防衛省が新年度予算に研究費を計上した新装備「戦闘支援型USV」がナゾを呼んでいます。見た目は潜水艦のような未来感ただようスタイルで、従来のUSVとは一線を画す存在になりそうです。他国の事例から、その使い方が見えてきます。

無人“水上艇”? 防衛省が研究する「戦闘支援USV」

防衛省は2023年8月31日に発表した令和6(2024)年度予算の概算要求に、「戦闘支援型USV(無人水上艇)」の研究費として245億円を計上しました。そこで提示されたイメージイラストが、謎めいた存在としてSNSなどを中心に話題にもなっているようです。

イラストを見ると、ステルス性能を考慮したと思しきデザインの細長い胴体に、潜水艦の司令塔のような構造物を組み合わせ、操舵装置もそうりゅう型潜水艦などに採用されているX舵が使用されているように見受けられます。このイラストだけを見ると「USVじゃなく、UUV(無人潜水艇)じゃないの?」とすら思えてしまいそうなデザインです。

しかしこれは、防衛省が既に実用化されている国内外の大多数のUSVとは一線を画する、本格的な戦闘能力を持つUSVを指向しているが故のことと思われます。

沿岸の警備や機雷の掃討、対潜水艦戦といった「海」の領域でも無人機の活用は進んでおり、世界各国で多数のUSV(無人水上艇)の開発と導入が進められています。日本でも海上自衛隊もがみ型護衛艦へ搭載すべく、機雷の掃討を主任務するUSVが開発されており、2023年3月には横須賀で運用試験が行われています。

もがみ型に搭載されるUSVや、イスラエルラファエルアドバンスド・ディフェンス・システムズが開発した「プロテクター」、シンガポールのSTエンジニアリングが開発した「VENUS」といったUSVは、既存のモーターボートやゴムボートに近い形状のUSVですが、今回の「戦闘支援型USV」は外見一つとっても、これらのUSVとは一線を画したフネになりそうです。

防衛省はこの戦闘支援USVについて「警戒監視や対艦ミサイル発射等の機能を選択的に搭載」できるUSVであると説明しています。こうした用途に応じてセンサーやミサイルランチャーを乗せ換えて様々な任務に対応できるUSVは、各国で開発が進められています。

他国のUSVから戦い方を探ってみた!

2019年2月にUAEアラブ首長国連邦)の首都アブダビで開催された防衛装備展示会「IDEX2019」で、中国船舶工業集団(CSC)がコンセプトモデルを展示した「XLOONG」も、そんなUSVの一つだと筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)は思います。

XLOONGは敵のレーダーに探知されにくい、レーダー反射断面積(RSC)の低減を狙った船体デザインを採用しており、この点も防衛省が構想する戦闘支援USVと共通しています。もう一つの大きな特徴は、船体中央部のモジュール化、つまり用途に応じて様々“載せ替え”が可能になっていることです。

これは、対艦ミサイルランチモジュールロケットランチャーモジュール、センサーモジュールなどを載せ換えることで、情報収集や監視、水上艦艇や航空機との戦闘など、様々な任務に対応することを狙っています。防衛省の戦闘支援USVも多用途性を持たせるのであれば、XLOONGと同様、船体の一部をモジュール化して、任務に応じてモジュールを交換する構造の採用が合理的なのではないかと思われます。

XLOONGは、地上または有人船舶に搭載されたステーションからの遠隔制御のほか、自律航行機能を備えています。中国船舶工業集団は複数のXLOONGが協同して一つの任務にあたる「スウォーム」機能を与える方針も示していますが、防衛省の戦闘支援USVにも、この機能は必要とされるものと思われます。

護衛の用途にはピッタリ 戦闘ヘリ全廃だし…

前にも述べたように防衛省は戦闘支援USVの主な任務として、警戒監視と対艦戦闘を挙げています。その任務としては、島嶼奪還作戦に投入される陸上自衛隊AAV7水陸両用車などの護衛もあると考えられます。

トルコの造船メーカーTAISは2022年11月にインドネシアの首都ジャカルタで開催された防衛装備展示会「インドゥ・ディフェンス2022」に、ミサイルランチャーなどの兵装を搭載するUSVの模型を出展していました。同社の担当者によると、トルコ海軍は同社が開発と建造を手がけたアナドル級強襲揚陸艦で、戦闘能力を備えたUSVの運用を検討しているそうです。

アナドル級には国産水陸両用装甲車「ZAHA」や上陸用舟艇が搭載できますが、それらは水上航行速度が10km/h程度と遅いです。トルコ海軍は、敵の高速水上戦闘艇や航空機からの攻撃の対して脆弱であると考えて、対艦ミサイル対空ミサイル、艦砲などを搭載するUSVに、ZAHAや上陸用舟艇の護衛をさせるという考えに至ったのだそうです。

陸上自衛隊水陸機動団のAAV7水陸両用車も、最大水上航行速度は13km/hで、水上航行中は鈍足であるが故に、敵の高速水上艇や航空機の攻撃には脆弱な存在です。

水陸両用車や上陸用舟艇の援護には本来、小型の高速水上艇や戦闘ヘリコプターが適しています。しかし、海上自衛隊おおすみ型輸送艦に搭載できる小型の水上戦闘艇を保有しておらず、陸上自衛隊戦闘ヘリコプターも将来的には全廃される予定となっています。

今回の戦闘支援USV、そのサイズや速度性能などは未知数ですが、トルコ海軍と同様、AAV7や水上航行速度の低い舟艇の護衛役を務めさせるのも「アリ」なのではないかと筆者は思います。

もがみ型護衛艦。搭載USVの開発が進められているが、それと今回の「戦闘支援型USV」は一線を画すという(画像:海上自衛隊)。