給食室のいちにち
『給食室のいちにち』(大塚菜生:著、イシヤマアズサ:イラスト/少年写真新聞社)

 夏休みが終わる。小学生にとって、最後に残りがちな夏休みの宿題が、読書感想文だ。本のチョイスによっても、書きやすさが変わってくる。親としては、わが子にとって相性が良さそうな本を勧めてみたい。

 読書感想文用に人気急増の本がある。『給食室のいちにち』(大塚菜生:著、イシヤマアズサ:イラスト/少年写真新聞社)だ。本書は、小学生にとって非常に馴染み深い「給食室」の様子が描かれた一冊。給食室はどのような構造になっているのか、どういった過程で毎日の給食ができあがるのか、そしてどんな人たちがどんな想いでつくっているのか。本書は、病院の給食室での勤務経験がある、児童文学作家であり、食べ物コミックエッセイで人気の画家が、給食室をほんわかした柔らかいタッチながら内容はリアルに描いている。また、文字数が少ない絵本であり、読書が苦手な低学年生でも20分あれば読了できるのも、人気を集める理由のひとつだ。

 さて、本書は主人公の栄養士・山川さんの目線を通じて語られる。現場となるみどり小学校で一緒に働く調理員たち7人は、みんなユニークだ。経歴や国籍、見た目や個性が様々ながらリアリティがあり、「あぁ、こんな人ほんとにいそうだな」と思わせられる。

 給食室で働く人といえば白衣のイメージだが、当然ながら出勤前は私服だ。午前7時30分、学校に着くと体調チェックをし、白衣に着替える。ネットの上に帽子をかぶり、全身にローラーをかけ、ほこりや髪の毛がないか互いにチェックする。手洗いは2回、ブラシを使って爪の先まで綺麗にする。これらの流れが細かく描かれている。

 小学生に人気の給食メニューといえば、やはりカレーライスだ。カレーの肉は透明のビニール袋に入れて運ばれてくる。手作業での異物混入チェック、検温器での温度チェックの様子なども丁寧に描き出されている。8人で450人分のカレーライスをつくるには、役割分担や協力体制が必要だ。チームワークの大切さを感じられる。また、ごはんやカレーが余らないよう、その日の状況によって打ち合わせをしてからつくっていくのが、本書でわかる。

 ルウが入ると、良い匂いがしてきて食欲をそそる。本書で注目してほしいと感じたのは、匂いの描写だ。金色に輝くシルクで作られた帯が幾重にも漂うような描き方がされていて、読んでいて本当にカレーの匂いが香ってくるかのよう。反射的にお腹が鳴る。

 ほとんどの小学生が知らないことも紹介されている。後日食中毒などが起きたときに調べるため50グラムの保存用をビニール袋に入れて2週間保存しておくこと、毎日の給食を最初に食べる人は検食係でもある校長先生であること、返ってきた食器やトレイは1枚ずつ手洗いした後あつあつの風で殺菌乾燥させることなど、こういったトピックも読書感想文で書きやすいそうだ。

 巻末には「給食室マップ」という立体間取り図があり、これをじっくり見ているだけでも「あぁ、野菜は下処理室で処理されて、この窓から給食室に渡されるんだな」「配膳室と洗浄室が繋がっていないのは、食中毒を起こさないためなのかな」など、様々な気付きを得られそうだ。

 20分で読み終えられるものの、読み込もうと思えば何時間でも楽しめる情報量が詰め込まれている本書。読書感想文の書き方は無限にありそうだ。

文=ルートつつみ(@root223)

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