モーリー・ロバートソン「挑発的ニッポン革命計画」「政治家というよりマフィア」。そう揶揄されることもあったドナルド・トランプ前米大統領だが、なんと本当に〝マフィア認定〟されることに!?

『週刊プレイボーイ』で「挑発的ニッポン革命計画」を連載中の国際ジャーナリスト、モーリー・ロバートソンが、前回大統領選をめぐる疑惑の起訴に際し適用された〝まさかの法律〟について解説する。

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アメリカ南部ジョージア州フルトン郡の大陪審が、2020年の大統領選挙後に選挙結果を覆そうと画策した疑惑について、トランプ前大統領を含む19人を起訴しました。

トランプにとっては今年3月(不倫相手への口止め料支払いを巡る疑惑関連)、6月(機密文書持ち出し疑惑関連)、8月上旬(選挙違反疑惑関連)に続く4回目の起訴ということもあってか、日本ではあまり大きく報じられませんでしたが、米メディアは一時、大騒ぎになりました。

その理由は、今回の地区検事が起訴に際して「RICO(威力脅迫および腐敗組織に関する連邦法)」を適用したからです。

RICO法は、主にマフィアや麻薬カルテルの取り締まりを目的として1970年に制定された法律です。その後、適用範囲は企業などにも広がっていますが、大統領経験者に適用されるのはもちろん初めてのことです。

第1次世界大戦後の禁酒法の時代から1970年代に至るまで、アメリカではイタリアマフィアが強大な力を持ち、裏社会を牛耳っていました。ファミリーの結束は非常に固く、メンバーを逮捕してもボスや組織を守るべくシラを切り通すケースが多いため、当局はなかなか本丸まで捜査の手を伸ばすことができませんでした。

しかし、詳細な説明は割愛しますが、RICO法は被疑者や証言者が組織のボス、犯罪の首謀者を「差し出す」ことに強くインセンティブが働く(逆に言えば、シラを切ることに大きなデメリットがある)ような〝アルゴリズム〟を持った法律でした。

実際にその施行後は状況が変わり、アメリカのマフィア弱体化していきます。

トランプのメンターはマフィアの弁護士だった?

ちなみに、当局がマフィアへの圧力を強める中で大ヒットしたのが、名画として今も名高い『ゴッドファーザー』(1972年)です。

男のロマン〟的な世界観を描きつつ、マフィアにも仁義はある、一方的に悪者扱いしてくれるな、というメッセージも込められた映画でしたが、もちろん現実世界で締めつけが緩むことはありませんでした。

もうひとつつけ加えると、そんな〝マフィア対策法〟を適用されたトランプが、ビジネスマン時代に親しく付き合っていたロイ・コーンという悪名高い弁護士がいます。

コーンはアメリカの五大マフィアファミリーのひとつ「ガンビーノ一家」のボスだったジョン・ゴッティの顧問弁護士でもあった人物で、いうなれば「法を守らずに堂々とのさばる」ための方法論を熟知していました。

トランプは彼をメンターとして、「法よりオレが正しい」という生き方を確立させていった面もあるのかもしれません。

ともあれRICO法の適用により、これまでのらりくらりと偽証罪ギリギリの回答をしてきたトランプの〝ファミリー〟たちは、より厳しい状況に追い込まれた形となりました。

今回起訴されたトランプ以外の18人の中で米メディアの注目度が高いのは、トランプ個人の元顧問弁護士であるルディ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長や、トランプ政権末期に最側近だったマーク・メドウズ元首席補佐官。特に、すべてを知っているはずのメドウズは、今のところまだ「ボスを守る」という強い意志を示しています。

これはトランプが来年の大統領選に勝ち、ホワイトハウスに返り咲いた際に、〝忠実な男〟として恩赦を受けることを期待している(逆に言えば、裏切ると恩赦の目がなくなる)からでしょう。

ただし、今回の起訴はRICO法が適用されている上に、連邦ではなく州に属するものなので、有罪となった場合でも大統領に恩赦権限はありません。もしトランプが大統領に返り咲いても、この裁判で有罪となった人物(自身を含む)を恩赦することはできないのです。

メドウズは裁判を州裁から連邦裁へ移させようと画策していますが、今後、ボスを守るインセンティブを失った〝共謀者〟が本当のことをポロポロと証言すると、トランプはいよいよ追い詰められることになります。

コアなトランプ支持者の熱はもう下降線?

また、トランプの最大の武器である〝煽動〟も、すでに封じられつつあります。

自身に批判的なメディアやジャーナリストから、捜査・司法関係者、そして自分のもとを去ったかつての仲間まで、演説やSNSの発信などで罵詈雑言を浴びせることでコアな支持層を煽ってきたトランプですが、RICO法ではそれも「組織犯罪行為」の一部と見なすことができるようです。

さらに、トランプは保釈条件として「証人らをSNSで威圧することの禁止」という足かせもかけられており、まさにがんじがらめです。

もっとも、仮にこうした煽動が禁じられずとも、すでにトランプの「旬」は過ぎているのかもしれません。

今回の起訴直前の8月上旬、トランプを熱烈に支持するミシガン州議会議員が、2020年の大統領選に関連する疑惑で起訴されている自身の妻の裁判費用を集めるパーティの席上で「もうアメリカは内乱を起こすしかない。みんなで銃を持って戦おう!」というトンデモ発言をしました。

そして、あろうことかトランプはこれに反応して「裁判所に集まれ!」と決起を呼びかけました。

ところが、ふたを開けてみれば......まったく人は集まりませんでした。2年半前の連邦議会議事堂襲撃事件の熱気は、もう遠い過去のようです。

確かに現在、トランプは共和党内の大統領候補指名争いで独走しています。しかし、コアな支持層の熱量が下降線をたどっているとすれば、起訴されたことさえも〝燃料〟にして熱狂を持続させていくというトランプのもくろみどおりにはいかないでしょう。

2016年から続いてきたトランプとその支持層による〝祭り〟は終焉に向かっている―そんな雰囲気が漂いつつある気がしてなりません。

モーリー・ロバートソン(Morley Robertson)
国際ジャーナリスト。ミュージシャン。1963年生まれ、米ニューヨーク出身。ニュース解説、コメンテーターなどでのメディア出演多数

週刊プレイボーイでコラム「挑発的ニッポン革命計画」を連載中のモーリー・ロバートソン氏