近年、JR各社を中心とする鉄道会社は、通勤形車両の改良を進めています。ここ数年で登場した新型車両は、それまでは見られなかった設備も多くあります。今回は、JR東日本の最新型E235系1000番台の特徴を紹介します。

紙広告は減らすはずだった?

通勤形電車といえば、ロングシートの座席とつり革以外はほとんど設備もなく、殺風景な車両というイメージがありましたが、近年はサービス改善の動きが顕著です。フリーWi-Fiや空気清浄器が装備されたり、地下鉄直通車両でトイレが設置されたりもしています。

そうした最新の通勤形電車はJRでも取り入れられています。今回はJR東日本で2020年に営業運転を開始した「E235系1000番台」を取り上げます。

ベースとなったE235系2015(平成27)年より量産試作車が製造された系列で、初めは山手線に投入されました。工業デザイナーの奥山清行氏が監修しています。その前頭部形状から、鉄道ファンより「電子レンジ」の愛称でも知られています。

E235系最大の特徴は、広告枠の変化です。従来の紙媒体による中吊り広告を、デジタルサイネージで置き換えるため、側扉間の荷物棚の上に21.5インチのモニター3基を並べて配置し、映像で広告を流すようにしたのです。

広告映像は、モニターごとでもモニターを連結させた形でも表示できるため、紙媒体の広告よりも自由度の高い広告掲載が可能となりました。紙媒体の減少により、すっきりした車内空間が実現するはずでしたが、広告会社からの要望で、中吊りなどの紙媒体広告は存続しています。

総武線快速と横須賀線用1000番台の特徴

接客設備関連の改良としては、乗車データを元に、大量乗車の前に車両内を冷やしておく冷房装置や、パナソニック製の「nanoe(ナノイー)」空気清浄器の搭載、各車両1か所のフリースペース設置(E235系では床の一部が赤くなり、大きな文字で「優先席」と表示)、デザインを一新したロングシートの設置などが挙げられます。

鉄道のみならずバスや航空機などの座席を“座り比べた”経験のある、座席鉄の筆者(安藤昌季:乗りものライター)は、E235系のロングシートはかなりよい出来だと感じます。前々代のE231系と比較して座面が深くなり、クッション性も向上したため、長時間乗車でも比較的快適に過ごせます。

では本題のE235系1000番台へ話を進めます。総武線快速横須賀線で活躍する1000番台は、普通車でも台車に横揺れを軽減するヨーダンパが設置され、乗り心地が向上しています。客車内には防犯カメラが設置されました。普通車のトイレは全て、車いす対応の大型洋式トイレとなっています。

また、自身の機器や地上側設備、架線、線路などの状態を監視するモニタリング技術も初めて搭載しました。これにより、異常の兆候を事前に察知し、早めの対策を取ることが可能となっています。そして異常時には、客室内のモニター全てで情報提供を行えます。さらにJR東日本の車両として初めて、停電時でも避難しやすい場所まで列車を動かせる非常走行用電源装置も備えました。

上野東京ラインなどへも普及する?

普通車の座席は山手線と同じで、総武快速線横須賀線の従来型E217系よりも1人当たりの座席幅が1cm増の46cmとなっています。E217系にあったボックスシートは廃止されましたが、総合的に見て快適性は増したと感じます。

E235系列初のグリーン車も、E217系E233系などと比べて改良されています。最大の特徴は、肘掛に備え付けられた全座席へのコンセントでしょう。無料公衆無線LANサービスも提供されています。車端部には、大型の液晶ディスプレイが設置され、これまでよりもきめ細かい情報を、より大きな文字で眺められるようになりました。

座席自体は従来の形式とそれほど変わりませんが、着座感に優れ、必要充分にリクライニングもします。ただJR東日本では、特急普通車で導入されている枕の設置がないのは残念です。とはいえ、普通列車で想定される長時間乗車でも充分に快適だと感じます。

上野東京ライン湘南新宿ラインのE231・E233系もいずれ、新型車両に置き換わると思いますが、E235系1000番台は乗客本位の改良がなされた車両であり、運用線区の拡大に期待したいと思います。

JR総武快速線と横須賀線で使われるE235系電車1000番台(安藤昌季撮影)。