かつて北朝鮮と中国の間を行き来していた列車やバスには、大量のキャリーバッグが積み込まれていた。それも、日本で一般的に使われる機内持ち込みサイズのものではなく、非常に大きなものだった。中国にいる親戚を訪れるとの目的で出国した人が、北朝鮮で売る品物を大量に買い付けて、キャリーバッグに詰め込んで帰国していたのだ。

3年7カ月にわたるコロナ鎖国でそんな風景も見られなくなり、国内の移動すら統制されたため、キャリーバッグの需要も落ち込み、中国から輸入もできなくなってしまっていた。しかし、先月から中国との人の行き来が再開されたことにより、買い求めようとする人も急増している。咸鏡南道(ハムギョンナムド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

咸興(ハムン)市内の市場では、キャリーバッグが欲しいと問い合わせる客が急増しているが、完全に在庫がなくなってから1年以上経ち、商人は売りたくても売れない状況だという。

コロナ禍で輸入が難しくなった製品の多くは国産で代用されるようになったが、キャリー付きのバッグだけは国内での製造ができておらず、売買ができない状況だ。ただ、なぜ製造できないかの理由はわからないとのことだ。

上述の通り、去年まではキャリーバッグの在庫があったものの、買い求める人はほとんどいなかった、しかし、コロナの状況が落ち着くに連れ、国内出張や政治行事などで平壌や他の大都市に行く幹部や一般国民が増えて、需要が再び増えた。一度に多くの荷物が入れられて、キャリーが付いているため運びやすく、パスワードで鍵がかけられるため、窃盗などの犯罪が多い現在でも安心して使えるなど、メリットだらけだ。

ちなみにお値段だが、現在は300元(約6000円)から1000元(約2万円)。需要が多いとは言え、食品のように大量に売れるものではないので、国境沿いの地域に輸入された少量を取り寄せて販売している。

国境沿いにある両江道(リャンガンド)恵山(ヘサン)でも、キャリーバッグが手に入れられない状況だと、現地のデイリーNK内部情報筋は伝えている。

同市に住むある住民は先月、平壌にいる家族が入院したため、面会に行こうとキャリーバッグを買いに市場に行った。ところが、隅々まで探しても結局見つけられなかったという。重い荷物を運ぶ不便さを考えてこの人は、キャリーバッグを持っていそうな近隣の人々に電話で尋ねてようやく借りることができた。

国境を通じた人と物の行き来は再開されたものの、恵山の税関は未だに開いていない。密輸業者も国境が再び開き、キャリーバッグをはじめとした、絵さんの市場には出回っていないものを持ち込もうと待っている。しかし、解決は時間の問題だろうと、この情報筋は見ている。

コロナ前に密輸が横行し、政府が最も問題視している地域だけあって、国境の行き来の再開が遅れているようだが、地域経済が輸入に頼っているため、ずっと国境を閉めておくわけにはいかないのだろう。業者も市民も、その瞬間を今か今かと待ち構えている。

国は、すべての貿易を司る「国家貿易指導処体制」の確立を目指していたが、人々の勢いに押されて、コロナ前のような猫も杓子も輸入に携わるような状況に戻ってしまうのかも知れない。

2016年3月12日朝に撮影した、中国丹東の北朝鮮レストランレストランの従業員が集団で出勤する様子(画像:デイリーNKソル・ソンア記者)