ確かに、不要な支出については見直さなければいけないんでしょうね。たとえばですけど、主人がお付き合いで会社の人なんかに奢っている飲み会の費用や、お中元・お歳暮などの代金は経費にできないのかしら?」

じてこ先生SASA「旦那さんご本人の税務上の経費にするのはむずかしいですね。ただ、お勤め先の一流企業の会社経費には、できるものがありそうです。つまり、支払い時に会社宛の領収書をもらって、のちほどお勤め先で経費精算してもらう形です。

会社の業務に役立てるために会食したり、お中元・お歳暮を送ったりしているのであれば、ふつうに経費で落とせる支出は多いと思いますよ?

変な見栄をはらずに、会社の経費にできそうなときには細かく領収書をもらうように、旦那さんに相談してみてください。

役員さんにまでなっているのだから、その辺りのさじ加減は、ご本人も十分承知しているはずですよ。ただし、同じ会社の社員同士で、ただ親睦のために飲んでいるような場合には、会社の経費にはできない場合も多いと思います。

……そういえば、私の国税時代の上司なんかも、部下や後輩の指導には信頼関係が大事だと言って、よく自腹で奢っていましたねぇ。」

質問者「そういうところが、サラリーマンは税金の面では損していると言われる原因なのかしら。

会社での人付き合いのために飲んだりしていても、すべては会社の経費にできないことがあって、さらに自分の税金計算のときにも経費にできないのよね?」

じてこ先生SASA「そういうことになりますね。実際、会社経営者なんかだと、経費にできる範囲がサラリーマンよりかなり大きいのは確かです。」

各種税制控除や児童手当でも高収入は不利!

質問者「……ほかにも、セレブだと不利なことって何かあるのかしら?」

じてこ先生SASA「旦那さんの年収が1,300万円以上ということは、税制面では各種控除はほとんど受けられないでしょうね。児童手当についても、もらえなくなりますね。」

質問者「そうなのよね。下の娘ももう高校生だから今は関係ないけど、中学生までの間、息子を含めて児童手当はまったくもらえなかったわ。どのくらい損しているものなのかしら?」

じてこ先生SASA「児童手当は、中学校卒業まで(15歳の誕生日後の3月31日まで)の子供を対象に、少なくとも総額198万円はもらえますね。奥さんの場合はお子さんが2人いらっしゃるので、×2で合計396万円はもらえていない計算になります。

質問者「1人198万円で、2人で396万円!? ほとんど400万円ね。今はちょっと生活が苦しいから、もらえるものならもらいたかったわ。」

じてこ先生SASA「あとですね、これは言わなくてよいことなのかもしれませんけど、この児童手当の給付基準って、各家庭の大黒柱の方の年収が1,200万円以上かどうかで判定されるんです。つまり、夫婦合算した世帯年収で判断されるわけではないんですね。」

質問者「と言うと?」

じてこ先生SASA「たとえば、共働きで年収700万円と600万円の夫婦の場合、世帯年収は奥さんのところと同じ1,300万円なんですが、大黒柱の年収は700万円なので、児童手当をもらえるんです。」

質問者「あらっ! それは知らなかったわ。しかも、税金の計算のときには各種の控除も受けられるのよね。

『超・一流企業の役員の妻です!』みたいな振る舞いをする必要がないから支出も抑えられるでしょうし、もっと言ったら、旦那さんも家事とか育児とか協力してくれそうね……。」

じてこ先生SASA「そうなんですよ。夫婦どちらかが高収入を得るよりも、共働きでお互いにそこそこに稼いでいる夫婦のほうが、いろいろと税金やお金の面では有利なんですよねぇ。『公務員夫婦最強説』を提唱していた同期も昔いましたね。」

質問者「そうなのね……それに比べてウチの主人ときたら、『俺が食わせてやっているんだ』感を出してくるし、仕事の延長線上でなのか自宅でも偉そうにするし……家事もしないし、子育てにも非協力的だったし……私の選択はまちがいだったのかしら?

でも、セレブと言ったら専業主婦だし……ブツブツ……」

じてこ先生SASA「(あかん、完全に自分の世界に入ってしもうた・笑)

あ、ちなみに現在、政府は少子化対策の一環で2024年中には児童手当の所得制限を撤廃することを検討していますから、今後は所得に関わらず、児童手当をもらえるようになるかもしれません。

支給年齢についても、18歳までの延長が検討されていて、これについては東京都など独自に実施を検討している自治体もありますから、もらえる範囲は近く拡大されるかもしれませんね。関連ニュ−スは要チェックです!」

質問者「……ブツブツ……」

じてこ先生SASA「……そんな感じで、お疲れさまでした。次の方どうぞ〜!」

まとめ

・年収が高くても、身の丈に合った生活レベルを維持する必要があるのは同じ。見栄で支出を増やしすぎ、家計が火の車になっているケースは案外多い。

・年収が高いと、恩恵を受けることができない税金計算上の控除があったり、もらえない手当もある。

・政府が進める「異次元の少子化対策」において、児童手当の所得制限の撤廃や支給終了年齢の段階的引き上げ等が議論されているので、今後の動向には注意しておきたい。